Dancing Woman 〜キューバ②〜
キューバ2日目
目覚め。そうだ、キューバにいるんだった。ぐっすりと眠った感覚。深い眠りから覚めると、もう外は明るくなっていた。
私たちが泊まっていた部屋から出て、リビングの方に行くと昨日は暗くて見えなかった景色が窓の外に広がっていた。
ここがキューバなのか。昨夜の暗がりから打って変わって目の前に広がるキューバは色とりどりの建物と青い空、そして海。まだ何もキューバのことを味わっていないけど、その景色を見ただけでなんだかすがすがしく開放的な気持ちになった。民泊の主はいないようで、私たち以外に、誰も家にはいなかった。
朝ごはんは近くのカフェで。アメリカ大使館から近いので、外国人用カフェのようだった。値段も外国人価格。キューバンサンドイッチとマンゴーシェイクを頼む。サンドイッチはハムやら野菜やら具が盛り沢山で美味しい。勝手に食料が少ないとか色々な想像をしていたので、サンドイッチのクオリティと食べ応えに感動した。確か、サンドイッチは5CUCとかで、シェイクは2CUC(1CUC=1USドル※CUC兌換ペソは現在は廃止)とかそんなかんじだったはず。観光客価格にしても安い。
腹ごしらえをしたら、マレコンの方歩いていく。マレコンは地元民の憩いの海岸沿いのエリアだ。海岸沿いの防波堤に座れるようになっていて、夕方ぐらいになると地元民と観光客が思い思いにそれぞれの時間を過ごす場所。
マレコン沿いをてくてくてく歩いていると、キューバの日差しが体に刺さる。太陽ビームが強すぎて苦しくなってくる。目的地まではまだかなりあるみたいだし、途中からバイクに荷台が引っ張られてるみたいな荷台タクシーに乗ることにした。キューバに来たら、色とりどりのクラッシックカーに乗ってみたいと思っていたけど、前を過ぎ去る素敵なクラッシックカーは先客を乗せていた。おんぼろ荷台タクシーのお兄さんは何やら葉巻やら野球選手のTシャツやらを私たちに売りたかったようだけど、色々見せても興味は示すけど、買おうとしない私たちに諦めがついたのか、とっとと目的地まで送ってくれた。
目的地の街中に到着。今日は観光バス(バスの上がオープン席になっていて、風を浴びながら市内を回れる)に乗って、ハバナの主要地をぐるっと回ることにした。良かれと思って、上のオープン席に座るも、またもや日差しビームの洗礼をくらう。日差しが強すぎて、熱中症になるのではないかというレベルまでいく。途中トイレ休憩があったから、そこの売店で水とビールを購入。水を一気に体に補給し、その後はビールを流し込む。カリビアンで飲むビールはうまいのなんのって。
前にインターネットで見て、キューバに来たら生で見たいと思っていた行政区画の建物の前を通る。ゲバラ、カミロ、キューバの革命に貢献し、今は亡き偉人たちの姿がモチーフとなっている建物。素直に素敵だなと思った。キューバには、広告がほとんどない。キューバに来る前にそのことは聞いてはいたけど、ここまで広告がないということには驚かせられた。カストロやらゲバラの顔が宣伝のように街中に見えるということは、なんだか独裁国家のように見えるのかな?と思っていたけれど、実際見るそれらのスローガンやら建物は、すがすがしいくらいに明るい雰囲気だった。社会主義=暗いというのは旧ソ連や昔の中国から受けたイメージで、キューバは社会主義という言葉だけでは括れない何か別のそこに根付く文化を肌でひしひしと感じることができた。
観光バスでのハバナ一周を終えて、セルベッセリア(ビアホール)で昼食を取り、ハバナクラブのラム博物館へ向かう。ここでは陽気なお姉さんがラムの歴史や作り方をレクチャーしてくれた後、キューバ産ラムの試飲ができる。カリブの海賊といえば、専らラム酒を飲んでるイメージだけど、この地で作られたラムも飲んでいたのだろうかとラム酒をちびちび舐めながら、一人でむっつり遠い昔に思いをはせる(根拠もない勝手な妄想の世界です)。
博物館後はほろ酔いで歩いていたけど、やはり日差しビームに負ける。タクシーを拾い、我らが民泊に戻る。夜までお昼寝タイムにしよう。涼しい部屋で仮眠をとり、涼しくなる夜を待つ。
夕飯時に目を覚まし、外に出た。起き抜けの気だるいかんじで、レストラン行く気分ではなくて、海岸沿いのマレコンに引き寄せられるようにてくてく歩く。なんだかお祭りムードの屋台が並んでいる一画を発見。フライドチキンとあげたて芋チップス、ビールを買い、マレコンの防波堤で食べることにした。
このとき、あることにとてつもなく感動した。とある屋台のおじさんから芋チップスを購入したときのこと。お金を渡し、芋チップスを受け取ろうとするとおじさんが芋チップスの中身を見て一言。「これはもうダメだな。今揚げたてをやるからちょっと待て」的なことを言い放った。食べようと思えば普通に食べれるチップスだったが、冷めているからもうだめらしい。揚げたてをさっと、紙の箱に入れてくれて、にこっとスマイルをキメたおじさんは最高にプロフェッショナルの芋揚げ師であった。ビールと共につまんだ、少し甘くて、塩がきいている芋チップスを私は一生忘れないと思う。私は自分の中で勝手に偏見を作り上げていた。キューバという国は社会主義の国だからこのようなサービス精神旺盛な出来事は起きないと、どこかで決めつけていた。資本主義の国でだって、このような心あたたまるちょっとした出来ごとはなかなか起きない。だから、旅はいい。小さなことに驚き、感動し、自分の前提や偏見に気づくことができる。
マレコンの防波堤では、ただひたすら目の前の人とビールを飲み、語らい、暗がりに広がる海を眺めた。携帯電話を見ることもなく、ただただ時間の流れに身をまかせた。こんな贅沢な時間を過ごしたのはとても久しぶりだった。私たちは便利なものに囲まれているけれど、インターネットが限られた場所でしか使えないキューバだからこそ、こんなに目の前のことに当たりまえに集中できるのだろう。贅沢な時間を過ごすことの大切さに気がつけた。
日本にいるときより、帰り道の足取りも遅く、のっそりのっそりと宿へ帰る。今日もシャワーを浴びて、ゆっくり寝よう。また明日旅をするために。