Dancing Woman 〜キューバ①〜
旅の始まり。メキシコのグアダラハラからの旅の続きなのに、新たな旅の始まりのような気持ち。
夜遅く、暗い空港に降り立った。空港内に電気は灯っているのにとても暗く感じた。もわっと肌にまとわりつくような湿った空気。夜なのに暑い。今までに感じたことのないような空気感、雰囲気。
預け荷物が出てくるまで、ひどく長い間待ったような気がする。空港を出るまでのことをあまり覚えていないし、印象があまりない。覚えているのは、これまでに訪れたことのない場所、全く違う社会システムを持つ場所でこれから数日過ごす未知の体験への緊張感と、ずっと来てみたかった場所にやっと来られたことの嬉しさ、これから過ごす時間への期待感、ワクワク感。
空港を出た後、出てすぐのところにあるカンビオ(両替所)に行った。日本円からは両替できないかと思っていたけど、できるようなので日本円からキューバの兌換ペソ✳︎CUCへ両替する。
本当にキューバへ来たんだ。 (✳︎兌換ペソは外国人用の通貨。現地の人が使う通貨は別に存在していたが、今は通貨が一本化されてCUCはなくなったらしい。)
メキシコから一緒に来た彼(現夫)はスペイン語が母語なので、この旅の中で言葉に困ることはないだろう。非常に心強い。空港の前に並ぶタクシーに乗り込む。行き先はAirbnbで予約したカサ(民泊)だ。
市内まで一律25CUC(25ドル程)だった。どのぐらいの間、タクシーに乗っていただろう。覚えていないけど、体感としてはだいたい30分から1時間というところだろうか(全然違っている可能性あり)。空港からオレンジの光が灯る長い一本道を抜け、途中暗闇が続く。
ちらほら明かり。
市内に入るとハバナ大学の前やカストロが長い演説をしたことで有名なホセマルティ✳︎の記念碑の脇などを通り、気持ちが高まる。(✳︎ホセマルティはキューバ建国の父と呼ばれカストロが尊敬する偉大な人物)
ワクワクが高まる一方で、予約していた民泊の主とは途中から音信不通(質問に返事が返って来ない)になっていたので、「本当に今晩泊まることができるかどうか」と、不安な気持ちも高まった。返事が帰って来ないということは、不安要素でしかないけれど、どこでもインターネットを使うことができるわけではない、キューバならではの出来事であるということを今なら振り返って思い直す余裕がある。
私たちが泊まった民泊はハバナ市内のべダドという地区にある。ハバナの中では比較的背の高い、新しめのマンションだ。暗い中タクシーを降り、マンションの入り口の明かりを目指すと、おじいさんが外のイスに腰を掛けて待っていた。そのおじいさんから鍵を受け取り、部屋に入る。
あのおじいさんはどのぐらいの間あそこで待っていたのだろうか。
そもそもおじいさんはどのような立場の人なのだろう。
マンションの一室の中の一部屋を間借りするタイプだったが、その夜は私たちの他に誰もいなかった。私たちが泊まる部屋にはガンガン冷房がかかっていて、部屋は既に冷えていて、寒いくらいだった。
ザーザーと映りの超絶悪いテレビとシングルベットが2つ。小さい冷蔵庫の中には水とビール(キューバのビール、ブカネロ)が入っている。疲れた体に冷たいビールを流しこみながら、荷をほどき、ベッド脇のラックに服をかける。
それから両替したお金をベッドの上で数えた。
旅をするとき、泊まった先のベッドでお金を数えるのが私は好きだ。この行為は、これから始まる新たな旅への、「よしっ、このお金で、この場所で、少しの間生活するぞ!」という始まりの儀式のようなもの。
ジブリ映画の魔女の宅急便の中で、主人公のキキが辿り着いた港町のパン屋で住み込みで働くことになり、これから始まる生活のためにベッドの上でお金を数えるシーンがある。そのシーンが好きなので、旅をするときは同じようにしている。
お金を数えた後、水圧の弱いシャワーを浴びて、泥のように眠りについた。キューバ初日は数時間で終わりを迎えた。