喪失感新婚旅行 [9] 札幌・石狩 あたたかい家族
富良野のホステルをチェックアウトして、まずコインランドリーで大量の衣類を洗濯して、回転寿司を食べに行った。
富良野は北海道の海なしエリアにあるので、海がない群馬とは面積以外は少し似ている気がしたが、回転寿司のクオリティは半端ない。
さすが北海道である。回転寿司と言って侮ってはならない。本当に美味しかった。
寿司が大好きな夫は、たらふく食べて満足げだった。もともと寿司は狂うほど好きと言うわけでは無い私も、北海道の回転寿司が大好きになった。あら汁も最高だ。
衣類の洗濯が終わり、荷物の整理も出来たところで私たちは札幌へ向かった。
富良野から札幌までは車で2時間半。北海道内の移動はまさに大陸移動だなぁと思ったし、ガソリンスタンドを見つけたらすぐに給油した方が良いというのが分かった。
札幌へ近づくにつれ、都会らしくなってきた。
時計台の前を通り、地下街の駐車場に車を停めて、夫が行きたいと言っていた洋服屋へ行き、再び地下街へ戻った。
地下街はものすごく暖かかった。アウターを脱いで、冷たい飲み物をごくごく飲みたくなるくらいの温度だった。しかも地下街はめちゃくちゃ広いので、さっきまで歩いていた地上のその下に、雨も雪も、寒さも気にしなくて良い暖かい素敵なスポットがあったなんて!と、感激して胸がドキドキした。
この地下街を網羅したら、ものすごくスマートにお買い物が出来そうだ。
歩き疲れたので、夫とコーヒー屋さんで休憩をしていた。チョコレートのケーキも食べた覚えがある。
この日から、石狩に暮らす富樫さんのお家に泊まらせていただくことになっていた。
帰りのフェリーの予約はしていないから、何日滞在するかわからないという旨を伝えると、富樫さんは、
「いいよ!全然、ゆっくりしてってよ〜。」
と、声を掛けてくれた。結果的に私たちはお言葉に甘えまくり、本当に何日もお世話になってしまった。
富樫さん宅に到着して、富良野で爆買いしてきた北の国からグッズをお披露目した。
黒板五郎ジャンパーに、黒板五郎帽子を被って、黒板五郎に扮した夫に富樫さんは爆笑、奥さんは失笑していた。奥さんに抱っこされている一才の娘さんのゆきちゃんはケラケラと笑っていた。
この日の夜は富樫さんと札幌に出かけた。ちょうどこの頃の札幌は、コロナ感染者数が急増していたので、すすきのエリアには行かないことにしたが、富樫さんの運転で、すすきのエリアがどんなものなのかを見せてもらえた。
交差点のニッカのおじちゃんのでっかい看板は有名だ。小さい頃もここを訪れた記憶があって、この看板のことはよく覚えている。
すすきのを通り過ぎて、回転寿司屋に入った。その後はクラフトビールを取り扱う、コアなバーのような、不思議な雰囲気のお店に行った。本当に不思議で唯一無二な世界観に私は痺れた。クラフトビールの空き缶が、天井まで続く棚にぎっちりと並べられ、棚と棚との間にはモニターが天井から吊る下げられていて、モニターからは2000年代のMTVがひたすら流れていた。
その年代、私はちょうど小学生で、親の影響から洋楽に触れる機会が多かったため、とてつもなくエモーショナルな感情になった。今思えば、オマセな小学生だ。
たったの10歳くらいの子供がMTVを観る。それが好きかどうかは別として、当時MTVで放送されていたミュージックビデオに私は疑問ばかり抱いていた記憶があった。
MTVであの頃の記憶が蘇り、大好きなクラフトビールを飲みながそれに浸ることが出来る…このお店の世界観、どうなってるんだ?と、お店のオーナーらしき人に色々と聞きたくなったけれど、どうやら忙しそうだったので辞めた。
この日の最後、富樫さんはとっておきだと言うバーに連れて行ってくれた。
特別な日に訪れるような素敵なバーで、札幌の夜景を眺めながらロマンチックな気分だった。
他の席のロマンチックムードの人々はどんなことを話しているんだろう、とふと思った。
色々妄想しつつも、もっぱら私たちの話題は火事のこと。
でも、富樫さんはとても明るい人なので、火事のことを話してもあまり悲しい気持ちにはならなかった。むしろ、前向きな気持ちにしてくれる。凄い人だ。
この日から数日間は翌日の予定は決めずに過ごした。
富樫家の皆んなと回転寿司を食べに行ったり、宅飲みをしたり、ドライブに出掛けてみたり…
今までは宿のチェックインとチェックアウトに合わせて動いていたので、少し緊張感が解れた気がした。