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喪失感新婚旅行 [19] 浜松 蕎麦が飲み物になった日

浜松に到着して、ビジネスホテルのチェックインの時間まで少し余裕があったので、砂丘へ行ってみようということになった。
砂丘といえば鳥取。鳥取は遠いから砂丘に訪れることは無いだろうと思っていたけれど、まさか浜松にあったなんて。と、ちょっと驚きだった。

駐車場に車を停めて砂丘まで歩く。この日は雲ひとつないくらいの秋晴れで、11月下旬にしては暖かく、昼間は上着を着なくても過ごせるくらい快適だったので、砂丘の散歩にはぴったりな日だった。そして、夫は半袖だった。

私は群馬に生まれ、群馬で育ち、人生のほとんどを群馬で過ごしてきた。県外に暮らしたこともないから、特に海が近くある暮らしは羨ましく思う。

砂丘は予想以上に大きかった。柔らかい砂の上をフカフカと歩きながら、その先にある海まで行き、大きい石に座ってしばらく景色を眺めていた。
少し風が強くて、顔がジャリジャリした。

砂丘の乾いたベージュ色と、海のぬらっとした輝き、その不思議なコントラストにただただ見惚れた。
海は絶えず音を鳴らし続けて、まるで生きているみたいに見えた。
もし海のあるところに生まれ育ったら私はどんな人になっていただろう。海のあるところに来るとそう考えることがある。
海を題材にした小説に、主人公が仕事終わりに海に入ってプカプカと浮かび、物思いにふけるというシーンがあって、何だか素敵なので、やってみたいと思っていることのひとつだ。

そして、
海といえば、小学生の頃行った臨海学校。
ありえないほど日焼けをして、お風呂に入るのが痛かった思い出。
幼い頃に、家族と親戚とその友達で離島の民宿に連泊して海水浴をした思い出もある。
今でもあの民宿はやっているのだろうか。
海を眺めれば眺めるほど、私の記憶はどんどん解凍され、わんさか思い出が蘇るので、胸がきゅっと締め付けられてしまう。

風も強くなってきたので、私たちは砂丘からビジネスホテルへと向かった。
この日の夜は、行きたい蕎麦屋さんがあるのでそこで晩ごはんを食べる予定だった。

チェックインした後、その蕎麦屋さんは人気店ということで早めに向かうことにした。
しかし、営業が始まったばかりの時間帯でも、既に満席で、私たちの他にあと2組くらいが待っている状況だった。凄すぎる…
1時間待ちだと伝えられたので、予約を入れて一旦ビジネスホテルへ戻った。
ホテルが歩いて5分くらいの距離だから、良かった。

しばらくダラダラと予約時間まで待ち、また蕎麦屋さんへ向かう。
そんなに人気なのかぁ…どんな蕎麦なんだろうと、わくわくした。

私たちは蕎麦と、天ぷらの盛り合わせと、日本酒を注文した。最高の組み合わせ。

蕎麦屋さんで蕎麦湯まで飲み干すことはあまりないのだが(塩分の摂りすぎで翌日顔が浮腫んでしまうため)、ここでは最後の1滴まで飲み干すくらい美味しかった。
蕎麦も咀嚼した覚えがないくらいに、無我夢中で食べた、というかもはや飲んでいたと思う。
美味しいとついつい、咀嚼することを忘れてしまう。新潟のバスセンターのカレーもそうだった。
時間を戻して、蕎麦がテーブルに運ばれてくるところからやり直したい。
そしてゆっくりと味わいたい…。胃の中の蕎麦よ、私を楽しませてくれてありがとう。

少しだけ街をブラブラして、ホテルへ戻り、ゆっくりとお風呂に入って、就寝した。

次に向かう先は奥多摩。
私たちの最後の宿泊先である。



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