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スマホの裏側

掃除機をかけていたら、白い羽根がふわふわと舞って落ちてきた。
それはゆっくりとテーブルの上に落ち着いた。
私はそれを拾って、ゴミ箱へと捨てようとしたが、なぜだか捨てられず、しばらく眺めた。
白い羽根の一部だ。
三センチほどに短く切れた羽根の一部を、ゴミだとは思えずに、側に置いておきたいと思ってしまった。
 
これはきっと、天使が落としていった羽根にちがいない。
 
どこに保管しておけばいいのかしばらく考え、スマホのケースの裏側に、栞のように挟んでおいた。
赤色の半透明のスマホケースに、天使の羽根が綺麗に収まった。
私はスマホを触る度、それを見ては癒された。普通、スマホと言ったら画面を見るものだが、それからというもの裏面を見ることが多くなった。裏面に栞のように挟んだ羽根の一部を眺めては、どんな天使様が落としていったんだろうと考えた。
 
「なんでスマホの裏見てるの? 逆逆。大丈夫?」
 
職場の同僚は、引き気味で指摘した。
私は、新しいギャグだよ。と言い、羽根がばれないように手のひらで隠した。
 
言っておくが、私は病気ではない。
そんな話をリアル世界でしたならば病気だと思われる案件だが、決して私は病気ではない。天使の存在を信じているだけのことだ。
 
夜、眠る前、娘が私のスマホの裏側にある天使の羽根に気づいた。
「それは何?」
と、私のスマホの裏側をのぞきこむ。
それから、「あ、これ…」と呟いた。
 
「そう。天使の羽根が落ちてたから、しまっておいたの」
 
すごいでしょ? 綺麗でしょ? と、共感を求めたら、娘は笑いをこらえるような顔をして、言いづらそうに、「その羽根、天使のじゃないよ」と、しまいには笑いだした。
 
私は娘の反応に驚いた。
 
「あのね、それはね、わたしがお布団をぶわぶわしてたら・・・」
 
「ちょっと待った!! それ以上聞きたくない!! ホントは分かってる。でも私にとってこれは天使の羽根なの!」
 
この羽根は何かを主張している。圧倒的な存在感で私を魅了する。この羽根はそこら辺の鳥の羽根だとは思えない。二割ほどは鳥なのかもしれないと思う私がいるが、八割は天使の羽根だと信じている。

「この前布団から何かがピュっと出てたから・・・」
「そう。分かった。分かったよ。知ってるけど、これは天使の羽根。私の中では天使の羽根なんだもん!」
 
私と娘は、スマホの裏側にある羽根を見つめて、しばらく黙った。
娘はクスクスと笑い出す。
なぜ笑うのか。
そうやって子供は成長するうち、サンタクロースの存在も、ピーターパンの存在も、架空のものとして忘れていくのだろうか。
考えさせられた。
そして、これが天使の羽根だと信じている痛い私に、二割の私が「そろそろオトナになったら」と、突っ込みを入れる。
 
「・・・そうだね。とてもきれいな羽根だから、天使のかもしれないね」
 
娘の方が、私よりも大分オトナのような気がした。
 

 

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