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セレブ気分

娘が縮毛強制をしてもらう間、私は美容院の待合いにあった雑誌を見ていた。
私は雑誌をめったに読まない。自分が施術をしてもらっている時は、美容師さんから適当に私が読むだろう雑誌を見繕って鏡の前の棚に置かれる。
なるほどなるほどと思わされる。私のようなアラフォーが好きそうな雑誌が積み重ねられている。私はひねくれ者だ。大抵どんなに施術の間の待ち時間が長くとも、美容師さんが私が読みそうだと予測した雑誌を開くことはしない。興味のない本は一頁も開きたくないのだ。そんな時は耳にイヤホンをしてユーチューブを観るか、noteを開くかだ。ただ、とある雑誌の表紙を見た時、私の心は『見たい!』と揺れた。その雑誌を見る時だけは、熱い視線で頁を燃やしてしまうんじゃないかと思うほどに真剣に見る。そして有益な情報を脳細胞に焼きつけるのだ。

その雑誌に出会ってからというもの、わざわざそれを買うことはないが、美容院へと訪れた時は必ずその雑誌から情報を収集するようになった。
雑誌名は忘れたが、あらゆる生活用品がユーザーに試して使われ、ありのままの評価をするものだ。化粧品から生活用品、掃除のアイテムやら生活全般の多岐に渡る日常に欠かせない便利アイテムの使い心地が事細かに書かれてある、とっても為になる雑誌だ。私はその雑誌の名を毎回忘れてしまうが、美容院に行ったならなぜか引き寄せられるようにその雑誌を手に取れる。私はそれの発している情報を全集中し、今しかないと脳細胞に焼きつけるのだ。

娘の髪がサラサラのストレートヘアになった頃、私の脳細胞にはいくつかの便利アイテムが焼き付いていた。焼き付いたなら手に入れたいと思ってしまう。できれば生活便利アイテムを、100均で手に入れたいと思うのだ。

「かわい~。イイ感じ~。サラッサラ。いいな~。私も来週予約しようかな~」
そう褒めちぎると、娘もサラサラの髪を触っては、照れたように笑みをこぼした。
私は娘のサラサラの黒髪を触りながら、いつものように「これから100均行きたいな」と誘った。
美容院の後は100円ショップへと寄り道をして帰るのが私たちのルーティンだ。
娘は「ワタシ絵を描くノートが欲しい!」と乗り気だ。
私たちは最寄りのお気に入りの100円ショップへと車を走らせた。
 
100円ショップの門をくぐる。買い物かごを持った時からは、そこはアミューズメントパークに変わる。私たちは店の棚から棚を物色するのだ。瞳は多分輝いている。

「これカッコイイ。このお椀でお味噌汁飲んだら一層美味しくなりそう!」

食器コーナーで娘が目をつけたのは、渋いダークブラウンの色味の和テイストのお椀だった。娘の好物の一つは味噌汁だ。たしかに我が家にある味噌汁を入れる器は白い洋風のものである。味噌汁と言ったら和の雰囲気の器で頂きたいのだろう。私の購入センサーは『OK』とゴーサインを出した。我が家のメンバーは私と娘と息子の三人だが、たまに週末に遊びにやってくる友人の分の四つのお椀を買い物かごに入れた。

娘の趣味の絵を描くノートと、それを保管するクリアファイル。消しゴム。綺麗な色をしたスティックのり。様々な棚を物色し、購入センサーが『OK』と言えば買い物かごへと入れた。洗濯物を干す時のバスタオルサイズのワイドなハンガーと出会った時には非常に感動した。こんな便利アイテム、美容院にある雑誌にも載っていなかった。いつの時代からあったんだろうと、知らずに損していた時間を取り返すかのように何本かをカゴへと入れた。
あんなに面倒だと思っていた洗濯物干しなのに、無駄に洗濯をして早くこのアイテムを使ってみたいと思うほどにテンションが上がった。
 
最近の家庭科の授業で裁縫を習った娘は、小物作りにハマっている。フェルトをいくつか選んで、
「こんなにも買ってお母さんお金あるの?」
と心配気だ。
「遠慮なんてしなくていいよ。今欲しいと思うものが無駄かどうか心に聞いてみて。必要なら買うべきもの。心配しなくて大丈夫。ここは100均なんだから」
私は娘の手の中にあるフェルトの束を買い物かごへと入れた。『OKゴーゴー!』だ。
私たちはセレブ気分を味わった。

それからいくつかの棚を物色していると、美容院の雑誌から脳細胞に焼き付けた類似品アイテムを発見した。
キッチンの流しの蛇口に引っかけて、食器洗いのスポンジをワイヤーに挟み込むスタイリッシュなアイテムだ。素材を確認するとステンレス。つまり錆びないアイテムだ。スポンジ入れを吸盤でシンクにくっつけるタイプのものには日々うんざりとしていた。吸盤が汚くなる。こまめにキッチン泡ハイターで漂白するという一手間が、蛇口にワイヤーで引っかけるタイプならば無くなる。見た目も美しいし、場所も取らない。私が求めていたのはこれだ! 購入センサーは『ウェルカム!!』だった。私は買い物かごにそれを入れた。
100円ショップを隅から隅まで物色し、私たちの買い物かごは山盛りになった。すべてが無駄ではない、私と娘の購入センサーが『OK』と言ったものたち。お会計は3000円ほどで済まされた。

棚から棚まで全部くださいと言った感じでセレブ買いしたというのに、お会計は財布に優しかった。こんなストレス発散はなかなかない。心はウキウキとして、それらを使う自分たちを想像すれば楽しくて仕方がない。

「一番大きな袋、お願いします」

レジのお姉さんにお願いすると、サンタが背負うような大きなレジ袋がカゴに入れられた。私たちはその白い大袋に品物達をパズルをするかのように詰め込み100円ショップを後にした。
私は大袋を右肩に引っかけるように持ち、

「私、サンタみたいじゃない?」

駐車場でサンタスタイルでモデル歩きをすると、娘は吹き出して笑った。
セレブごっこを楽しんだ私たちは、人目もはばからず笑いながら、愛車の中古の軽に乗り込んだ。


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