しろいたまの進化
雪が降っている。
強い風とともに大粒の雪が舞っているというのに、一人外にいた。
昼休みは屋外にあるベンチに腰掛け、60分間を過ごすことが日課となっている。
今日は大雪で、刺さるほどの寒さだというのに、ここへと来てしまった。どこまで皆勤賞を狙いたいのか知らないが、よほど私はこの場所が好きなようだ。
目の前の山々は白くて美しいが、ちらつく雪を真剣に見つめることはしない。めまい持ちの私にはちらつく雪は見ない方が良い気がする。吹いてくる風に背中を向け、スマホ画面を見つめた。吐く息は白くておもしろい。
雪を見ると、年明けの大雪の日のことを思い出す。雪降りの日は、どうしても白い玉のことを思い、後悔するのだ。
大雪警報が出た元旦の朝、何年か振りに雪が積もっていた。娘と姪っ子達に雪で遊ぼとしつこく誘われたが、寒さのあまり頑なに断った。私はその時、暖かい部屋で犬を抱きながら、noteの世界を楽しんでいた。雪の寒い日に外で遊ぶなどという選択肢は、その時には全くなかったのだ。
しばらく経って、姪っ子たちは寒さに耐えきれず家の中へと帰ってきたが、娘だけがなかなか帰ってこなかった。私は特に気にせず、暖かい部屋の中で犬を抱き、時間を忘れてnoteの世界にいた。
やっと帰ってきた娘に「すごいもの作ったから来て!」と連れられて、いやいや庭へと出ると、そこには大きな雪の玉が置かれてあった。白くていびつな大きな玉だ。
「なんじゃこれ・・・」
そんな心の声をもらしてしまったほど、その作品は未完成に見えたのだ。そんなにも自慢して見せたいものなのか不思議に思ったが、小さい雪の玉からだんだんと大きい玉ができていく過程がおもしろかったのだろうと勝手に解釈し、その作品を受け入れ、褒めてみた。
それからというもの、雪が降る度にあの大きな白い玉の事を思い出してしまう。
娘にとって完成品だった白い玉のその後を見てみたいのだ。
あの時、大きな白い玉に、もう一つ小さな白い玉を置き、おもしろい顔を付けて、雪だるまにすればよかったと悔やまれる。その時雪だるまの提案はしてみたが、娘はこれでいいと言っていた。正直私も雪の世界の中で寒さに身を置きたくなかったので、雪の白い玉はそれで完成品だと納得させたのだ。
でも、未だに違和感が心の中に残っている。娘の世界では、ただの大きな雪の玉で完成品なのだろうけど、そのまま終わらせても良かったのだろうか。
白い玉のその後はまだあると思いたい。
大きな雪の玉を作った達成感で、そこがゴールだと思っている娘に、ポケモンのように進化する雪の玉を見せ、感動を与えることも出来たはずだ。もしもそれが気に入らなかったら、雪だるまの頭を地に落とし、ただの白い玉に戻せばいいだけの事だった。なぜ私はあの時、一緒になって子供のように楽しく遊ぶことができなかったのだろう。大バカものだ。雪があんなにも積もることなんて珍しいのに。珍しいそんな日の思い出を、娘だけの思い出にさせてしまった。もったいない。私という人間は、寒さとめんどくささに負けたのだ。雪の白い玉に限らず日常の些細な事でも、私にはそんなところがある。後からそれを悔やみ、もっとこうすれば良かったと反省させられるのだ。
大きな白い玉を進化させる計画。
別に雪だるまじゃなくても良い。娘が気に入らなかったら、ただの白い玉に戻す。戻したのなら、この前よりももっと大きな白い玉に成長させるのだ。二人の力で雪の玉を転がせば、もっとずっとべらぼうに大きな白い玉ができるはずだろう。
雪がちらつくと、どうしてもそんなことを考えてしまうのだ。翌朝大抵雪は積もらず、進化系の雪の玉は作れなくなる。しかし今日の雪の降り方は激しい。明日は休日。これは神が私に与えて下さったチャンスなのかもしれない。
もう一度、あの日の続きをしてみたい。
雪が降る中、外にあるベンチには、さすがに誰も来やしない。
スマホを持つ左手も痺れて、フリック入力をする右の人差し指の感覚もなくなってきた。上手く文字が打てない。白かった吐く息は、そのうち色を失った。
明日もしも雪が積もったら、白い玉をどんなふうに進化させようか。娘はどんな進化をさせるのだろうか。そんなくだらない事を想像する。
雪がこれでもかと言うほどに激しく降っているのに、少しあたたかくなった気がした。
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