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カラスの友達リスト
最近カラスを近くで見る機会が多い。
毎朝職場の秘密基地のベンチに腰掛け、スマホを触りながら、就業10分前まで時間を潰す。
それから厨房の外壁とフェンスの間の細い道を歩いて職員玄関へと向かうのだ。
その時、大抵カラスが通り道に止まっている。
毎朝カラスは私の姿を確認すると、とても親切にフェンスへと退いて私に道を譲ってくれるのだ。
今日はそんなカラスが二羽もいて、私は嬉しいような怖いような、そんな気分で彼らの前をゆっくりと歩いた。今日こそはじっくりと彼らを見てやろうと決心したのだ。
これほどの近くでカラスを見ると、かなりの迫力があった。
カラスは黒くて大きい。
私が羽織っている黒色のパーカーよりも数段濃くて深みがあった。おまけに艶もあり美しい。
まるでシャンプーのCMに出てくる黒髪の美女のようだと見惚れてしまった。
きっと今日も彼らが私に会いに来てくれたのだと、ドキドキとしながら彼らを見るが、少しも目が合わない。
私はその視線の先を辿ってみた。
厨房の外には水色のポリバケツが五つ置かれてある。その中の一つに裂けたような穴が空いていた。そこから生ゴミ入りのビニール袋がはみ出し、もうすぐで破けそうになっている。
つまりカラス達は、あの隙間から飛び出したゴミ袋に穴を開け、ご馳走にありつこうという魂胆だったようだ。
私は彼らが毎朝私に会いに来てくれるのかと淡い思いを抱いていたが、そうでは無いと知り、少し残念に思った。
あのカラス達と仲良くなれれば、私の肩にスっと止まってくれたり、おはようの『カァー!』と、元気よく挨拶をしてくれたりと、なんだか楽しい秘密基地でのひと時を過ごせそうだと期待したが、彼らは私などには少しも興味がなさそうだった。
彼らが今一番興味があるのは、ポリバケツからはみ出したゴミ袋の中身のみだ。
もしも私があのポリバケツの蓋を開けたなら、彼らは私を仲間だと認めてくれるのだろうか……。
いや、そんなことをしたら厨房の人に迷惑をかけることになる。
でもいいじゃないか。私とバレなければいい。
サッと蓋を開けて、『蓋を開けてあげたのは私だよ~!』とアピールするかのように顔をカラスたちに覚えさせ、早業で立ち去れば行けるんじゃないだろうか。
カラスは憎らしい人間を脳内のブラックリストに載せ、その人間を見つける度に仕返しをする頭の良さがあるらしい。
ならばカラスにとっての『親切な人間』であっても、彼らは脳内の友達リストに載せ、戯れに来てくれるんじゃなかろうか……。
そんな妄想を繰り広げ、私は結局ポリバケツの蓋を開けない世界線を選んだ。
明日はどうしようか……。