やんちゃなシャワーヘッド
今日もシャワーヘッドが吹っ飛んできた。
それを引っ掛けるフックの左側が壊れているのが原因だ。
フックの形を説明させてもらうと、この文字列の上側が私で、下側が壁の『U』の字だ。その左側がほとんど欠けている状態。つまり『J』みたいになっている。それにかろうじて引っ掛けていたのだ。
最初は行儀よく『J』に引っかかり、居るべき所からお湯を噴射してくれるのだが、5分程が経ち、緊張を緩めた頃に激しく飛び跳ねてきて罪もない私の顔面に逆噴射という仕打ちをしてくる。
いつもなら舌打ちでもするところだが、今日の私はオトナだった。
ああ、そんな頃もあったよな……。と、懐かしさに頬が緩んでしまったのだ。
私はしばらくの間、荒れ狂うシャワーヘッドを見守った。
暴言を吐かずに冷静でいられるのは、シャワーヘッドに過去の子供たちのやんちゃっぷりが重なったからだ。
あの頃の子供たちはスーパーへと連れて行く度に、
「お菓子買ってよ~!!」と、ひっくり返った虫みたいに駄々をこねていた。私は毎度それに嫌気がさしていた。人目も気になった。だけどもシングルマザーの私は子供が欲しがる沢山のお菓子を買ってあげる余裕すら無かったのだ……。
そんなほろ苦い思い出は、今では胸が温かくなる思い出へと変化していることに気がついた。
シャワーヘッドを引っ掛けるフックは2年前から壊れている。
壊れたままにしていたから気づけた、ほろ苦い思い出……。
今更直す必要も無い。
ここを引っ越すその日まで『J』のままで放置だ。
私は何度でも壊れたフックに立てかけ、シャワーヘッドは吹っ飛び続けて私に逆噴射してくるのだろう。
だとしても、今日の気づきで一皮剥けた私は、
はいはい、分かりましたよ。
と、微笑ましく見守るだけだ。