机の上の教科書達
息子がイチオシの収納方法は、床収納というものだ。
床収納といっても、ただ自分の部屋の床一面に教科書などを散らばらせているだけの、収納とは言えないものだ。私から言わせれば、それはただの散らかり放題の汚部屋だ。
以前私は、息子にそれについて注意したのだが、息子は床収納だと言い張る。床に教科書を散らばらせていたほうが本棚に収納しているよりも断然探しやすく見つけやすい、画期的な収納なのだとアホなことを言うのだ。
その件について、私は口では勝てなかった。
そんなニュータイプの、私から言わせればアホな収納方法に対して、何も言えないまま悶々としていたのだ。
そして、我慢の限界がピークに達した私は、さらにニュータイプの収納方法を息子に提案した。
「あのさ、床収納はどう考えてもおかしいと思う。教科書に対して罰当たりだと思うの。足で踏みつける床に大切な教科書を散りばめるのは、なんだか教科書たちが可愛そうでならないし。だから、せめて勉強机収納にしない?」
私の思いと息子の思い、お互いが歩み寄れる収納方法だと考えたのだ。
息子は最近、分散登校が休みの日のリモート授業や課題など、勉強は食卓のテーブルでやっている。
ただ単に、勉強机も物で溢れかえり、スペースがないからそうしているだけなのかもしれないが、勉強机を使わないのなら、机の上に乱雑に置いてある仮面ライダーのフィギュアだとかそういったものを整理し、教科書達を机一面に、神経衰弱のトランプのように並べれば良いじゃないのかと思った。そうすれば、縦収納でなく表表紙がこちらを向いているわけだから、必要な教科書が探しやすいというわけだ。
「これからは床より断然、机だよ! 拾う時に屈んで腰が痛くなったりしないし! 机収納、どう?」
私は真面目な顔と、揺らがないぞという声色で息子に詰め寄った。
息子は私の熱意に押されて、
「昼に学校から戻ったらやるよ」
と約束してくれた。
私は、勝った! と心の中でガッツポーズをした。
嬉しい! やっと床の上のひどい散らかり放題の教科書やら参考書やら、プリント類のゴミやらをどうにかできるのだ。
早速午後から、机収納を始めるための、息子の部屋の整理整頓をした。
そして、ニュータイプの床収納からさらに進化した、超ニュータイプの勉強机収納が始まった。
床には何一つ散らばっていなく、掃除機もスラスラとかけやすくなり、床も教科書達もキラキラとして喜んでいるように見えた。なにより、部屋の空気が新鮮で輝いてみえるのだ。
「これこれ、これよ。これが人間の生活するべき空間なのよ!」
私の心まで浄化されたように思える。
「やっぱ、部屋がキレイって気持ちいいね!」
私は上機嫌に両手を天に広げた。
「そうだね!」
と息子は頷き、スッキリしたような表情で笑顔をみせた。
ほら、やっぱり机収納バンザイだ。
しかし、2日後に息子の部屋を覗いたら、3冊程の教科書が床に散らばって落ちていた。
私はその様を見て、悲しくなった。
教科書たちが、『たすけてよ~』と言って泣いているように見えたのだ。
なんて残酷な、むごいことを・・・!
息子は、また床収納に戻そうと考えているのだろうか。私の知らぬうちに、徐々にそうしようと企んでいるのだろうか・・・。あの時、清々しい顔をして喜んでいたのは、かりそめの姿だったというのか・・・? それともただ単にめんどくさいというそれだけの、だらしの無さなのか。どっちにしろ、教科書に対する愛情が全く感じられない・・・!
頑固なヤツめ・・・!
私は今度は絶対負けない。
息子の机収納を定着させるのだ。
習慣化させ、なんとしても床収納への逆戻りは阻止しようと心に誓った。
私は床に落ちている教科書たちを拾い上げ、
『 かわいそうに・・・、これからも一緒に戦おうね!』
心の中で、教科書たちを励ました。
それから大切に、その子たちを勉強机に並べておいた。