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弾けないギター
息子がギターが欲しいと言い出した時の話だ。
持っているのになぜ欲しいのか問うと、アコースティックギターというものが欲しいらしく、初心者向けで色々と安価なものが売っているらしいのだ。
「このアコギがめっちゃカッコ良くて、しかも安いから買ったよ」
と、息子はAmazonサイトで購入したギターの商品画像を見せてきた。
黒塗りの、見た目がかっこいい雰囲気のあるギターだった。
息子が自分でネットで稼いだAmazonチケットで買ったものだから、そのお金はどう使っても息子の自由だと思い、
「めっちゃかっこいいじゃん! 届くのが楽しみだね! 私もそのギター持ってカッコつけて写真撮ってもいい?」
べた褒めした。
息子は照れ臭そうに、
「いいよ~。最初に俺が弾いてからね」
と笑った。
翌日、配送履歴を見ながら、今か今かとウキウキしていたところで、インターホンが鳴った。
息子は待ってましたと言わんばかりに受け取りをしに玄関へと走っていった。
それからすぐ、雄叫びが聞こえてきた。
「なんで!? なんでー?」
荷物を受け取った息子が持ってきた段ボール箱は、異常に小さかった。
息子は十センチ四方の箱を持って、アホ面をしている。
「ちっさ! なんで? ギターじゃないの? もしかして、ギターの部品が先に届いたの?」
私もビックリだ。
息子は興奮気味に箱を開ける。
中には、黒塗りのかっこいい雰囲気のあるギターのブローチがたたずんでいた。
「なにこれー! なにこのバッジはー!」
俺はこんなものを買ってない! と逆ギレをしながらAmazonサイトを確認する。
私もスマホ画面を覗き見した。
商品名に、
”アコースティックギター ブローチ”
と書かれてあった。
値段は3000円。
私は腹を抱えながら大爆笑をした。
息子はちくしょ~と悔しがり、段ボールをぐちゃぐちゃに潰した。
「あのさー、ギターが3000円で買えるはずないし。でも、ブローチにしては高いな~」
私は笑いが止まらない。
息子は悔しくて悔しくてどうしようもない様子だ。
「お母さん返品してよ!」
息子が声を荒げる。
返品理由に”本当のギターと間違えて注文しました”なんて書けない。
「私が買い取るよ。面白いから」
私は欲しくもないギターのブローチを通勤用の鞄に飾ることにした。
その黒塗りのかっこいい雰囲気のあるブローチを見るたび、笑ってしまう。
こんなに楽しい思いにさせてくれるのなら、このブローチはかなりコスパが良い。
私は何度目かの思い出し笑いをするのだった。