衣装選びから見えたクリエイティブ
お二人の衣装選びで思うこと。
この作業は、本当に繊細で難しい。
毎回違うクリエイティブがそこにはあって、いつもとても悩むし苦しくて。だけど、はっとさせられるような、潜在的な二人の想いに思いがけず触れさせていただく、奇跡みたいなことも起きたりする。
ツイートもしたんだけど、もう少し深めたいからここに忘備録として書いてみようと思います。私の、衣装選びのこと。
衣装をアドバイスする時、みなさんは何を基準にしているのだろう。
お二人に似合うから。
会場の雰囲気に合うから。
結婚式のコンセプトに添っているから。
二人が、これが着たい、
これが好きだと言ったから。
どれも正解だし、でも正解はきっと一つではなくて、これらの要素を組み合わせて様々な視点から分析しながら選んでいくのだと思う。
もちろん私もそうしています。
だけど、二人という別々の人間の衣装を同時にコーディネイトするから、時々、こんな悩みにぶつかることがある。
『ひとりひとりは、この衣装が似合っているけど
二人で並ぶとしっくりこない。』
『私は、彼にこの色を着て欲しいけど
私が選んでいる衣装とは
別の色の方が合っている。』
『彼がこっちがいいって言ったけど、
私は別の衣装の方が実は気に入っている。』
ここの意見を、明確に言葉に出して考えていかれるお二人もいれば、言葉に出せずに、小さな信号だけ発信しているお二人もいる。
私やスタイリストさんは、それを受けてそれぞれに考察します。
最近、黒・茶色・クリーム色のご新郎様の衣装選びでとことん悩む事があって。
(花嫁様のお衣装は前回決まっていました)
事前の私からのリクエストは、利休色。
灰色と茶色とカーキの間、みたいな色です。
ぴったりの色は難しかったので、ドレスショップでは雰囲気の近い茶色をご準備くださいました。ぱっと見は『これかな』と思いながら試着をはじめました。
黒は、私がいつもオーソドックスを大事にするからきっとスタイリストさんが用意してくれていて、クリーム色は、花嫁様の選んでいる衣装に合わせて、こちらもスタイリストさんが見立ててくれたもの。
黒、茶、クリーム、と試着が進みます。
彼女にも衣装を着ていただいて。
正直、お顔立ちが整ったお二人だったので、どの衣装もとてもよく似合っていました。
中でも、お二人が興味を示し迷ったのが、茶色とクリーム色。
彼が一人で着ている時には、茶色がいいと言った彼女。ただ、二人で並んだ時には、クリーム色が二人の一体感をより高めました。
なぜそれが起きるのか。
花嫁様の衣装の全体の雰囲気が可愛らしい系なのに対して、茶色はちょっと渋めの柄だったからコーディネイトという観点では距離感が生まれてしまったのも一つ。
ただ、もちろん悪くはない。
クリーム色は、色こそ明るめですが、柄が細やかで主張が薄い。寄り添って花嫁様の衣装を引き立てている。
私は、答えのない俯瞰の見解を、事実としてだけ言葉にして並べます。
二人はお互いの想いを探りながら、もう一度考えます。はっきりとした希望は出てこなくて。
どちらが似合っているかは、正直わずかな差でした。
どちらを選んでも間違いではないレベル。
クリエイターとしての私の脳内では、実は、パーソナルカラー的に彼に一番似合ったのは黒。だけど花嫁の衣装と並べるとコントラストが強すぎる。
茶色は悪くないが、それぞれの衣装デザインの方向性に乖離がある。
この中で、明確な美しい写真の仕上がりイメージが降りてきたのはクリーム色。
だけど、この時にはまだそれは口にできません。
こんな時、過去に何度も
『でも、最終的に【直感で自分が一番好きと思ったもの】を選ぶのが良いと思います』
とアドバイスをするシーンを何度も見てきた。
もちろん、それも大切な要素ではあるけれど。
だけど、プロの最終アドバイスがそこだったとしたら、付き添ってきてくれたお母さんやお友達からのアドバイスと何か差が生まれているのだろうか、と、疑問に思ってしまう。
また、苦しいのが、自分の脳内にクリーム色がある、という事実。気をつけなければ『私の好き』を押し付けることになってしまう。
こんな時、私は、自分の感情や創作意欲を意識的にスポイルし続けている。
二人の結婚写真は、【私の作品】ではない。作品としてみるなら間違いなくクリーム色の方がクオリティは高い。だけど、とことんその感覚を疑う。私の言葉に私の希望が載っていないか。本当に茶色にはこの結婚写真の完成度でクリーム色の価値を上回る要素を持っていないのか。そして、二人が最終意思決定をする際に、何を判断基準にすることが二人にとってのベストなのか・・・
そこでもう一度考えるために、それぞれに質問をする。
彼女は『どちらも似合っているのだけど、やっぱり彼一人を見たら、茶色がいいなとも思う。だけど、二人並ぶとやっぱりしっくりこない。クリーム色の方が、二人で合わせた感じがする。』と言う。
そこで彼に『正直、自分のことだけ考えて、一番馴染んだというか、しっくりきたのは(茶色とクリーム色の)どちらがよかったですか?』ともう一度問いかけた。茶色との答えだったら、茶色でフィックスさせ、デザインの乖離は、あとでどうにか考えようと心に決めて。
だけど、彼が指さしたのは、なんと、黒。
『自分が、一番しっくりきたのは、正直言って黒です。これが成人式の衣装選びなら、僕は黒を選ぶ。だけど僕は、この結婚式は、彼女がやりたいと言ったところから始まっているから、丸投げしているとかのネガティブな意味じゃなくて、ただ、純粋に、彼女の希望をかなえてあげたいんです。それと、できれば自分を主張するのではなくて、彼女を引き立てられるものを着たい。』
一瞬、息をのんだ。
そうか、なんだ。そっかそっか。そもそも、彼の『好き』は、茶色でもクリーム色でもなかったんだ。最初から彼女に合わせると心に決めていた彼は、自分の希望は1ミリも出していなかった。彼にとっての結婚式とは彼女に寄り添う事であり、それが、彼の深い愛情なのだ。
二人の、心の奥にある柔らかいものに触れさせていただいた私の感性が直覚でそれを感じ取り、お二人への最終プレゼンテーションが動く。
『では、お二人が、10年後にこの写真を開いたとき、今の、それぞれの【かっこよさ・可愛らしさを自分らしく記録したベストショット】が見たいと思うか、二人で意見をすり合わせて、【一緒に創作した結婚写真という作品】を見たいと思うか、もっと言うと、この撮影の日を、未来でどんな1日として感じたいと考えますか?』と、問うてみる。
彼女の瞳がきらりと輝く。
彼は、そっと『両方とても素敵な考え方だ』と、言った。
その刹那に。
『確かに両方素敵な考え方です。でも私は、彼のその意見もとても嬉しいけれど、結婚式は、やっぱり二人で、彼と一緒に創りたい。そういう写真を残したい。だから、二人でひとつになれる写真が撮りたいです。クリーム色がいい。』
能動的にはっきりと、その言葉が彼女の口から出た。二人の心が交わったことによりもたらされた、どちらにも寄らない二人の真ん中に生まれた最適解として。
『夫婦になるいま、二人でひとつになって生きていくことを噛みしめたい。前撮影や結婚式では、それを味わう事ができる1日を過ごしたい。未来には二人でひとつのものを創ったという事実を感じ続けて生きていきたい。だから私たちはそうあれる結婚式を挙げるための選択をする。』
前撮影だけでなく、今、この準備期間という日々と結婚式当日、そして、未来にまでも感じ続ける事ができる一つの明確な意味をご自身たちの会話から導き出した二人。
私はこみ上げる涙をぐっと堪えました。
人と人は、こうして少しずつ夫婦になっていく。
そこまでしなくても良いのかもしれない。
『二人が着たいと思ったものを自由に着せてあげたら良いじゃないか。』
それが、平和で穏やかな事なのかもしれない。
だけど、外見はいちばん外側の内面。真実を写すと書く写真には、そのすべてが写る。最終的に写真として残るものは、もう、今日この瞬間から創られ始めている。
周りの人から『それくらい、妥協しろよ』と言われる事がある。
それくらい・・・という言葉は、私の胸を強く抉る。もし、最終的に私が諦めてしまったら、一体誰がこの結婚式を美しく磨くというのだろう。
どんなに磨いても磨いても私はその完成をみることはおそらくない。
結婚式の評価は、二人が人生を終える時に、その一連の長い曲線の一部分として振り返り、自分たちで決めることだと思うから。
そして、人生とは選択の連続であり、豊かな人生とは自分で納得して選び取ってきて今があるのだと思えることだと私は考えている。
要は、どう生きても間違いはなくて、きっと全て正解なんだけど、そこに後悔があるかないか、ということ。
後悔は少ない方がいい。
自分たちが生きた時を『この人生がよかったんだ』としっかり自分たちの手で抱きしめてあげるためにも。
帰り際、
『今日まで、結婚式にまつわることの決め方、準備の仕方、考え方、わからなかったけど、今日それが見えて嬉しかったです。』
と彼女が言ってくれました。
結婚式を創るということは、人生を創るということ。こんな事があった日はとても苦しくもあるのだけれど、尊いお仕事をさせていただいているのだということを改めて痛感させられます。そして、全てのお二人を心から愛おしく思い、彼らの人生に心砕き続ける生き方を応援していただいているような気持ちになる事ができるのです。
誰にどんなに言われても、私の五感と六感が、二人から発せられる何かを感じ取っている限りは最初からの妥協なんて絶対にしない。お二人の心の温度やベクトルを敏感に探りながら、諦めずに、ギリギリ、お二人にとってちょうど良いところまで美しく磨き上げ、結婚式を通してその人生をブラッシュアップさせる事が私のクリエイティブなのだから。
明日からも、いつになってもたどり着く事ができない、ウエディングプランナー像のあるべき姿を追い求め、私らしく精一杯生き抜いて行きたいと思います!