本好きと相性がよい街、松本に行ってきた話
先日、2泊3日で長野県松本市周辺を訪れた。松本は実は映画「流浪の月」のロケ地で、映画の8割が松本で撮影された。古き良き城下町のレトロな風情と現代的な趣が交互に立ち現れる街は、不思議と小説の世界をも彷彿させる。思いがけず本に関連する場所を回ることが多かったので、今回巡った4つの施設について紹介したい。
日常に溶け込むブックカフェ「栞日 sioribi」
「栞日」は松本駅からまっすぐ歩いた通りに佇むブックカフェ。1階はカフェスペース、2階はオーナーさんをはじめとするスタッフさん選りすぐりの本が並べられたギャラリースペースになっている。一般流通にはなかなか上がらない個人出版の本や、インディーズの本に手書きの紹介文が添えられていて、眺めているだけで楽しい。
打ちっぱなしの内装やむき出しの本棚も味わい深く、カメラを構えたお客さんも見受けられる。一人で本を読んでいる人がいたり、ゆったりコーヒーを味わっている人がいたり、なんだか時間がゆったりと流れている感覚になった。
📍栞日 sioribi
▲住所 | 〒390-0815 長野県松本市深志3-7-8
▲TEL | 0263-50-5967
▲営業時間 | 7:00-20:00
▲定休日 | 水曜
アイスコーヒーを飲んで一息ついた後はバスに乗り、駅から少し離れたところにある浅間温泉街を訪ねた。この際に乗車したアルピコ路線バスは、映画内で主人公の更紗がバイト先とマンションを行き来するシーンで利用されている。
本に浸かるブックホテル「松本本箱」
浅間温泉街の中核ともいえる「松本本箱」は、豊かな知と出会うためのブックホテル。玄関を入って左手はブックストアになっており、宿泊者だけでなく一般の人も予約制で入場できる。棚によってエリア分けされた本たちはすべて手に取ってじっくり閲覧することができ、気に入った本は購入することが可能だ。選書のテーマも現代に沿った様々な工夫がされており、思わぬ本との出会いがたくさん生まれる。
ブックストアの内装も、昔ながらの建物の記憶を引き継いでいるかのような色遣いや仕掛けにあふれている。温泉施設をリニューアルしたブックバス「オトナ本箱」はおこもり空間が設けられ、「こども本箱」には子ども向けの絵本やボールプールが用意されている。
ホテルの客室は全室源泉かけ流しの露天風呂付。本と温泉に浸かってゆっくり時間を過ごすのもよし、周辺をぶらりと散歩するもよし。知的好奇心が刺激される濃密な時間が過ごせそう。
📍松本本箱/松本十帖
▲住所 | 390‐0303 長野県松本市浅間温泉3-13-1
▲TEL | 0570-001-810
思索にふけるひととき「哲学と甘いもの」
松本本箱のホテルを出て坂道を上ると、トタン屋根の長屋が目に入る。「哲学とあまいもの」は松本十帖にあるブックカフェの一つで、引き戸を引くと、着物姿の男性が落ち着いた静かな声で出迎えてくれる。本棚にはお店の名前の通り、哲学に関する本が並ぶ。
また、店内に入ってすぐの但し書きにはこんな文章が書かれている。
店内はコの字型になっており、隠れ家のような雰囲気が漂う。お座敷やレトロなソファ、アンティーク調の座椅子など好きな場所で落ち着くことができる。
地元では信州大学の学生がよく利用しているのだそう。ただただ物思いにふけるカフェ内には、この上なく至福な時間が流れている。
📍哲学と甘いもの/松本十帖
▲住所 | 390‐0303 長野県松本市浅間温泉3‐2
▲TEL | 0570-001-810
▲営業時間 | 10:00-17:30
▲定休日 |不定休
長野名物を味わえる「おやきと、コーヒー」
こちらは本と直接関係があるわけではないのだけれど、松本本箱のホテルを利用する際のチェックイン場所・レセプションを兼ねている。街全体を人が歩いて賑やかになることを描いており、温泉街を回遊してもらうことが狙いだ。今回いただいた手作りおやきは、季節の果物と餡が生地にくるまれており、何とも不思議なお味ともちもち食感。芸者小屋だった建物をリノベーションした内装は、落ち着いた風情のある空間に仕立てられている。
先ほど導入で、本とは直接関係ないけど……と書いたが、カフェスペースをよく見渡すと、小さな本棚におやき大百科や信州・松本にまつわる本がこじんまりと並べられていた。現地についてから本を開いて、見物する場所をあれやこれやと決めてみるのもまた楽しいかもしれない。
📍おやきと、コーヒー/松本十帖
▲住所 | 390‐0303 長野県松本市浅間温泉3-15-17
▲TEL | 0263-46-0500
▲営業時間 | cafe 10:00-18:00 bar 18:00-22:00
▲定休日 |不定休
今回機会があってはじめて訪れた松本は、個人的に空気感が体に馴染む良い街だなと感じた。遠出の旅行先が挙げられることは少ないかもしれないけれど、一人旅やゆっくり時間を過ごしたい本好きさんにはぜひおすすめしたい。
追記:長野県は年間降水量が全国で最も少ない地域らしいが、今回ちょうど移動時間に限って雨に見舞われることが多かった。映画「流浪の月」の撮影でも台風が直撃し、そのままオープニングの場面に起用したという稀有な現場だったのだとか。