ピクシーダスト
幼い頃、眠る前に母が読んでくれた本の中で、とても大好きだった一冊が、島に住んでいる妖精達のお話でした。
その島に住むすべての妖精は、生まれながらに1つ、才能を持ち合わせています。思い出せる限りでは、植物を美しく育てる才能とか、素晴らしい鍋を作る才能とか、速く飛ぶ才能とか。
とにかく色々な種類の才能がありました。
私は、お話の中に出てくる「ピクシーダスト」が特に好きでした。
魔法の粉です。
金色で、日の光にキラキラと反射して、ティンカーベルにかけてもらうと人間でも空を飛べるようになる。あの魔法の粉。
きっといつか、ティンカーベルに会ったら、当時使っていたポムポムプリンの巾着に、ピクシーダストを分けてもらおうと決めていたほどでした。
「私にはどんな特別な才能があるのだろう」
「どんな魔法が使えるようになるのだろう」
そんなことを考えながら、魔法使いになるいつの日かを夢見て、よくよくぐっすり眠ったのでした。
昨日の夕飯は、ロールキャベツのクリーム煮でした。
いつもより少しだけ丁寧にレシピを確認しながら、綺麗に丸まってくれないキャベツに悪戦苦闘しながら、なんとか完成。
少し味見をして、「うん、悪くないかも」。
ロールキャベツには、大きめの皿の中央に丁寧に整列してもらい、トロトロクリームのドレスをかけます。
仕上げに、少しおいしそうに見える魔法の粉(パセリ)をかけて、完成です。
「いただきまーす!」
と口に含んだ直後に、「うまっ」と頬の緩むパートナーを見て、「美味しい?よかった」などと少しすかしながら、本当は心の中で「ばんざ〜い!ばんざ〜い!『うまっ』いただきました〜〜」と騒いでいるのは秘密にして。
あの時よりも随分大人になった今、ティンカーベルにはまだ会えていません。
空を飛んだ事もないし、あの巾着は空のままです。
ただ、もしかすると、色は思っていたのと違うけど、しかもスーパーで買えてしまうけれど、キッチンに並んでいるあの粉達、ピクシーダスト?なんて、考えてみたりします。
あの魔法の粉を使えば、私や誰かを笑顔にできる。
そんな風に考えると、なんだか少し楽しくなってきませんか?
そもそもきっと料理というのは、工程や種類に差こそあれど、誰か(自分を含め)のためにカラフルな野菜を好みのサイズに切り分けて、そこにピクシーダスト(調味料)を振りかけて、更にそれを火にかけて形や柔らかさが変わったりするなんて、おそらくほとんど魔法なのです。
今日は、どんな魔法を使おうか。
大雑把な魔法使いなので、大体の分量は雰囲気で決めますが、まあそれはそれで。
あとは、仕上げのピクシーダストに任せれば、多分大丈夫。