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モテるであろう男性の表現の選択

先日、とある店に食事をしに行ったら、既に4人グループの先客がいた。
男性2名、女性2名。
どうやら友人同士の集まりのようだ。

そのうちの男性の一人が、自分が「いかにモテるか」を話し始めた。
周囲の3人は、「モテますねー」と彼をいい具合に持ち上げている。

大きな声で話しているので、耳をダンボにしなくても必然的に会話が入ってきてしまう。

そのモテるであろう男性が、店主に向けてこう言った。
「〇〇さんってキレイですよねー。松田聖子さんに似てます。」
周囲もそれに合わせて「似てる似てる!」と言う。

何を言おう、その店主は私の中学時代の同級生だ。
あまりに見慣れてしまっているせいか、松田聖子さんに似ているとは思えなかったが、12歳の頃から彼女の美しさは十分すぎるくらいに認識していて、本人にも伝達済みである。

だから「子供の頃から美しいんですよ」と隣のテーブルに伝えてみた。
店主は「あ、中学の同級生なんです」と私を紹介してくれた。
続いて店主がこう言った。
「といっても、私46歳ですよ。」

結果的に私も巻き込まれた。事実だから構わないけれど。

私と店主に交互に注がれる視線。
多分、4人がそれぞれにいろいろな思いを抱いたに違いない。
私はまだ魔法が使えないから、それぞれに何を思っているかを理解することができない。
しかし、全員が絶妙にモヤモヤしている。
そして時は止まる。

---✂

いやしかし、こういうときにこそ、モテるであろう男性というのは頼りになるはずだ。
こういう場面で気の利いた一言が出るからこそ、モテるのである。

案の定、彼が口を開いた。

「えー!そうなんですね。私の母親に近い年齢ですね。55歳です。」

---✂---

新たに時がとまった。
止めたままにしておこう。

なぜその表現を選択したんだ。
いや「なぜ」なんて問うこと自体が愚問だ。
人は思っていることしか言葉にできないから、思ったことを素直に口にしただけなんだ。
彼は表現の選択肢を持っていなかっただけだ。

だが思う。
真にモテるのであれば、それ以外の表現の選択肢を持っているはずだ、と。
「モテ」は他者評価だな、と。


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汐見英里子
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