竹を伐採し、枝を落とし、運ぶ作業で見えたこと(BambooRoll国産化への道のり #01)
2021年1月、竹でつくったトイレットペーパーの定期便「BambooRoll」を発売開始した。おかげさまで多くのメディアに取り上げられ、たくさんのお客様からあたたかい励ましの声をいただき、現在に至っている。
発売する前から考えていたことが、一つある。それは、バンブーロールの国産化だ。わたしたち日本人は、古来より竹とともに暮らしてきた。けれども、暮らしのなかで重宝されてきた竹製品は、プラスチック由来の安価な製品にすっかり置き換わり、使われないものになってしまった。竹林の手入れをする人も減り、あるいは高齢化したことで竹やぶ化した竹林は、周囲の土地をどんどん侵食するだけでなく、根が浅いことで土砂災害を引き起こす原因にもなるなど、大きな社会課題にもなっている。
竹の使いみちとなるような、出口をつくりたい。日本の竹を使って、日本でトイレットペーパーの製紙ができないだろうか。
もちろん、中国の竹を使い、中国で製造するには理由がある。中国だけに生息するというジチク(慈竹)という竹があり、節間が長く、繊維を取り出しやすいという性質があることがその理由だ。
日本の竹は、紙には向かないのだろうか?コピー用紙のような紙ではなく、薄くても丈夫なトイレットペーパーにするには、難しいのだろうか?こうして、「竹製トイレットペーパーの国産化」への道のりが始まった。
竹林伐採を通して、「竹林」という課題に向き合う
国産化にあたる最初のステップは、原料となる竹を入手することだ。竹をどのように入手したらいいのだろうか。竹は、驚くほどの種類がある。世界では1,250種類ほどの竹があって、日本には約670種類もの竹があるという。どんな竹が製紙に向いているのだろうか。日本の竹の主な種類は、マダケ(苦竹・真竹)、モウソウチク(孟宗竹) 、ハチク(淡竹)、メダケ(女竹)……。
調べれば調べるほど、知識は増えていく。でも、私がほしいのは、おそらく知識ではない。八ヶ岳の麓で、家電を持たず、暖をとるものは薪ストーブのみという暮らしをしている私にとって大切なのは、自分の手を使うこと、時間や手間隙をかけ実践することで見えてくることだ。身識とでもいうのだろうか。
そんな矢先、地域にあるもので石けんづくりをする友人に会い、竹炭パウダーを石けんに入れてみたらとてもよかったこと、その竹炭パウダーは近くの工務店「アトリエデフ」から提供してもらったものだと教えてもらった。彼らは工務店ながら環境事業部を社長自ら率いていて、「たのしく竹林プロジェクト」と称して、NPO法人エコラ倶楽部と市民とともに竹林整備をしていた。
竹林整備に参加をすることに、不思議と胸が高鳴った。竹林を森林に置き換えて考えてみると、木を切り倒すなんていったら、事故がないように細心の注意を払い、何度も作業をしたことのある人にしかできない。というか、やらせてはもらえない。私がいくらチェーンソーを自在に扱うことができようと、近くにいたら「危ないからちょっとどいてて」という話になるのは容易に想像がつく。男性だから、女性だからといった話は好きではないが、ここでは残念ながら、そうした論理は通用しないのだ。
竹は、女性でも運ぶことができる。伐採に使うチェーンソーも小型の軽いもので済む。作業のかたわらで、子どもたちはタケノコを採るのもいいかもしれない。木と竹では、こんなにも違うことに気づいた。
最初に参加した竹林伐採の現場は、娘の同級生の家のすぐ近くだった。何度もその家に行ったことがあったのに、竹林があることに気づきもしなかった。集合場所に集まると、保険に入るために名前と住所を書き、輪になって互いに自己紹介をした。総勢30人ほどだっただろうか。女性の参加者が多いことに驚いた。でも、どこかほっとする自分もいた。そして竹の葉で目を傷つけることのないよう、また粉砕機の音を防ぐために作業用のヘルメットを借り、竹林に入った。
集合場所に竹を運び出すための2トントラックが置かれ、竹を伐採する班と、粉砕機に入れる班、伐採された竹の枝を落とす班、伐採作業はしたけれど使いみちもなくただ積まれている枯れた竹を運び出す班に分かれた。その日は、主に枯れた竹を運び出す作業に加わった。
4mから5mほどはある竹を数本、肩に担ぎ、あるいは腰で支えて運ぶ。運ぶための道はすぐ隣が民家で、軽い傾斜があった。一度に5本くらい担いだだろうか、太さも長さも異なる竹を腰や肩で支えて持ち運ぶのは、案外難しい作業だった。足元は、伐採後の竹がまだ残っていて、注意を払っていても何度もつまづいた。そして、枯れた竹はよかったが、枯れていない竹は、ある程度太いものだと、1本でも重たかった。1本では帰りの上り坂を登るのが悔しい気がして、できるだけ2本以上、と自分に言い聞かせて運んだ。
近くのお蕎麦屋さんで、みんなで昼食をいただいた。なぜ参加したのかと聞いてみると、畑で使う支柱として竹がほしい人もいれば、地域の困りごとだから、という人もいた。みんなそれぞれ何かしらの思いを持って、竹林整備に参加していた。休憩から戻ると、最初にみた風景とはまた少し異なる風景が目の前に広がっていた。びっしり竹が密集して生えていた場所に光が差し込んでいる。
後日、同じ場所で竹林伐採作業があった。作業をしたことで光が差した場所に、竹のこが生えていた。みんなで竹のこを刈ってから、また作業に入った。
いつの間にか、竹林伐採作業が楽しみなものになった。不思議なもので、今まで気づきもしなかった竹林に、運転中でも気づくようになった。そしてこの先ずっと、私は竹林伐採に関わることになるだろうとも思った。竹が抱える社会課題も、使いみちも含めて、竹にまつわるすべてが自分ごとになってしまった。
地域にすでにあって、使われていない竹を、トイレットペーパーにできないか。あらためて強くそう思うようになった。そもそも、おかえり株式会社はそうした循環をつくりたくて立ち上げた会社じゃないか、と原点に立ち返るような気持ちがして、やってみよう、と思った。そこで、アトリエデフに、伐採した竹を使わせてもらえないかと相談することにした。(続く)
写真提供:たのしく竹林プロジェクト