タイのスラム街…スマホや仕事はあるのに、現状から抜け出せない闇
夫の駐在帯同でタイに来てから約1年が経ちました。前半の半年は、ボランティアやプロボノで楽しみつつも、試行錯誤。途中で現地採用を目指して転職活動を始め、「タイ人と一緒に働くこと」を叶えてくれる日系企業と出会い、就労ビザに切り替えて就職しました。
しかし、欲というのは尽きないものですね。もともと国際協力や開発の分野にいた人間だからか、今後は「もっとタイ社会と繋がりたい」「タイと日本の架け橋(の一部)になりたい」と思うようになりました。
そこで、まず第一歩として、かねてから興味のあった、スラム街の女性が作るクラフト製品「FEEMUE」について調べ、運営元のシーカー・アジア財団にコンタクト。スラム街ツアーに参加させてもらえることになりました。
今回のnoteでは、私が訪れたバンコク最大のスラム「クロントイ・スラム」を見て、歩いて、感じたことをまるっと書いていこうと思います。
ところで「スラム街ツアー」って微妙な響きだと思いませんか?スラムって危険なイメージがあるのに、外国人が観光みたいに訪問しても大丈夫なの…?と。私も、実はそんな風に思っていたんですが、ツアーを終えてみると全く異なる感情になりました。「あぁ、だからスラム街ツアーなのか」って、むしろ腑に落ちたんです。
クロントイ・スラムについて
クロントイ・スラムは、日本人が最も多く住んでいると言われるバンコクのプロンポンエリアから、車でわずか15分ほどの場所に位置します。
バンコクには2000以上のスラム街があるそうですが、クロントイ・スラムはその中でも最大規模。人口は推定10万人です。もともとは近くの港での仕事を求めて、地方から出稼ぎにやってきたタイ人のコミュニティでした。今は、港の仕事ではなくバイクタクシーや飲食店、建設現場などで働く人が多く、カンボジアやミャンマーからの移民労働者も多いといいます。
すれ違うのがやっとな程、狭い通路
1ライ(1600㎡)に15世帯以上が暮らす地域を、タイでは(「スラム」ではなく)「人口密集コミュニティ」と呼びます。
実際に街を歩いてみたところ、通路の幅は、大人がすれ違うのがやっとな程、狭い。家と家が密集し、ちょっと息苦しい感じもしました。道は入り組んでいて、迷路のよう。当日は小雨が降っていたのですが、狭かったので傘をさすのも諦めました。
しばらく通路を歩くと、急に目の前が開けました。ここはどこだろう?と思ったら、なんと線路!一日に4本ほど電車が通るそうですが、その際には大きな音を合図に、住民は線路から離れるのだそうです。
線路は大きな石がゴロゴロしていてとっても歩きにくく、しかもスナック菓子などのゴミがたくさん落ちていたのが印象的です。
ただ、落ちているゴミを見て、「私たちと同じようにスナック菓子を食べて暮らしているんだぁ」と、ちょっと意外でした。
「食べ物に困るほど困窮しているわけではなさそうだ」そう感じたんですよね。
スラムなのに「なんだか平和」
30分以上歩いたでしょうか。ツアー終了に私が感じたことは「なんだか平和」その一言でした。
街中の人たちは、すれ違うと会釈してくれた。子どもたちはスナック菓子を食べながら遊んでいた。スマホを持っている人も多い。テレビを持っている人もいた。私が持っていた「スラム=危険」といったイメージが、なかなか当てはまらない。バンコク最大のスラムなのに。
これは一体、どういうことなんだろう。
シーカー・アジア財団のご担当者によれば「今は、治安は良いんです」「タイでは少額でローンを組めるから、皆さんスマホは持っています」「仕事もあるし、食べ物にも困っていません」とのこと。
「だったら、仕事して、子どもを学校に行かせて、就職させれば現状から抜け出せるのでは?」
…実はそう簡単な話ではありませんでした。
現状から抜け出せない本当の理由
スラム街は、タイに憚る「格差社会」の縮図です。貧富の差、土地(場所)の差、教育の差。とくに教育の格差は深刻だといいます。
公立と私立で先生の質や教材の質に大きく差があるため、スラム街の子たちが受けられる教育の質はとても低いのだそう。だから「大学進学」なんて、夢のまた夢。タイはかなりの学歴社会なので、大学に行けなければ、就ける仕事も限られてしまいます。
中には優秀な子もいて、大学まで行って就活をする例もあるそうなのですが、次に待ち受けているのは「スラム街出身だから」という差別です。
私が持っていた「スラム=危険」といった固定概念が、タイ国内にも根付いてしまっているため、就職差別の問題があるといいます。
教育格差に就職差別。スラムから抜け出せない闇は深いのです。
スラムの女性たちが作るクラフト製品ブランド「FEEMUE」
そこで2017年に生まれたのが、クロントイ・スラムの女性たちが作るクラフト製品ブランド「FEEMUE」です。街で使われている、日差しや雨除け、お米袋としてよく使用されるタープ素材を使って、バッグやポーチなどを作り販売しています。
売上は、スラムに住む子どもたちの教育支援などに充てられるのですが、目的はそれだけではありません。
FEEMUEの製品は、すごくかわいくておしゃれ。まわりの駐在妻を見渡すと、FEEMUEのバッグを持っている人が本当に多い!「スラム=危険」といった固定概念を覆すツールとして、効果的に作用していると感じます。
「支援のために買う」ではなく「おしゃれだから買う」。結果的にイメージ改革や経済的支援に繋がるのなら、それでいいと思うんです。
一緒にツアーに参加した小学3年生の娘と、ツアーの後にFEEMUEの製品をどっさり(!?)買いました。
「あぁ、だからスラム街ツアーなのか」
「あぁ、だからスラム街ツアーなのか」そう思いませんか?
実際に目で見て、街に暮らす人たちとすれ違って、現状の話を直接聞いたから、今私はこのnoteを書いています。
ツアーに参加しなければ、私の中では「スラム=危険」のままだった。これこそがツアーの目的なのかもしれません。
ちなみに教育格差と就職差別の問題を前述しましたが、昨日とある記事で、こんな事例があることを知りました。
クロントイ・スラム出身の女の子が、シーカー・アジア財団の奨学金制度を活用して、タイの東大といわれるチュラロンコン大学へ進学。その結果、外交官として現在活躍しているそうです。
こんな…希望の光とも言える女の子が存在するなんて…。素晴らしいですよね。
さて、限られた私のタイ生活。どう過ごせば良いだろう。そんな風に改めて考えるきっかけとなった今回のツアーには心から感謝しています。
(補足)本記事は私が自主的に書いているものであり、PR記事ではありません。