【ピアニストエリコの日常 ④ 名医との邂逅再び。これは恋なのか】
【エリコの日常 ④】
2014年6月20日の記 「名医との邂逅再び。これが恋なのか」
例の、カメムシを噛み潰したように不機嫌で有名な皮膚科医 (名医) の元へ、先日受けたアレルギー検査の報告を受けるために再度出かけて行った。
参照「名医との邂逅」:
先生は今日も安定の渋面で、彼の全体の雰囲気を色で例えると、絵の具の中でひときわ異彩を放っているビリジアン色に、カメムシの枯れた味わいを二滴垂らしたような按配。粋と言えば粋な色合いである。
photo: Lone Israelsen
名医「結果が出とるよ」
エリコ「 (ドキドキ) 」
医「鶏肉 0、カニ 0、マグロ 0」
エ「えっ、本当ですか?鶏肉の皮を食べると時々蕁麻疹が出るんですけど」
いきなり地雷を踏んだようだ。先生のこめかみにたちまち玉虫色の静脈がピキッと浮き立ち、私は沈黙を余儀なくされた。
先生は厳かに結果を読み上げてゆく。
医「ダニ 0,63、イヌ皮屑 0,1、ハウスダスト 0,25」
エ「わー!将来犬を飼っても大丈夫ですね!」
ちなみに、数値 1,39 以下は陰性である。
医「シラカバ 0,43、ブタクサ 0,63、ハンノキ 0,45」
私はちょっと得意になり始める。33のアレルゲンテストのうち、今のところ全て陰性である。
医「スギ... 152!」
*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'*:.。..。.:*・゜゚・
ひゃっ、ひゃくごじゅうにっ!?
エ「先生っ。それはいわゆる天文学的数値じゃないんですかっ」
医「(何故かちょっと得意そうに) まあそうやな」
エ「そんな...。大杉さんや杉浦さんや上杉さんとはもう会えないかもしれないですね... 」
医「(完・全・無・視)」
私はカメムシ先生が急に大キライになった。驚天動地している患者の、泣きたいほどツマラナイ冗談を完膚なきまでに黙殺するとは。
2番目に酷い数値を叩き出したのはカモガヤ 51,3で、しかしありがたいことに食物からのアレルギー反応は皆無だった。
頭の中は杉が乱立し、文字通り立錐の余地もないほどであるが、かろうじてカメムシ先生に礼を言い、診察室を出ようとした。先生は、私につれなくしたことに今ごろになって良心が痛んだのか、両腕に発疹中の蕁麻疹の具合はどうかと優しく尋ねてくる。私はまた先生のことが少し好きになり始めた。
... この名医とのやり取りを改めて振り返ってみると、これは人が恋に落ちる時の典型的なパターンなのではないだろうか。あのカメムシビリジアン医師は、ああ見えて人のココロに揺さぶりをかけて弄ぶ天才なのかもしれぬ。
こうして我が独断と偏向の名のもと、先生への格付けは「名医」から「恋愛の達人」へ取って代わられた。
... なぜかまた両腕が痒くなってきた。この反応は何なのだ、やはり、恋なのか... 。
photo: Kenn Clarke