控訴と3回目の引越し
地裁で実刑判決。
万が一、そうなったら、控訴すると直前に話し合った。
私だけが、それを考えていた。
弁護士は私選弁護人だから、既に300万以上払ったのに、とにかく経験がない、分野違いの弁護士。
それでも、再度の執行猶予をもらえると思ってしまっていた。
私の罪は、専有離脱物横領。
要するに、他人の落とし物を持って帰ったこと。
最初は窃盗でパクられた。拾った物が、盗まれた物だったから。証拠がないから、とにかく自白させるために毎日毎日、過呼吸になるほど取り調べ。
というより、やったんでしょ。今言わないと後悔しますよ。皆悲しみますよ。どれだけ周りを悲しませるんですか。
その繰り返し。
だんだん自分が、自分の生きてきたことが惨めで、情けなくて、同じことを言われ続けて、つらくて、認めたらお終いかもしれなくて、どんどん病んだ。
過呼吸になったのは生まれて初めてだった。
早く死にたかった。
そして、保釈申請は通ったものの、実刑判決になり、控訴した。
私選弁護人は、こんなに長引くと予想していなかった。控訴の経験がなく、再来月から海外赴任だと言う。
私は、刑事弁護人を探して、自分で何か有効な手はないかと考えて、知り合いに、雇ってもらうことを決めた。
彼は、まだ働き始めて1ヶ月。
彼の状況を無視して、裁判を優先した。
その頃から、彼は少しずつ、病んでいったように思う。
色々な事情があって、失業保険で引っ越すために、急いで家を決めた。
とにかく、すぐに審査が下りたから、今の部屋に決めた。
私だけ先に引っ越して、彼は仕事の転勤になるから、1週間遅れで引っ越して来た。
その1週間のせいなのか、新しい職場に馴染めなかったのか、彼は引っ越してきてから、どんどん鬱が酷くなった。
…あとでわかったことだけど、彼は私のいない間に、浮気をしていた。お金の面倒を私の母に見てもらい、母の用意したアパートに住み、私が会えない間は、他の女性に会っていた。
それを知っていたら、無理にでも、親の負担になってしまおうとも、1ヶ月で転勤願いなんて出させなかった。かもしれない。
正直、私は自分が不安定で、余裕がなく、金遣いの荒い彼から心が離れかけていた。
彼が望むから、婚姻届も書いた。
彼は、私に自分だけを見て、自分だけを大事にして欲しかったのかなって思う。
私は行動を制限されることが、すごく嫌いだった。
捕まる前は私は会社員で、それなりにお金を貰っていたから、咳止めをODしてても彼を養う余裕があった。
それに、時間の管理ができなくて仕事に没頭してしまう私には、洗濯や送り迎えをしてくれる彼が必要だった。
当時のLINEのトークを見ると、一緒に住む前の方が彼を必要としていたし、好きだったように思う。手に入らないから、欲しかったのもあるかもしれない。
脱線したけど、そんなこんなで、まだ入社して間もない彼は、転勤願いを出した。
彼にとっては、私のいない見知らぬ土地で、たった1人で働くことに意味がなかった。
もし、退職することになっても仕方ない。
でも、会社がブラックなせいか、一部上場で社員を募集してるせいか、都内への転勤の許可が下りた。彼は、たった2ヶ月で、また勤務先が変わった。