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「知を共有する」シンポジウム聴講@Wan

セルダルさんがWan で開催されるシンポジウムで登壇するというので聴講させてもらうことにした。

Şekir Axaという歴史上の人物がおり、その人物が殺された、という内容の古い歌があり、その旋律には様々なバリエーションがある。人が殺されたという歌なのに、クルドの人々はそれに合わせて踊るのだ。そういう歌がたくさんある。

クルドの口承文化は非常に豊かだ。長く母語の使用が禁止されていたことも、大きく作用しているだろうが、山がちな地勢、寒暖差の激しい気候、それに伴う半遊牧的生活などの要因も大きいのだろうなと感じる。

紙と筆記具など準備が必要な文字ではなく、身一つで表せる声を使うことになったのだろう。

さて、セルダルさんの講演の提題は、「人が殺された、というような内容の歌で踊るのはなぜか」。なぜか。全ては「人の記憶に強く残すため」だ、という。ただ話すだけでは次の日にはもう忘れている内容でも、旋律をつけて歌にし、その歌で踊ると、強く記憶に残る。



20分の持ち時間の中で、2曲、歌を披露した。最後、Şekir Axaの歌を歌い終えると、大歓声と大きな拍手が起こり、学者だらけのシンポジウム会場がライブ会場へと一変した。最低でも1時間は必要な内容だったな。

シンポジウム会場がライブ会場に一変



閉会にあたっての締めくくりのパートでは、「文学、歴史など様々な分野に加えて、願わくば、”音楽”も一つの独立した分野として、今後設定してほしい。多くの素材が口頭伝承なしには残っていないのは明らかで、非常に重要な研究領域だ」とセルダルさんが提言していた。



確かに、今回のシンポジウムは、文学と歴史の学者ばかりで、音楽領域での講演はセルダルさんただ1人だったのだ。

講演後は、セルダルさんの元へ学者が次々と挨拶に来て、パフォーマンスへの賛辞を送っていた。音楽、口頭伝承にフォーカスした会を設けようという話もあった。

こうして知を共有し、良き世界を作るために力を注ぐ人々の姿を近くで見ることができて、とても有意義な時間を過ごさせてもらった。

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