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グラム・ファイブ・ノックアウト 3-1

 高校生になり、ある男友達、というより同級生に付きまとわれるようになってから幾つかの事件に巻き込まれるようになった。
 他高の不良との殴り合いの喧嘩。
 近くに住む大学生が栽培している大麻を盗む。
 先生同士のセックスを覗くためにラブホテルに張り込む。
 などなど。
 どれも面白かった。
 僕と同級生の悪戯の被害者の一人に高校近くの文具屋の店主の奥さんがいた。直ぐ近くのマンションの大家との淫行を繰り返していたので、隠し撮りをしてネットで晒して遊んだ。それを知った奥さんのリアクションを生で見たかった訳だが、動画が投稿されていることを本人に言うのも怪しまれるので結局やめてしまった。あそこで勇気を出していればと今でも悔やんでいる。
 奥さんのその後のことだが、結局それが夫にばれて殴る蹴るの暴行を受け最後は夫を刺殺して家に火を放ってみせた。
 ニュースを見る限りは床下から子供の死体が二つと、その奥さんの両親の死体が見つかったそうだが、別にどうということもない。
 その後、更地になってから周辺の不審火が続いている。
 これも都市伝説かもしれないが、残念なことに余り話題性はない。尾ひれがつきそうなほどの面白さよりも、現実的な恐怖の方が先行している。現実を越えられなければ都市伝説は生まれない。
 そういうものをその同級生は何故か僕のところへと持ってくる。
 一人で遊ぶのは不安なようだ。
 非常に不謹慎で、非常に不愉快だが、そういうところが僕は本当に好きなので一緒に遊んでいる。
 僕たちは、可哀そう、と自分たちに関わった人たちに対して口にする。口にしただけで終わるが、口にするだけの意味はあると思っている。何度も口にしてから、その後はすっかり頭の中から消すことにしている。
 そう、ほぼ消えてしまうというのと同義だ。
 この反復に意味があると思いたい。
 家庭科の時間はチャイムによって始まる。
 先生が教室に入って来て荷物をチェックするところから始まるが、何も面白くない。
 家庭科というよりも、家庭科の教師があまりにも不細工なので、どうしても授業を受ける気になれないのだ。
ちなみに私の意見ではない。そう思う同級生を友達に持ってしまっているからだ。
 正直に言って。
 僕は別に顔がどうこうという気は全くない。
 同級生が制服の裾を引っ張るので、まだ何人かが立ち歩く教室からさっさと退席した。暇だから出たのではなく、暇になるために外に出たのだ。逃げたといってもいいかもしれない。
 そういう時は決まって倉庫と化したD校舎の障碍者用トイレに籠って下らない話をしている。
 同級生が煙草を取り出した。
 二本取り出し、火をつける。
 私と同級生は煙を天井の火災報知器に向かって吐く。
 さすが、消防設備偽装校舎。火災報知器は全く機能しない。
 前に天井を覗いたときに、火災報知機用の線も配管もないことに気が付いた。ただ、ここに存在するだけの意味しかないそうだ。
 煙草の煙は空気よりも吸いやすい。
 肺の中に入れると、脳の中を一気に血液が走り回るのが分かる。
そのまま目が広がっていく。
 この感覚だ。
 これがいい。
「煙草、はまったっしょ。」
「誘われる前からはまってます。」
「俺が誘う前からふかしてたとか。うけるんだけど。」
「小学生の頃に何度か、兄がやっていましたから。」
「兄貴って、殺人鬼だった人でしょ。うっわぁ。」
「怖いですか。」
「何回聞いてんだよ、その質問。」
「怖いですか。」
「怖いけど怖くないね。」
「怖いけど怖くないのは矛盾してます。」
「でも、その気持ち分かるんじゃないの。」
「いいですね、この煙草。」
「良い煙草だろ。」
「とても染みます。」
 煙草を吸う同級生は煙を被ると、不思議と絵になった。
 本当に美しかった。
 どう見ても、どう考えても、決して格好よくはないのに。
いつの間にか煙草を手に持たせると見た目では誰にも負けなかった。
 さすが、この高校の生徒会長。
 僕は、同級生の腕にまきつく腕章の生徒会長という赤い文字が煙に紛れてしまうので、手で払ってその煙をどかす。
「ここ、大丈夫ですか。」
「マジでばれないってぇ。」
「根拠は。」
「廃校舎。」
「でも、高校敷地内ですが。」
「ばれたらやばいよ、そりゃ。」
「それで済めばいいですね。」


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