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グラム・ファイブ・ノックアウト 5-2~最終章

 まず、あの転落死によって広まった都市伝説が一つある。
 これは、事件自体から生まれたものである。ほぼ尾ひれと言える。
 語るには値しないだろうし、事件に関係のあるものではない。そもそも、都市伝説の発生自体が、兄をこの町に呼び寄せるというものでしかない。
 物語自体に関係はないのだろう。
 でも。
 仮にそうであったとしても、その都市伝説が広まったという事実の背景には、必ず面白さというものが存在する。噂するに値するだけの物語性がそこにはあるということなのだ。
 可哀そうに、不憫だ。
 そう誰かが言った。
 そういうものこそ、都市伝説になるのだろうと他の誰かも言う。
 それらの積み重ねが都市伝説として形作られる。
 だからこそ、だろうか。
 都市伝説自体が持つ、呪いのような魅力がより艶を出すのに、異形の存在や浮ついた誰かなどではなく、地味な女子生徒はうってつけの存在だったのかもしれない。
 それこそ、都市伝説の餌食になったのは、彼女自身だったのか。
 同級生は、援交をしていた女子生徒が最初から抱えていた都市伝説について語った。
 案山子だってさ。
 案山子。
 単語はこの場で明らかに浮いていた。
 援交をしていた女子生徒の部屋には案山子があるそうだ。
 ただし、それは田舎の田んぼなどに立っているような案山子ではなく、どこか骸骨に服を着せたようなものだそうだ。深くは知らないが、知り合いになり仲良くなると見せてくれるそうだ。
 誰かが女子生徒に、案山子について何か特別な思い入れがあるのかと尋ねたそうだ。
 そうでもなければこんなにも集める理由にはならない。だから誰かがしつこく尋ねたそうだ。
 すると教えてくれたそうだ。
 昔、幼いころからの親友がいた。
 同じ女の子だったのだそうだ。
 その親友はある日、亡くなったそうだ。
 何もなく、大した理由もなく、亡くなったそうだ。
 女子生徒は涙を流す暇もなく、その親友の家族に会うと、そのまま心中など関係なく頭を下げた。悲しみに体が追いつかなくとも、環境と状況に合わせて、動かなければならないことをその時知ったらしい。
 その子の母親は、妙にこちらを気にかけている風だったそうだ。
 直ぐに呼ばれて、家に入った。
 亡くなったその子の部屋だ。
 部屋の中には。
 顔の切り抜かれた写真が散乱し。
 隙間なく部屋中に置かれた。
 一万は優に超えるであろう案山子。
 案山子の顔には。
 写真から切り抜かれたその女子生徒の笑顔が一つ残らず張り付けてあって。
 触ると何となく粘ついた感触があったらしい。
 壁に赤いクレヨンで大きく。
 だいすき。
 とだけ書かれていた。
 隣を見ると、その子の母親が大きく目を広げた笑顔で、ただただこちらを見つめていたそうだ。

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