1月6日〜1月15日
普段歌いたくなると一人でカラオケに向かってだいたい1時間ほど歌う。風味堂で喉をならしてNONA REEVESやTHEATRE BROOKでテンションを上げる。椎名林檎やUAやEGO WRAPPIN'に挑戦し、槇原敬之でしっとりと気持ちを落ち着ける。
この数日(一部昨年も含む)で今まで経験したことのない場所で歌う機会があった。スナック、カラオケ居酒屋、そして隅田川テラスで、だ。
POPEYEにも掲載されたという一部で有名なスナックに行ってきた。友人の何気ないFACEBOOK投稿に「いいね」をしたことがきっかけで実現したそれは、ライブハウスのステージで歌うよりも何よりもその場にいる人となにかを共有できた気がするカラオケになった。
ただ私は、以前の私はこんな風に場を楽しめるような人間ではなかったと思う。
数年前から私は少しずつ歌を慣らしてきた。墨田聖書教会の石川さんのフォークジャンボリーに積極的に参加し人前で歌う勘を取り戻していた。松任谷由実「ルージュの伝言」あたりがその場にいる人や石川さんともいい一体感が生まれて楽しかったのだ。
そんな中、ヤスシコーチがこっそり人前で歌うような企画を開催した。隅田川テラスの階段にめいめいが座ってアカペラで川に向かって歌う。階段の踊り場の少し下に全員が座る。歌う人は踊り場に上がって歌う。戻ってきても誰も拍手をしない。あくまでその場に居合わせた他人同士という体裁を取る。高速道路の高架下だからどうせ聞こえないだろうと思っていたら案外声が響く。屋形船から降りてテラスをあるく老人たちは歌が聞こえないのか何事もなかったかのように通り過ぎる。そんなふうに人前で歌ったものだから私の中で何かハードルのようなものがしまわれたらしい。
年末、sheepstudioにレジデンスをしていたアーティスト集団オル太さんたちがリサーチ結果を共有する企画があった。打ち上げでは近所のフィリピン酒場からティラピアを購入して食べるなどとても楽しい気分を共有できた。本当に楽しかった。私は、だいたいそういう楽しい雰囲気を俯瞰して見るような立ち位置にいて二次会なんて行くはずもない人間だったのに、この日はオル太さんメンバーとファンタジア!ファンタジア!メンバーとで明治通り沿いのカラオケ居酒屋に行った。
1000円でカラオケ7チケット(1曲1チケット)のその場でとにかく私たちは歌った。もちろん他のお客さんもいた。老夫婦はとても幸せそうにデュエットを歌って気持ちよく帰っていった。私はウケる歌をと考え懐メロを数曲歌った。その反応が自分にとってとても嬉しいものだったので、スナックのカラオケにも喜んで参加した。
スナックはオル太さんたちと行ったカラオケ居酒屋より広く客数も多い。ベルベットの座席と抑えめの照明が雰囲気を違える。その場にいる1組の客は盛り上がるでもなくしっとりとtrue loveだなんだを歌っている。カラオケ居酒屋の時と違って、私は一人カラオケの時と同じような選曲で歌い始めた。途中、団体が来るということでカウンターに移動をさせられた。後ろの席にはにぎやかな団体が。この団体が素晴らしかった。50代以上の男女、遊び慣れた風、リーダーのような女性のかすれきった声(後にボヘミアンを気持ちよく歌っていた)が印象的。私たちが歌うと「何!うまいじゃん!いえーい!○▼*+%%!!」ととにかく楽しんでくれる。さらに彼ら彼女らもとても歌がうまい。選曲もいい。そりゃそうだろう。カラオケのできるスナックに女性を連れてわざわざくるような人たちだ。自信がなきゃこない。(さっちゃんとゆりえるの歌が上手かったからだろう。男性が彼女たちにワインをごちそうしていた。とても紳士的な素振りで。)
あっという間に数時間が経ち最後の一曲としてシャ乱Qのズルい女を歌った。夜の部を予約していた団体の女性だったそうだが、また新しい客が私を盛り上げてくれる。ワンコーラス歌って帰ろうとする私に「えー!最後まで歌いなよ!」ととにかく楽しんでくれる。最後の最後まで気持ちの良いカラオケだった。
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スナックにいた人たちとは今後も会うことは無いだろうし、そもそもそういう「つながり」を求めてカラオケに来たわけではない。けど、あの一瞬を共有したという経験が前提にあって、また彼らと何かしらの場面で出会ったらその場面は「そうじゃない」時間軸よりも豊かな経験になるんだろうなという気がする。
「楽しめる」という前提を共有するのは重要だと思った。(もちろん歌が嫌いな人とはこの経験は共有しづらいのは知っている。)