「新版 荒れ野の40年 ヴァイツゼッカー大統領ドイツ終戦40周年記念演説」
冒頭の言葉に出会ったのは、2024年7月3日最高裁で旧優生保護法を「違憲」とした判決が言い渡された日のことだった。
図書館で予約して借りた本書は、わずか63ページの小冊子だった。
内容は、ドイツの敗戦40周年にあたる1985年5月8日のドイツ連邦議会でのヴァイツゼッカー大統領の演説全文と、訳者の永井清彦氏の「解説――若い君への手紙」。
「政治家の演説」と聞くと、正直「理想だけで中身がない感じがして空疎」なんてわかったふりして思ってしまうけれど、訳者の永井氏は解説の中で『ここでいう政治家は「次の選挙を考える政治屋(ポリティシャン)」ではない。「次の世代を考える政治家(ステイツマン)」』だと、そして、「何ヶ月もの準備を重ねた演説」であり、『「真実の重みを感じさせる」この演説は遠い日本でもずっと生きつづけてきて、これからも読まれてほしいと願っている、じっくり読むのに値する、と信じている。』と、力強く解説してくださっていた。
永井氏の解説を読む前に、ヴァイツゼッカー大統領の演説全文を読んだが、文章だけで心にぐっと迫ってくる気持ちになった。
「演説」という言葉は、辞書を引くと「大勢の前で、自分の意見や考えを述べること。」とあったが、ヴァイツゼッカー大統領の演説全文は、大勢の中の一人ひとりに対して語りかけているように感じられた。
永井氏の解説によると、ヴァイツゼッカー大統領の誠実で率直な呼びかけに国内外の多くの人が賛同し、作家のハインリヒ・ベルは演説の文章を教科書に採用すべし、と絶賛したほどだったそうだ。
上に引用した文章を、今を生きる大人たち、子どもたちが読んだら、どんな気持ちになり、どんなことが心に残るだろうかと考えてしまった。
1985年5月8日のドイツ連邦議会でのヴァイツゼッカー大統領の演説は字幕付きでYouTubeで視聴できたので、本書をめくりながら視聴した。
50分くらいの演説の中で、何度も拍手が沸き起こっていた。
演説の訳語の中に「心に刻みつづける」とあった。
この先何度も読み返して、そのたびに心に刻みつづけたいと思える、言葉の力を改めて感じさせる小冊子だった。
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