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「アムンセンとスコット」

ギラギラの日差しと熱波が続く毎日なので、せめて涼しい気持ちになれそうな本をと思って読んだ一冊。

人類未踏の地が極点一帯を残すのみとなった20世紀初頭。南極点到達に向けて、ノルウェーのアムンセン隊とイギリスのスコット隊が出発した。敗れた側が帰途に全員遭難死するという悲劇的結末を迎えた史上最大のレースは、なぜそうなったのか。勝った側と負けた側を同時進行的に追う。(解説は山口周氏)

朝日新聞出版 「アムンセンとスコット」本多 勝一 著   作品紹介より


南極点人類初到達という世紀のレースについて、ノルウェーのアムンセン隊とイギリスのスコット隊の背景やその道中のことがらを同時進行的に叙述して、なぜそうなったのかを検証するノンフィクション。

ノンフィクションなのに、壮大な物語を読んでいるような気持ちになった。

写真や地図などもたくさん掲載されていて、極限の地の様子や、各隊の基地での生活や隊員たちの顔写真に手紙やスケッチなど、読み進めていくための想像力を高めてくれ、より深く本書の内容に没頭することができる助けとなった。

特に、本書中に*が付与されている文章や単語については、巻末の[註]でわかりやすく説明があるので、[註]のページをめくりながら本書を読むと、「なるほど、そんな背景が!」とか「こんな意味があるんだ!」などと、新たな気づきも得られる。


南極点人類初到達という世紀のレースは、結果だけいうと、ノルウェーのアムンセン隊は大成功して帰還、対してイギリスのスコット隊はアムンセン隊に大差をつけられて先に南極点に到達されて敗れてしまい、さらに帰還の途上で全員遭難し、全滅してしまう。

この結果だけ聞くと、「やっぱり探検って運の要素があるのか?」と考えてしまったが、本書を読んでいくと、アムンセン隊の隊長であるノルウェーの探検家ロアール・アムンセンの底知れない極地探検への思い、その思いから探検に備えて子どもの頃から、必要だと考えられる技術やスキルそして知識を習得し、着々と極地探検のために行動していく生き様をひしひしと感じ、極地探検の成功は「すべくして」成功したものなんだ!と感動してしまった。

アムンセン隊の行動を読んでいくと、普通の人には想像できない極限の状況の中でも、「ワクワク感」がそこはかとなく感じられる気がした。

特に、南極点到達より約2週間ほど前に「デポ」と呼ばれる食糧貯蔵所兼キャンプ地にて休養後に猛吹雪に見舞われた際のエピソードが印象的だった。

さて、二日間の休養で犬もたらふく食べてすっかり元気を回復したが、天気が一向によくならない。出発をのばすうちに十一月二十六日の朝になってしまった。
強風はやまず、降雪量も多くて、ソリが埋まってしまうほどだ。気温は零下二十七度。
みんなで外へ出て猛吹雪の様子をみてからテントにもどり、寝袋の上で意見を交換した。
「もう五日目だけど、とても良くなる気配はないね。風なんかますますひどいじゃないか」
「こんな足どめくらって寝そべってるなんて最低だなあ。これじゃあ、朝から晩まで走るより疲れるぜ」
アムンセンも同じ考えだった。
「やってみるか?」と隊長が言ったとたん、四隊員は大喝采でこれに応じ、たちまちにして荷作り開始。
アムンセンはこの朝の隊員たちの劇的な反応ぶりに感動して、その不屈の精神をたたえ、この瞬間の情景がのちのちまでもまぶたから消えなかったと手記に書いている。
かくて五人はブリザード(猛吹雪)のなかへ出発していった。

朝日新聞出版 「アムンセンとスコット」
本多 勝一 著 より

このエピソードを読んで、「こんなチームに所属して、自分の力を発揮して貢献できたらどんな気持ちになるのだろう。」と考えてしまった。

「夢中になる」ってことは、やっぱり最強である。


イギリスのスコット隊については、この本が有名であるし、本書でも全員遭難死してしまう結末を知っているので、その行動ひとつひとつが死へ繫がっていっている気がして、どうしても悲愴感を覚えてしまった。


「アムンセンとスコット」の巻末の解説を、山口周氏が書いており、本書について独自の分析をしているので、その分析の視点から本書を読み直すとまた違った読み方ができて面白いかもしれない。

日差しが照りつけて、暑くて溶けてしまいそうな夏の日に、涼しいお家の中で読むのにおすすめの作品だった。


南極つながりで、元南極観測隊員・西村淳のエッセイを映画化した沖田修一監督作品「南極料理人」もよき。


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