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「コンサル2万人時代」で生き残れる人、生き残れない人 『バリューのことだけ考えろ』#1

本記事は、私の新著
『バリューのことだけ考えろ』(2024年6月30日発売)
からの抜粋です。

私は20年以上、アクセンチュア、デロイト、PwCといった大手コンサルティングファームでキャリアを積み、最終的にはパートナーにまで上り詰めました。

その経験を通じて培った思考法を、これからのAI時代を生き抜こうとするビジネスパーソンの皆さんに伝えたいと思いました。

単なるコンサルティングスキルの解説にとどまらず、すべてのビジネスパーソンが自らの市場価値を高め、キャリアを築いていくための実践的なガイドとなるよう心がけました。

不確実性の高いこの時代を勝ち抜くために、私の経験が少しでも皆さんの力になれば幸いです。

# はじめに ――〝バリュー思考”がビジネスパーソンとしての生き残りを左右する

## 激変するコンサル業界で、唯一変わらぬコンサルとしての指針

「少数精鋭」が当たり前だったコンサルティングファームのイメージは過去のものだ。

近年、各コンサルファームが大量採用を始め、戦略コンサルBIG3とされるマッキンゼー・アンド・カンパニー、ボストンコンサルティンググループ、ベイン・アンド・カンパニーなどの老舗も人員拡充に舵を切っている。

とりわけ、私がかつて所属していたアクセンチュアでは社員数が2万人を超える。過去に照らせば、コンサルバブルといっても過言ではない状況である。

業界が活況を呈するなか訪れたのが、ChatGPTをはじめとする生成AIの時代である。ゴールドマン・サックスのレポートによれば、米国の雇用のうち実に約3分の2がAIによる自動化で何らかの影響を受けるとされる。AIの脅威は、今まで安泰とされていたコンサルをはじめとするホワイトカラーにも忍び寄っているのである。

元来、コンサル業界には「Up or Out(昇進するか、退社するか)」という風土が根づいている。業界の飽和、あるいは生成AIの目覚ましい発展で、「自分はコモディティとなり、淘汰されてしまうのではないか」「どんなスキルを身につければいいのか」「何を目指して働けばいいのか」──そんな迷いや不安を抱えている人も少なくないかもしれない。

そんな思いを持っているあなたにただ一つ伝えたいことがある。

それは「バリューのことだけ考えろ」という指針である。

バリューのことだけを考えて働く。これだけで、あなたはこの先何十年でも好きなところで、誰とでも働けるようになるし、「この業界で生き残っていけるか」といった漠然とした不安にさいなまれることもなく、前進を続けることができるだろう。

コンサル業界では長く「バリュー」という概念が大切にされてきた。「バリュー」とは何か。日本語に訳せば「付加価値」とも言う。あなたの給料は、あなたが仕事を通じて加えた価値の対価として支払われている。「バリュー」はコンサルに限らず、すべてのビジネスの基本であり、それゆえに経営を語るコンサルタントにとってはこれ以上ないほど大切な概念なのである。

また、高給取りとして知られるコンサルタントは、なおさら自らのバリューを意識せざるを得ない。たとえば、大企業をクライアントとしたコンサルティングのプロジェクトは、小さな案件を1件立ち上げるだけで数千万円程度のコストがかかる。クライアント企業の従業員の数倍、数十倍のフィーが、外からやってきたコンサルタントに支払われるのである。

その高額のフィーを正当化する理由とは何か? それはクライアントが想像もできなかったような、多大な「バリュー」を短期間で出すことができる特殊な職業だからであり、それこそがコンサルタントの存在意義なのである。

## バリューを出し続ける者のみが生き残っていく

つまるところ、「バリューを出せるコンサルタントは生き残れる」「バリューを出せないコンサルタントは生き残れない」というシンプルな話であり、それは昨今に始まったことではない。英語を身につければ生き残れる、AIを使えれば生き残れるという話ではなく、今、目の前にいるクライアントに対してどれだけバリューを発揮できるのか、ということが問われているし、コンサルタントはそれのみを考えればいいのだ。

とはいえ、昨今では高額のフィーに見合うバリューを出せるコンサルタントは減ってきているのが実情だ。

私はアクセンチュア、デロイト、PwCなどBIG4を含むコンサルティングファームを20年以上渡り歩いてきた。最終的にはパートナーまで昇格したのち、現在は青山学院大学で学部長を務めながら、経営コンサルティングも並行して行っている。

この20年の中で、クライアントに対してバリューを発揮するために私がやってきたことというのは、決して表面的なロジカルシンキングや仮説思考、魅力的な資料の作り方といった、コンサルのスキルとして一般に知られているようなものだけではない。根回し、接待、交渉、謝罪といった、ウェットで泥臭い技術を交えながら、手段を問わずクライアントの期待を上回るバリューを出すことにこだわってきた。

イノベーションがアイデア単体で生み出されることはほとんどない。どれほどイノベーティブな人材だろうと、一匹狼では大きな事は成せない。イノベーションは人と人との関係性によって起こすものだ。そしてイノベーションの種は机上の空論ではなく、泥臭い実践にこそ宿る。真の戦略思考にはB面がある。ほとんど表で語られることはなく、暗黙知の場合が多いが、本著では包み隠さず伝えていく。こうした思考やノウハウは、コンサルタントとして突き抜けた評価を得たいと思う読者にとっての指針になるだろうし、コンサルタントに限らずビジネスパーソンとして活躍を目指すあらゆる人にも役立ててもらえると考えている。

# なぜコンサルだけが高額のフィーをもらえるのか?

## バリューは「対価」そのもの

「仕事しようよ」

私が若手コンサルとして働いていたとき、今でも忘れられぬ強烈な言葉を浴びせられたことがある。それは「仕事しようよ」の一言だ。しかも、この言葉は私がサボって寝ているときではなく、徹夜明けに資料を持っていったときに投げかけられた。

ただ、その当時の私はそう言われても仕方のない仕事をしていた。実際、この言葉に対しても「ふざけんな。お前の指示が悪いからだ」と内心思っていたりもした。しかし、すぐに自分が悪いのだと気づいた。

若手の頃は特にそうなのだが、不眠不休で資料作成をしていれば、なんとなく仕事をした気になってしまう。しかし本来の仕事とは、クライアントにバリューを提供することに他ならない。

「君、プロジェクトでバリューを出せているか?」「バリューのないアイデアだ」など、コンサルタントを中心に用いられてきた「バリュー(≒付加価値)」という言葉が昨今、一般的なビジネス用語として浸透してきたのを感じる。

ただし、コンサルタントの中でも「バリュー」という言葉をどこまで適切に捉えているかは疑問だ。コンサルタントが「(自分は)バリューを出している」と考えていたとしても、発注者であるクライアントが「バリュー」を感じていなければ、それは勝手な思い込みに過ぎない。

コンサルの仕事は経営者に助言をすることだと勘違いしている人がいる。そんな曖昧な仕事があるわけがない。出発点からして間違えている。コンサルの仕事は本書のタイトルにもなっている通り、徹底的にバリューのことを考えることに集約される。

私の考える「バリュー」の定義を突き詰めて考えると、「対価に値するか」に尽きる。コンサルとクライアントにはインタラクティブな関係があり、バリューを提供した対価にフィーを受け取る。この関係性が大原則だ。そのため、単価を上げたければ、より一層のバリューを出さなければならない。単価の低さはバリューの少なさを物語っている。とてもシンプルな話である。

しばしば若手のコンサルや学生から「バリューを出すために、どんな勉強をすればいいですか?」と質問を投げかけられるが、この問いは馬鹿げている。なぜならその答えを考えることこそが、バリューを出す第一歩だからだ。

バリューを差し出すべき相手は何を求めているのか。まずはニーズを把握した上で、相手の想定・期待を上回って、初めてバリュー(=対価)が生まれる。コンサルはクライアントから直接、報酬であるフィーをもらう仕事のためこの原則が理解しやすいだろう。

ただ、他の業種であろうと社会人であればこの感覚は普通に持っていなくてはならない。たとえばバックオフィス業務である人事や総務だろうと、仕事の向こう側には仕事を依頼しているステークホルダーが必ず存在する。お金を支払ってくれる相手が目の前に見えなくても、自分の提供価値が成り立つ構造を理解しなくてはならない。

その意味で、世の中に存在するほとんどすべての仕事で「バリュー思考」は武器になるのだ。

いかがだったでしょうか?このバリューの考え方がコンサルタントの皆さん、だけではなく全ての上を目指す方々のお役にたてることを願っています。是非、手に取って読んでください。

Peace out,

エリック


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