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中山大障害覇者マイネルグロン紹介【ゴールドシップ産駒】

2023年12月23日、障害G1中山大障害にてゴールドシップ産駒マイネルグロン号が優勝しました。
青木厩舎と父ゴールドシップへ最高の結果をもたらしたマイネルグロンのこれまでの経歴を紹介をしたいと思います。
中山大障害でマイネルグロンを初めて知った方向けの記事です。

・マイネルグロンの血統評論ではありません
・競馬の予想の役に立たない情報です
・この情報の一部はX(Twitter)でも公開しています。

この記事は2023年中山大障害まで。
追記:2023年度のJRA賞受賞について加筆修正しました。
既読の方は目次にてJRA賞受賞の項目へお進みください。


マイネプリテンダー牝系とマイネヌーヴェル

マイネルグロン号(Meiner Grand)
意味由来:冠名+気高い、雄大な(フランス語)

ゴールドシップ
マイネヌーヴェル
母父ブライアンズタイム

マイネルグロン血統

生産牧場:ビッグレッドファーム(以下BRF)所属クラブ:ラフィアンターフマンクラブ(以下ラフィアン)

ラフィアン所属のゴールドシップ産駒と言えばおそらくオークスを勝利したユーバーレーベンを思い浮かべると思いますが、マイネルグロンはユーバーレーベンの叔父にあたります。

ユーバーレーベンやマイネルグロンを輩出したマイネプリテンダーという繁殖牝馬の一族は、ビッグレッドファームの名牝系です。


マイネプリテンダー牝系
マイネテレジア以降の牝系

牝系の祖マイネプリテンダーは1997年に故岡田総帥がニュージーランドで購買した牝馬。
4戦1勝2着3回の連対率100%の優秀な成績でしたが脚部不安で引退。
BRFへ繫殖入り後、わずか10歳でこの世を去るまでに誕生した5頭の内4頭が重賞を制覇するという非常に優秀な繁殖牝馬でした。

以下5頭 マイネヌーヴェル産駒

初仔マイネヌーヴェル・牝馬・フラワーC(G3)制覇

第2仔マイネルヌーヴォー・牡馬・未出走

第3仔マイネルネオス・牡馬・中山グランドジャンプ(JG1)

第4仔マイネルアワグラス・牡馬・シリウスS(G3)

第5仔マイネルチャールズ・牡馬・弥生賞(G2)・京成杯(G3)

5頭の子供の内、牝馬はマイネヌーヴェル1頭のみ。
マイネプリテンダーの血はマイネヌーヴェル1頭が繋いできました。
その後マイネヌーヴェルの初仔マイネテレジアから新潟記念(G3)を制したマイネルファンロン、オークスを制したユーバーレーベンが誕生。

母マイネプリテンダーと娘マイネテレジアから重賞馬が輩出される中、マイネルグロンが2023年10月15日に東京ハイジャンプ(JG2)を優勝するまでマイネヌーヴェルの仔からは重賞馬が生まれていないという状態でした。

マイネルグロンはそのマイネヌーヴェルの第10仔。
母マイネヌーヴェルは第11仔ヴァイルマティ(父ゴールドシップ)を出産後、2020年1月25日にこの世を去りました。

高橋厩舎時代

マイネルグロンは美浦の高橋祥泰厩舎へ所属し新馬戦、未勝利戦、格上挑戦、障害へ転向の計13戦後、高橋調教師の定年引退のため青木孝文厩舎へ転厩します。

高橋厩舎時代

平地成績は11戦中2着4回、3着1回と善戦しながらも勝ち上がれなかったマイネルグロン。
6月7日生まれという遅生まれのため体の成長が間に合わなかったということもあるかと思います。
とはいえ個人的な感想なので本気にしてほしくない話ですが、2着を4回も経験しながら勝ちきれないのは騎手選択に大きな原因があるのでは…と思ってしまいます。

ゴールドシップ産駒に柴田大知騎手が乗った時の勝率
9勝 / 218レース = 4.1%(2023年12月30日現在)

ウマホ

未勝利戦が終わったあと格上挑戦でM.デムーロ(ゴールドシップ産駒での勝率 9勝 / 78レース =11.5%)を起用するも時すでに遅し。
もっと早く鞍上を変えていたらマイネルグロンは勝ち上がれたかもしれない。
そのかわりに5歳という若さで栄光を手にしていなかったのかもしれないと思うと…なんとも皮肉な話です。

障害へ挑戦したマイネルグロンは障害2戦目にして熊沢騎手を背に2着と障害センスの片鱗を窺わせましたが、高橋調教師はこの年に定年引退のため同じ美浦の青木厩舎へ転厩となります。

青木厩舎時代

障害馬として青木厩舎へ転厩したマイネルグロンの初戦(障害3戦目)
五十嵐騎手を背に念願の初勝利を収めます。

そこからうっかり天然マイネルグロンの(面白)アクシデントと快進撃の日々が始まります。

青木厩舎時代

障害3戦目を初勝利で終えたマイネルグロンですが、プール調教で転倒してしまい右眼窩を骨折してしまいます。

2022年3月18日
マイネルグロンは、美浦に滞在中。先週、プールで転倒の際に打ち付けた右眼の腹が引かず、あらためて診察を受けた際に「右眼窩の骨折」の疑いが指摘されました。青木調教師は「特に治療を施せる箇所ではありません。保存療法で回復を待つしかない状況です。申し訳ございません。眼窩の骨に大きなずれはなく、失明のリスクは低いというのが幸いでした。回復まで時間を要するのか、それとも短期間で復帰できるようになるのか、まだなんとも言えません。いずれにしろ休養させることになりますが、もう少し様子を見て移動させて大丈夫という段階で、牧場へ出す予定です」と述べていました。

(嘘か本当か立ち上がって転んだという噂も)
眼窩(がんか)とは眼球やその付属の構造物が入っている骨の部屋のことで、幸いにも視力に影響を及ぼす骨のずれもなく、失明の危機を免れます。
もしも失明していたら障害レースに出られなくなるところでした。

Q5-24
痼疾馬(こしつば)の出走制限とは。
1眼または両眼の失明馬は出走できません。ただし、JRAの競走馬登録を受けた後に1眼を失明した馬は、平地競走に限って出走することができます。

JRAよくある問い合わせ5.競走(出走)

怪我を治したマイネルグロンは休み明けに初重賞戦へ向かいます。
障害レースは人馬の阿吽の呼吸が必要不可欠なため鞍上継続する競走馬が多いのですが、マイネルグロンは初勝利した五十嵐騎手から草野騎手へと乗り替わり。

結果は9着。

翌年2023年3月25日に五十嵐騎手へ戻るまで乗り替わりが続きますが、新潟ジャンプS後はOP戦を伴騎手と3着清秋ジャンプS(OP)を小野寺騎手と2着と鞍上が替わっても好調を維持します。

五十嵐騎手に手が戻った障害4歳以上OP戦。
待ちに待ったOP戦勝利を果たします。

翌月4月22日も五十嵐騎手とOP戦連勝。
マイネルグロンの障害の才能が咲きつつありました。

2023年5月26日、6月9日の近況でブルースターズファームへ放牧に出たマイネルグロンはその生粋の天然さを発揮します。

2023年5月26日
マイネルグロンはブルースターズファームに滞在中。昼夜放牧を行っています。場長は「体調も脚元も問題なく、元気いっぱいです。隣の放牧地にいるのは牡馬なのですが、お構いなしに馬っ気を出しています」と述べていました。(5月22日現在の近況)

2週間後の近況

2023年6月9日
マイネルグロンはブルースターズファームに滞在中。昼夜放牧を行っています。場長は「状態は良い意味で変わりなく、元気いっぱいです。ただ、隣の放牧地の馬に馬っ気を出してブヒブヒ鳴くことはなくなりました。相手が牡馬だということにようやく気付いたようです」と述べていました。(6月4日現在の近況)

牡馬を牝馬と勘違いして馬っ気出してブヒブヒ鳴いていたと暴露されるマイネルグロン。
当初は元気が有り余りすぎて馬っ気出てるのかな?と思っていましたが完全にただの勘違い。
淡々と近況を述べる冷静な文章も相まってファンを爆笑の渦へ巻き込みました。

「マイネルグロン」を検索した際にサジェストに出てくる「ブヒブヒ」はここからきています。

さらに7月。
今度は牧柵の破片が首に刺さります(⁉)

2023年7月14日
マイネルグロンは7日に真歌からブルースターズファームへ移動しました。騎乗を切り上げて昼夜牧場を行っています。場長は「3週間、乗ったところで予定どおり短期の放牧を行うことにしました。ところが、中間、首に牧柵の破片が刺さるアクシデント。3センチほどの木っ端を除去しています。念のため獣医にエコー検査を行ってもらったところ、残っている木片はなく傷自体も皮下の浅いところでしたので回復に向かうでしょう。消毒しつつ昼夜放牧を継続していきます」と述べていました。

ナチュラルに九死に一生を得たマイネルグロン。
なにがどうして放牧中に牧柵が刺さるのか。
と思いましたが、SNSで集団放牧をしていた仔馬が牧柵を突き破って脱走した時の主犯格の仔も顔や首に怪我をしていたのを思い出しました。
(想像ですがグロンも自分で突っ込んで行ったか、止まれなかったかのどちらかでしょうか…)
刺さり方次第では最悪の結果になっていたでしょう。
何はともあれ無事でよかったです。

レースに関係ないほぼ自業自得の怪我をしているマイネルグロンに青木調教師が頭を抱えている想像ばかり浮かんできますが…
次走はJG2東京ハイジャンプ。
ここで先約がある五十嵐騎手から再び乗り替わり。

鞍上は障害の絶対王者オジュウチョウサンの相棒、石神深一騎手。

大庭和弥、熊沢重文、五十嵐雄祐、草野太郎、伴啓太、小野寺祐太。
通算7人目の騎手、石神深一。

先ほど記載した通り障害レースは人馬の呼吸を合わせるため鞍上継続することが多いレースですが、マイネルグロンの鞍上の乗り替わりは比較的多く、しかも重賞戦のたびに鞍上が替わるという結構不利な状況。

しかし今回は障害レジェンド石神騎手。
東京での障害レースは初挑戦でしたが、石神騎手とは期待のコンビに。

2023年10月15日
東京ハイジャンプ当日。
マイネルグロンはスタンド前4つの障害をロスなく飛越。
他馬が減速するタイミングで飛越しながら追い越し3番手につけると逃げるホッコーメヴィウスを直線で差し切り。

見事、東京ハイジャンプ(JG2)優勝!

自身重賞初勝利とともに
青木厩舎へ初重賞をプレゼント。
母マイネヌーヴェルへ初重賞をプレゼント。
父ゴールドシップへ初障害重賞をプレゼント。

8番人気と低い評価を覆し父、母、先生へと重賞を届けた孝行息子。

2023年10月15日
石神騎手「これまでこの馬に騎乗経験のある騎手たちから特徴を聞いていました。『飛越がうまい』『道悪も上手』など。ですので、今日の条件は合うのでは、と思っていたのです。もう一点、言われていたのは『行きたがることがある』ということ。今日も正面スタンド前までムキになって走っていましたが、ホッコーメビウスの後ろに入れられてからは落ち着いてくれました。4コーナ一の手ごたえは良く、直線もしっかり伸びてくれましたね。飛越の失敗は特にありませんでしたし、この強い相手に勝ち切ってくれたのは価値があります。
厩舎も脚元に配慮しての調整で、9月末に坂路が使えるようになってからしっかり乗り込んでこれましたが、まだ良化の途上でした。次はもっと良くなりそうですね」

青木調教師「この中間は脚に注意を払いながら進めてきて、正直、仕上がりきってはいない状況でした。ですので、メンバーがそろったここで今後につながる競馬を、と思っていました。それが強い勝ち方をしてくれてよかったです。今後については、美浦へ戻って脚元をよくチェックしたうえでまた検討します」

マイネルグロンの特徴は
・飛越が上手い
・道悪も上手(競馬ブックでは「道悪の鬼と言っていいかも」とのこと)
鞍上石神騎手もべた褒めの出来でした。

騎手、調教師ともに良化の途中の仕上がり切っていない7割の出来だったというマイネルグロン。
ここまで3連勝。

レース後には仲の良い調教師等から「泣いているんじゃないの?」といじられると「泣くのはまだ先までとっておきます」と答えた青木調教師。
その涙が流れる日は…

中山大障害

障害レースの暮れの大舞台。
JG1中山大障害。

中山大障害のコースにはマイネルグロンがまだ経験していない1年に2回しか使われない大竹柵障害、大いけ垣障害(通称:赤レンガ)を飛越する襷コース(大障害コース)が存在する。

マイネルグロンは…1番人気
オッズは一時1.5倍近くになるという絶大な支持を得ます。

中山大障害初出走の馬がなぜ1番人気になるのか。
結果はご存じとは思いますが、一部では危険な人気馬という見方がされていました。

反対に、SNSやYouTubeでマイネルグロンを本命にした理由を解説をされていた方が複数いたので簡単に紹介します。

詳細は特に詳しい解説をされていた@wongwong_Oさんのポストをご覧ください。

①近走評価
3連勝中の上がり馬。レースごとに相手も強くなっていく中での連勝である。
しかし本来この馬は叩き良化型。(調教師曰く東京ハイジャンプは叩きということで7割仕上げだった)
休み明け2戦目までは平地時代合わせても馬券外なし。
また前走で重賞トップ層をまとめて負かしたというのは好材料。

②中山適性
未勝利戦3回、清秋JSと経験豊富。
特に清秋JSでは「中山で騎乗して障害未勝利、障害OP以上で2着以上がマイネルグロン以外で一度もない(2022年9月24日当時は2着1回(グロン)3着3回)」という中山が大の苦手な小野寺騎手が2着。道悪の鬼ではあっても相当なハンデを背負っての馬券内から、中山巧者の石神騎手に乗り替わりは大きなプラス。

2023年12月31日現在

③馬場適性と距離
どちらかというとパワースタミナ型であるが、福島OP戦ではスピードとスタミナが桁違いすぎた結果逃げて勝利を収めている。
良馬場でも2-0-1-2と極端に成績が落ちるわけではない。
道悪がベストだが良馬場でもそれなりのパフォーマンスは可能だろう。
3390m以上の出走はないがスタミナは折り紙付き。
福島3300mは同条件を62kgで勝つマイネルヴァッサーとネビーイームに3kg差で逃げての勝利。
加えてこの馬以外の先行馬全滅。
本来逃げ馬ではないこの馬が重賞3着馬相手に61kg背負って逃げ切り圧勝ならば、スタミナについてはJG1初出走組の中では桁違いだろう。

④操縦性と人馬の相性
この馬は主戦と呼べる騎手がおらず(強いて言えば五十嵐騎手か)中山大障害は障害10レース目であるが騎乗した騎手は7人と乗り替わりが激しい。
人馬が息を合わせて初めて成立する障害レースにおいて誰が乗っても結果を出せる馬というのは珍しい。
初コース、テン乗りでも対応力は抜群。鞍上次第でさらにパフォーマンスを上げるだろう。
また石神騎手は「石神ライン」と呼ばれるほどの襷コース取りが上手く、11歳のオジュウチョウサンやテン乗りのニホンピロバロンを勝利に導いている。
鞍上との相性も問題なし。

またJRAデータ分析でも(オジュウチョウサンというデータ破壊者はいるものの)好走条件に該当する箇所が多かった。
JRA 中山大障害:データ分析】に当てはまった条件

①東京ハイジャンプ組が大活躍
過去10年の前走別成績を調べると、5勝を挙げ3着内率が50%を超えているJ・GⅡ組の好成績が目を引く。同組の前走はいずれも東京ハイジャンプで、レース間隔が2か月以上空いていた。また、J・GⅢからの臨戦で優勝した2015年のアップトゥデイトは小倉サマージャンプ以来、約5か月ぶりの出走だった。

②中山の障害コースでの実績をチェック
中山競馬場の障害コースには、深い谷を下って上る他場にはない坂路障害がある。そのため、コース適性がものを言うのか、過去10年の3着以内馬延べ30頭中21頭に中山の障害レースの優勝経験があった。特に、同年に中山の障害レースを勝っていた馬が〔6・2・5・15〕(3着内率46.4%)と好成績なので、該当馬は高く評価したい。

③500キログラム以上の馬が好成績
過去10年の馬体重別成績を調べると、500キログラム以上の馬が7勝をマークし、好走率も500キログラム未満の馬を大きく上回っている。単勝2番人気以内に推された500キログラム以上の馬は〔5・3・0・3〕と3着内率が70%を超えてくるので、軸として信頼できそうだ。一方、6番人気以下だった500キログラム以上の馬が〔0・0・0・24〕と振るっていない点は覚えておいて損はないだろう。

以上の予想から1番人気に押されたマイネルグロン。

前走は7割の出来と話した青木調教師。
「中山大障害は過去一(の出来)で出せる」と自信のコメント。

自信満々なのは石神騎手も同じ。
インタビューではこんな言葉が。

「負けたら乗り役のせいです」

他でもない、その「乗り役」として、こんなに自信にあふれた言葉があるだろうか。今年3戦3勝で初のJ・G1に臨むマイネルグロン。石神自ら手綱を取った美浦坂路では、その自信を裏打ちする素晴らしい動きだった。

青木師は「東京ハイジャンプは叩き台のつもりで半信半疑だった。その後がとにかく順調。過去一番(の出来)で出せる」と胸を張る。石神も見立ては同じ。「障害界を盛り上げるためにスターを誕生させたい。ポストオジュウ?その素養、期待もありますよ」。このコメントは決して“盛って”はいない。

中山大障害】マイネルグロン加速滑らか「ポストオジュウ」に石神は自信 初のJ・G1に臨む


「負けたら乗り役のせい」
「ポストオジュウ?その素養、期待もありますよ」

障害のレジェンド石神騎手がそこまで言うのかと衝撃を受けました。
(ちなみにゴールドシップ産駒ファンの私は調教師が吹いて惜敗、大敗している様子をたくさん見てきているので内心戦々恐々でした)

大きな期待と王者の相棒を背にマイネルグロンは12月23日中山大障害へ挑みます。

中山大障害、当日
マイネルグロン
3枠3番 1番人気(2.0倍)
516kg(-2)

よく晴れた中山競馬場。
スタート直後からやる気満々で序盤は掛かったマイネルグロン。
その後はビレッジイーグル、ニシノデイジー、ジューンベロシティ、ギガバッケンにつける5番手の中団。
次々と飛越をクリアし、大竹柵では前2頭の間で飛越しながら追い越し3番手に。

実はマイネルグロン、過去勝利した3戦すべて通過順3番手以上。

通過順の赤色

ここで私は「これはもしや?」と勝利の予感がしました。

大いけ垣では少し着地が乱れるも根性で耐え、前を行く2頭を追います。
3番手から4番手までは約10馬身と大きく離れました。

逃げるニシノデイジーを追いかけるビレッジイーグルとそのすぐ後ろへ迫るマイネルグロン。
向こう正面の竹柵でビレッジイーグルを飛越しながら追い越し、直後にニシノデイジーを捉えて交わして先頭に。

最後の障害も危なげなく直線へ。
スタンド前、最後の直線に入ると完全に独走状態となったマイネルグロン。
残り200m通過後もさらに2番手ニシノデイジーとの差は開き先頭でゴール。

なんと10馬身差の圧勝!!
中山大障害の10馬身差勝ちはJ・G1となってから良馬場での最大着差でした。

衝撃的な圧勝で初の中山大障害を制したマイネルグロン。
新たな障害王が誕生しました。

マイネルグロン号
・7割の出来で重賞初勝利(JG2東京ハイジャンプ)
・過去一の出来でJG1中山大障害を10馬身差の圧勝
・2023年、年間無敗を達成
・青木厩舎へ厩舎開業以来初のJG1をプレゼント
・母マイネヌーヴェルへ初のJG1をプレゼント
・父ゴールドシップへ初のJG1をプレゼント
・石神騎手8年連続JG1勝利

また、この勝利でマイネプリテンダー牝系は3世代連続障害G1含むG1馬輩出の牝系となりました。

たった1頭で血を繋ぐも3世代で唯一重賞馬が生まれていなかったマイネヌーヴェル。
11頭もの子供に恵まれながらも子の活躍を目にすることなく天国へ。
それでも、10番目に生まれた息子が亡き母へ最高のプレゼントを贈りました。

また、マイネヌーヴェルは師匠である小桧山先生を前に涙を抑え切れなかった青木調教師とも深い縁がありました。

高校卒業後にビッグレッドファームへ就職した青木調教師。
同牧場で身近な存在だったのがマイネルグロンの母マイネヌーヴェル。
師は「03年フラワーCを勝ったし、凄くいい動きをするなと思っていました。その子供で勝てたのは凄くうれしい。今(グロン)の担当をしてくれているのも当時の先輩。ほんの少しではありますが、古巣に恩返しできたのがうれしいですね」
また、師にはもう一頭、忘れられない馬がいる。その後、美浦トレセンで働き出し、伊藤正徳厩舎で初めて担当したのがカナエカイウンという馬だった。
05年京都ジャンプSで重賞に初挑戦。師は自信を胸に現地で見守ったが、不運にも障害でバランスを崩して転倒。二度と自分の元に帰ってくることはなかった。「本当につらい出来事でした。だから重賞初勝利が障害というのはどこか不思議だなと思うし、ドラマを感じてしまいます」

天国の愛馬の分まで グロンと大一番に挑む青木師

BRF生産馬のマイネヌーヴェルの子供で愛馬が亡くなった障害重賞を勝利。
まるで運命のような不思議な縁で結ばれたマイネルグロンと青木調教師。
涙とともに「おめでとう」の言葉が溢れてきました。

マイネルグロンについて

青木調教師と石神騎手はレース前やレース後、マイネルグロンについて語っています。

ーーこの馬は立派だなと感じるところを教えてください。

青木調教師:気持ちのスイッチの切り替えが上手ですね。転厩してきた当初は物見をすることもありましたが、今はあまり余計なことをせず落ち着いて日常を過ごしています。だからと言って猫可愛がり出来るようなタイプではなく気性のキツさも併せ持っているので、それだけ力を入れるところとリラックスするところの切り替えが上手なんだろうと思います。

放牧先での様子をSNSの動画で見ましたが、牛かと思うくらいゆったり歩いていましたから(笑)。あとは内臓も丈夫ですし、脚元は気を遣いながら坂路中心で調整していますが、悪くなることもなくしっかり調整出来ているところも偉いなと思います。

【中山大障害】前走より状態アップ!マイネルグロンが4連勝で初G1制覇を目指す

石神騎手
グロンはゲートが速い馬ではないので、スタートはかなり気をつけました。このコースは中団より前目のポジションにいないと勝つ可能性が下がる、位置取りが大切なレースです。出遅れだけはしないようにと考えていました。陣営からの事前の指示はなく、僕に任せてくれていたのもあり、程よい緊張でレースに行くことが出来ました。レースは順調に進められて、大竹柵を飛んでからは、もう僕が落ちなければ大丈夫だと勝利を確信しました。

普段のグロンは大人しい馬。ほとんど手がかからないタイプ。
まだグロンと出会ってから日も浅いので、これから思い出を作っていく段階にはありますが、競馬に行ってしっかりと結果を出してくれる良いパートナーです。

グロンは心臓がかなり強い馬で、スタミナも抜群のため、長く良い脚を使えますね。さらに飛越スピードも一流。とても心強いですね。
ただ、それはレースでのこと。
実は、初めて跨ったときの印象は"牛みたい"というものでした。
ですから『これで競馬行って大丈夫なのかなぁ…』と思ったものです。
調教と競馬でオンオフのスイッチがあるのも、グロンの良いところかと思います。

[石神深一ブログ]マイネルグロンと中山大障害を制覇できました!来年もよろしくお願いいたします。

心臓の強さにスタミナ、長く良い脚を使えるところは父ゴールドシップ譲りでしょうか。
調教師と騎手の双方から「牛みたい」と言われるほどオンオフのスイッチがはっきりしているようです。
(姪ユーバーレーベンや甥マイネルエンペラーも「おっとりしている」「大人しい」と言われていたので、性格はこの牝系一族のゴールドシップ産駒特有のものかもしれません)

2023年度JRA賞受賞

2024年1月69日、2023年度のJRA賞が発表され、
見事マイネルグロンが最優秀障害馬に選ばれました。

獲得票は297票中275票
2023年は4戦4勝の4連勝年間無敗で文句なしの受賞となりました。

(グレード制導入後では)オジュウチョウサンに次ぐ通算5頭目の障害競走年間無敗の最優秀障害馬という快挙。

勝ち上がれなかった平地時代。
障害で才能が芽吹くも調教師定年引退で厩舎解散。
転厩後、自業自得な怪我を連発も障害の才能が大爆発。
騎手乗り替わりでも重賞連勝で父、厩舎へたくさんの「初」をプレゼント。
語っても語りつくせない障害ニュースター誕生の瞬間でした。

青木孝文調教師
「まずシンプルにうれしいです。本当に光栄です。中山大障害を無事にゴールしてくれて、G1を勝っただけでは最優秀障害馬のタイトルを取れないとは思っていたので、大障害を含めたそれまでのレースでの走りも評価していただけたのかと思います。素直に喜びたいですね。生産、育成をした牧場のみなさん、馬主さん、多くの方に支えられてここまできて、お世話になった方に大きな勲章でお返しできたのは良かったと思います。


最後に

レース後、中山大障害のジョッキーカメラ映像が公開されました。

速度計があることでマイネルグロンがほとんどスピードを落とさず飛越しているのがわかります。
向こう正面でビレッジイーグルを捉えた竹柵では60km近くもの速さで障害へ向かっている様子も。

ジューンベロシティとダイシンクローバーのジョッキーカメラ映像も公開されているので見比べるとさらに面白いです。

ジョッキーカメラ映像の最後に石神騎手はつぶやきます。

「素晴らしい。オジュウと1秒しか変わんないもん」

万雷の拍手の中マイネルグロンとかつての相棒を比べる石神騎手。
絶対王者の背を知る石神深一騎手は、マイネルグロンに「ポストオジュウ」になってほしいと話していました。

「チャンスだと思うんです。僕のことじゃなく、グロンはスターになる可能性があると思う。3連勝で東京ハイジャンプを勝って、ここも勝てれば、障害競走のスターになれる。ゴールドシップ産駒で、オジュウ(オジュウチョウサン)と同じステイゴールドの系統。何か悪さをしようとするときの身のこなしの瞬間的な速さがすごいんですよ」

【中山便り】今年も熱かった中山大障害!いよいよ明日はグランプリ有馬記念です!

また、障害騎手の引退が続いてるので、近頃は若い子達に障害を宣伝中です。どうにか「障害に乗ってみたい!」と思ってもらえるように、面白さを伝えていこうと思っています。
今年も重賞を勝つことが出来て、G1まで勝たせて貰える馬に巡り会えました。
グロンと出会えたことが、今年の大きな収穫です。来年も楽しみですね。

[石神深一ブログ]マイネルグロンと中山大障害を制覇できました!来年もよろしくお願いいたします。

また今回の勝利で障害の絶対王者オジュウチョウサンとマイネルグロンには共通点ができました。

オジュウチョウサン
・5歳でJG1初制覇(中山グランドジャンプ)
・鞍上石神騎手
・ステイゴールド産駒
2022年引退

マイネルグロン
・5歳でJG1初制覇(中山大障害)
・鞍上石神騎手
・ステイゴールド系ゴールドシップ産駒
2023年才能開花

2023年の中山大障害は、騎手や厩舎の方々がオジュウチョウサン引退後も障害レースを盛り上げようと頑張る姿を見ることができた一戦でした。

マイネルグロンがこれから背負うのは障害レースの未来。

マイネルグロンの経歴を振り返ると障害レースへ導かれたような偶然が重なっています。

けれどマイネプリテンダー牝系は屈腱炎で有名な牝系。
母マイネヌーヴェルも姪ユーバーレーベンも屈腱炎に見舞われました。
だからこそオジュウの後継でなくてもいい。
天然マイネルグロンがマイペースに新しい障害の舞台を輝かせてほしいと願います。


マイネルグロンや障害レースに興味が湧いた方へ。

辿り着いた場所で輝くために一生懸命に走るジャンプホース達を
競馬ファンが心を一つに全馬無事完走を願うその日を
一緒に盛り上げていただけたら幸いです。

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