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Essay|2人の政治家にみる勇気の本質

文化には、政治を平和へ導くチカラがあると思う。

いよいよ第92回アカデミー賞の発表がはじまる。トランプ政権の中、ハリウッドがどんな選択をするのか。ある意味、“政治VS文化”の図さえ浮かぶ昨今のアカデミー賞で受賞者たちはどんなスピーチを聞かせてくれるのか。

そんなことを思いながら、政治家たちを描いた『リンカーン』と『ウィストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』を観た。

2作とも過去にアカデミー賞主演男優賞を受賞した作品なのだけど、役者たちの最高のお芝居にぐいぐい引き込まれてまるで、その時代にタイムスリップしたみたいだった。そんな大統領を描いた映画に今、フォーカスを当ててみたい。

『リンカーン』
(監督:スティーヴン・スピルバーグ、主演:ダニエル・デイ=ルイス/2012年)

『ウィストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
(監督:ジョー・ライト、主演:ゲイリー・オールドマン/2017年)


実在の人物を描くということ

2作に共通して、とにもかくにも脚本が素晴らしい。 ひとりの人物を追いかける視点。実在の人物の何を切り取りどう描くのか。

『リンカーン』では南北戦争の最中、奴隷制度を撤廃するための修正案を賛成にまで導く最後の4ヶ月を。『ウィストン・チャーチル』では1940年のイギリス首相へ指名されたばかりの4週間を描いている。

そう。彼らの半生からすればおそらくもっと描きたくなってしまうところをほんの短いシンボリックなエピソードだけを切り取り、それ以外は描いていない。でも役者たちの見事な人物描写に説得力があるからか、そこに行き着くまでの彼らの積み重ねを十分に想像できるのだ。

そして彼らを取り巻く様々な主張は、利害や政治的なねじれと混沌さに満ちているのだけど、映画の真ん中にはリーダーを任された男の勇気がちゃんとあった。


リアリティを追求したメイクと美術のチカラ

映画が始まってまず驚くのは、まるでそこに本人がいるみたいな再現性だ。

「君の名は?」とリンカーンは、戦場へ行く彼らの名前を聞き、静かに座って彼らの声に耳を傾ける。リンカーンに会ったことはそりゃもちろんないのだけど、ダニエル・デイ=ルイスはもうリンカーンなんじゃないかと思うほど生き写しで、役者のすごさを思い知る。


ゲイリー・オールドマンが演じるチャーチルは、オープニングで葉巻に火をつけて登場する。このほんの数分のシーンでチャーチルのキャラクターが伝わってくる。少し猫背で小太り。せっかちで怖いけど奥様の言うことには従うかわいい人。オファーを受けたゲイリー・オールドマンが、映画の仕事から離れていたメイクアップアーティストのカズ・ヒロ(辻一弘)さんに特殊メイクを依頼し、二人三脚でチャーチルを作り上げた。それはそれは見事で、この素晴らしさを観られる幸せにニヤニヤしてしまう。


迷いの先にある賢さと強さ

ダンケルクが追い詰められ、ベルギーが降参し、フランスもいまにも落ちそうになった時、さすがのチャーチルもムッソリーニを通じたヒトラーとの和平交渉がちらついていた。独裁政治の配下に入ってでも国を生かすべきか。そんな選択はしたくないが、勝利を主張すれば痛みを伴うことはわかっていて、迷うのだ。妻は言う「欠点があるから強くなれる。迷いがあるから賢くなれる」と。

これまでバスにすら乗ったことのなかったチャーチルは、国王の後押しもあって市民の声を聞きに行く。地下鉄で出会った人たちは、チャーチルを見つけて口々に自分の名前を名乗っていく。国民の中に答えがあったんだなぁと、観ている私は思わず号泣してしまう。


リンカーンにも葛藤する場面がある。修正案の票を集める後ろで、国務長官にさえ内緒で和平交渉も動かそうとしていた。新しい道を作る前に誰も答えを教えてくれる人はいない。でも戦争が長引き命を失う若者たちの訃報に、独りになって考える。考える。考える。そして、決断する。

(余談だけどこのメッセージを受け取る小さな役をアダム・ドライバーが演じていて「おぉ!」となる。)

みんなに憧れられ愛された大統領も最初からすごかったわけではなくて、実は私たちと変わらない身近な人間だということ知る。そこに至るまでの葛藤、夫としての弱さ、親としての不安を見続けた先に、民衆の前で演説するエンディングに涙が溢れて止まらなかった。この演説をきくために、150分観てきたんだなと。


表現をすることは、誰かを傷つけるかもしれない。それでも政治家たちの生き様に、映画を作る人たちの情熱に、勇気のバトンをもらうのだ。

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