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基底関数重なり誤差(BSSE)計算 [Gaussian]
この記事は、計算の基本的な操作はできる人向けに作成しています。
TS探索の方法(準備中)や三重項励起状態の計算は、過去の記事で紹介しているので、
興味があれば参照してみてください。
BSSEとは
BSSEとは、"Basis Set Superposition Error"の頭文字をとったもので、日本語では基底関数重なり誤差といいます。
分子間の相互作用エネルギー(結合エネルギー)を計算する場合、孤立系と合体系(会合体)から構成されます。
例えば、分子AとBの間の相互作用エネルギーを計算する場合は、
[相互作用エネルギー] = [合体系ABのエネルギー] - ([孤立系Aのエネルギー] + [孤立系Bのエネルギー])
で表すことができます。
同じ基底関数を用いても、合体系では、分子軌道についてAの基底関数とBの基底関数の両方を用いて展開されてしまうことで、計算した結果は孤立系よりも電子状態の記述がより改善されてしまい、実際の結合エネルギーよりも安定化された結果が得られます。
この時に生じている、実際の結合エネルギーとの差をBSSEと呼びます。
このBSSEは用いる基底系が小さければ小さいほど大きな値となります。
つまり、基底系が大きければBSSEも小さくなります。
このBSSEは基底関数の数と位置に依存しており、無限基底に近づくよう基底関数を拡張すればその誤差を極力小さくすることが可能となりますが、高い基底関数を使用しても「0」にすることはできないです。
Counter Poise(CP)法
孤立系Aのエネルギーを計算する時、孤立系Aの基底関数だけでなく、孤立系Bの基底関数も考慮することでこのBSSEを補正することができます。
このBSSEを取り除く(補正する)手法として、よく知られているのが"Counter Poise法"です。
このCP法は、
・Opt
・Freq
・Scan
等と併用が可能で、Optを加えることで合体系の形成に伴う構造変化による単量体の不安定化を考慮することができるので、会合体の解離に必要なエネルギーを求めることができます。
CP法の計算(Input)
・キーワードに"counterpoise=[孤立系の数]"を追加する。もし孤立系の数が2つであれば、"counterpoise=2"となる。
・座標入力の箇所で、左から
-原子
-x座標
-y座標
-z座標
となっているところ、その行の末尾にそれぞれフラグメントを入力する。
このフラグメントの最大値は、孤立系の数となっているので、"1"もしくは"2"となる。
分子のグループ分けのような感じです。
・通常のインプットファイルで"[全電荷] [全スピン]"を入力する行を、"[全電荷] [全スピン] [フラグメント1の電荷] [フラグメント1のスピン多重度] [フラグメント2の電荷] [フラグメント2のスピン多重度]"を順に入力する。
※ 値と値の間は半角スペースです。
▼Sample (Input)
# b3lyp/6-31g(d) counterpoise=2 opt
Calculate BSSE Value
0 1 0 1 0 1
H 0.00 0.00 0.92 1
F 0.17 0.00 2.73 2
H 0.77 0.00 3.43 2
F 0.00 0.00 0.00 1
CP法の計算(Output)
① 計算結果の*.logファイルをテキストエディターで開き、「BSSE energy」を検索します。
② 計算のフェーズで、何度かcounterposeが計算されますが、一番最後のものが最終的な結果になります。
③Output上では、以下のように出力されるかと思います。
(Versionに依って若干異なる場合はあります)
▼Sample (Output)
***** Axes restored to original set *****
Cartesian Forces: Max 0.003173180 RMS 0.001396841
CPIOFr: IOpCl= 0 IRwI=-1 IRwCP= 731 ICalc= 4 LCPTot= 2481 Len1MO= 5520 IndFrg= 30081
CPIOFr: IOpCl= 0 IRwI=-2 IRwCP= 731 ICalc= 0 LCPTot= 2481 Len1MO= 5520 IndFrg= 8001
Counterpoise corrected energy = -200.849151425414
BSSE energy = 0.004469932284
sum of monomers = -200.840275506951
complexation energy = -8.37 kcal/mole (raw)
complexation energy = -5.57 kcal/mole (corrected)
・complexation energy :相互作用エネルギー
・相互作用エネルギーのうち、「(raw)」は孤立系で他の分子の軌道の影響を考慮しない値を用いた計算値です。
・「(corrected)」は、他の分子の軌道の影響を考慮した値を用いた計算値です。
・今回のサンプルには"opt"のキーワードを追加したので、会合体の解離に必要なエネルギーを求めることができます。
これを求めるには、各フラグメントの分子毎に構造最適化をして(optのみでOK)、CP計算の*.logの「Counterpoise corrected energy」からエネルギーを引けば求まります。
最後に
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