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2020年5月、印象に残った音楽作品

2020年5月によく聴いた&印象に残った音楽作品について簡単な感想を書いていきます。この月にリリースされたものではない作品もあります。順不同です。

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●SPECIAL OTHERS『WAVE』

5月で一番聴いた作品にして、この月の個人的ベスト。

1曲目「Puzzle」のド頭からババーンと華やかな(だけどどこかしら懐かしい、昭和のテレビ番組のBGMになっていそうな)フレーズからして、「楽しすぎる、最高」って思ってしまったし、続く「TRIANGLE」もフックに出てくるエレピのメロディ(同じピッチの音を連続で鳴らすところ)が軽やかで愛らしすぎて体を揺らさずにはいられなかったし、詰まるところ序盤から虜になっていた。

あと聴いていてふと思ったのだけど、スペアザの曲って明確にサビがあったり、ギターやキーボードが歌に似た旋律をなぞっていたりする。しかもサビのメロディはとてもキャッチーで一発で頭に残る(特に「JAM」はそう)。

だからインストバンドの作品を聴いたことがない人でもとっつきやすいし、長年愛されるバンドになれたのかなと思った(実際、自分が初めてちゃんと聴いたインストバンドもスペアザだ)。けっこう前から聴いているのに、今更気がついた。笑

夕陽が水平線の向こう側に静かに沈んでいくような、チルな「Beautiful Orange」で締められるのも良い。リスナーの日常のBGMとして毎日聴ける一枚だ。


●長谷川白紙『夢の骨が襲いかかる!』

一回聴いただけで「これはやばい……」と戦慄してしまった作品。

昨年11月に衝撃的なアルバム『エアにに』を発表したのも記憶に新しい長谷川白紙がリリースした、弾き語りによるカバー6曲+オリジナル1曲を収録した今作。

彼のこれまでの楽曲は超高速ビートの中に美しい上物のメロディが立ち上がるというものが多い。しかし今作は弾き語り集であるため、それがやや封印されつつある(一部を除く)。代わりに浮き彫りになったのは、彼のシンプルな歌の素晴らしさだ。

たとえば崎山蒼志「旅の中で」のカバーでは、吐息に持ち前のまろやかな声をほんのり混ぜたようなボーカライゼーションや、消え入りそうな声から突然力強い発声に切り替える高度な抑揚などが登場。

また相対性理論「LOVEずっきゅん」のカバーでは、わざと拍からずらしたり、唐突にウィスパーボイスで歌い出したり、一文字一文字を区切って発声したりと自由で多彩なボーカルを披露している。サウンドのカオスさに定評があった彼だけど、今作ではその歌唱の目覚ましさを思う存分に堪能できる。

さらにオリジナルの新曲「シー・チェンジ」も絶品。まろみのある声が出すファルセットはとにかく甘くて、泣きそうになるくらい優しい。中盤に現れるリバーブ+コーラスの組み合わせ(3:18〜3:56)も美しく繊細で、神聖さというか俗世離れした雰囲気すら漂わせる。ストレートなピアノバラードもこれまでの彼の作品にはなかったので新鮮だ。

まだ数回しか聴いていないので、これからじっくり聴き込みます。



●藤井 風『HELP EVER HURT NEVER』

今年に入って一気に知名度を上げた藤井風。今メディアがもっとも注目しているミュージシャンは間違いなく彼だろうし、“2020年は藤井風の年なのでは?”と言っている人もいるくらいだ。

自分も「何なんw」を初めて聴いた時はけっこう衝撃受けた。口語+“w”というネットスラングから成るタイトルからしてコミカルな曲なのかと思いきや、めちゃくちゃきちんとしたソウルフルなナンバーだったからだ。ところどころで顔を出す分厚めのコーラスや、スネアの音がバシッと強めに入って、ゆったり踊れる感じになっているところがそう思わせたのかも。

加えて、そんなスタイリッシュな音に口語や方言がそのまま歌として乗っけられているのがとてつもなく斬新だと思った。不思議なことにミスマッチ感もない。これは倍音がかかっていて渋みのある声や、小節に収まりつつも自由に展開されるボーカルのリズムなどが関係しているかもしれない。

「何なんw」の話ばかりになってしまったけれど、このアルバムに収録されている楽曲はどれも好きだった。お気に入りは「罪の香り」。“おっと 罪の香り/抜き足差し足忍び足”っていう短いフレーズの中で、ボーカルのテンポの緩急が付けられていたり、“忍び足”の“あ”だけちょっと長めに伸ばすことで情緒が生まれたりと、歌の妙が炸裂している。隅々まで計算し尽くされたボーカルだなという印象を受けた。

ちなみに今作についてのs.h.i.さんという方による一連のツイートがとってもおもしろかったです。



●曽我部恵一「Sometime In Tokyo City」

1曲で15分弱もある長編作品。主に曽我部さんの歌とアコギだけで進められていくシンプルな構成だけど、だからこそ歌詞のメッセージが切々と胸に迫るナンバーとなっている。

“ここで犬が眠ってる”という半径2メートル以内くらいの視点から、夢の中の友だち、顔を忘れてしまった父、母、先生、同級生、銀河を行く旅人、行ってしまった恋人など、遠くにいる人たちへの思いが徒然なるままに描かれた本作のリリック。

“今は幸せで穏やかな日々を送れていることには違いないけれど、でもそこに至るまでには犠牲にしたり、置き去りにしたり、去って行ったりしたものがあった”という切なさを匂わせる筆致に、温かいけどどこかチクッとするような胸の痛みを覚える。

なんとなく人生ってそういうもんなんだろうなって思う。展開が少なく、淡々とアコギを刻んでいくサウンドも含めて。


●KOHH『worst』

【6月16日追記:本作、Apple Musicで突然聴けなくなってしまったみたいです。いったん、URL外します】

突如引退を発表し、“KOHHとして最後の作品”という形でリリースされた今作。どんな感じになるのかなと思っていたけど、個人的にはまずサウンドのポップさに驚いた。

KOHHといえばヘヴィなトラックにトラップビートというイメージが強いんだけど、このアルバムではドリーミーなシンセやコロコロとした電子音、カントリーミュージックみたいな軽快なアコギなど、これまでの彼の音源にはあまり出てこなかったようなサウンドが顕著だ。メロウな曲やバラード調の作品もあるし、“ラストアルバム”にしてけっこうな“異色作”かもしれない。

自分が好きなのは「They Call Me Super Star」。今作でも相変わらず自分を育ててくれた街や人について歌っていて、そのブレなさに惹かれる。“高級ホテルより昔からの友達んち”とか、“一流シェフでも敵わない/すずんちの生姜焼き”とか言ってて、大金を掴んでいるであろうKOHHでも、故郷・王子の魅力からは逃れられないんだなとしみじみ感じ入った。

からの「手紙」っていう流れがまた良い。地元や仲間の魅力を散々語った後に、大ママ(=祖母)へ宛てた手紙を朗読するっていう。もうほんとに身内のことを愛しているんだな〜。KOHH名義でのキャリアを締めくくる作品が、おばあちゃんへの手紙で終わるのは意味深い。次に向かう場所が音楽以外のフィールドであっても、また大活躍してほしいな!


●Ovall『Ovall Reworks』

いつも就寝する時は音楽を聴きながら寝るんですけど、5月中(というか最近も)によく聴いていたのがこれでした。全体的に、穏やかなR&Bという印象で、夜にぴったりだったのです。

こちらは昨年リリースされたセルフタイトルアルバムのリワーク盤。恥ずかしながらOvallを聴くのは今作が初めてだったので、これがリワークされた作品だということに気づいたのはつい最近でした…(いやタイトルに書いてあるし!笑)。

そんな私が聴いていてまず思ったのは、細かすぎるかもしれないけれど、ハイハットの音がめちゃめちゃ心地いいな!ということ。鼓膜に突き刺さるようなキーンとした高音ではなく、適度に力の抜けた、サラサラとした音になっている。しかもそれがただ4つを刻んでいるのではなくて、連符や裏拍など凝ったリズムになっているから、楽曲にいい味をもたらしている。

あとやはり各曲のリワークも良かったです。特にWONKのメンバーがアレンジした1曲目なんて、もともとはインスト曲で、今回初めてボーカルが入ったというのが信じられないくらい(それくらい歌がピッタリだった)。R&B色が強いけどピアノの純度高い音色がリバーブで広がっていくという夢見心地のサウンドに、低音ボーカルの豊かな響きが重なっていくという、なんともゴージャスでチルな音像だ。

エレクトロ×バンドサウンドのバランスがいい感じの2曲目、伸びやかなシンセの上で透明感のあるボーカルが淡々と言葉を繋いでいく3曲目、霧がかかったように深くリバーブがかけられたアコースティックサウンドと、輪郭を持ったようなはっきりとした歌声の対比が美しい4曲目にもうっとり。これからも心ゆくまで味わっていきたい一枚。


●大阪☆春夏秋冬『BRAVE SOULS』

“カタヤブリな浪花のロックンガール”として6人で活動するしゅかしゅんのメジャー2ndフルアルバム。パンクだったり、メロコアだったり、ヒップホップだったり、日本詞だったり英詞だったりといろいろな要素が混ざった作品だ。

正直今作で初めて彼女たちの音楽を聴いたんだけど、めっちゃかっこいいですね…特にメインボーカル・MAINAの歌が。激しいパンクロックが多めのアルバムだけど、その骨太なサウンドに負けないくらいの絶大なパンチ力を放っていて、聴いていて最高に気持ちいい!芯のあるくっきりとした声だし、おまけに太めだから高音も低音も映える。音との相性抜群です。

メインボーカルを支えるコーラスもシャキッとしててめちゃめちゃ聴き心地が良いし、ハードな曲に合わせて舞い踊るメンバーもすごい。もっと多くの人に見つかってほしい才能だなぁと思う(今作で初めて彼女たちの音楽を聴いた私が言うことではないんだけども)。


●なみちえ『毎日来日』

3月にリリースされてからSNSでかなり話題になっていた本作ですが、ようやく聴くことができました(“ものすごく重大な作品だ、心して聴くべし”と聞いていたので、なんとなく聴く勇気が長らく持てなかったのです…)。

東京藝術大学を首席で卒業するという華々しい経歴を持つ彼女。しかしガーナ出身の父親と日本人の母親との間に生まれた自身の見た目について、小学生のころから周りの人間にいろいろなことを言われ続け、常に差別されていると感じてきたという。日本に住んでいるのに『毎日来日』というタイトルをつけているのにも、その辛い胸の内が滲んでいる。

このアルバムのリリックには、差別に対する彼女の主張のほか、日常を生きる中で感じた“ここが変”というポイントがユーモアを持って描かれている。

“お前は外人 俺は日本人 お前は少女 俺は男子
これがアートで あれはエンタメ 何でも分けようとするのが変だね”(「私の脳内」)

“りんごが赤くて空が青くて花はピンクの「自由帳」”(「疑う目」)

“走って逃げようとしたって自分という肉体は絶対に離れないし
何が客観的 に見てみろ、
だよっていつも思うし”(「あ1」)

などなど。

本作を聴いて、自分が知らず知らずのうちにさまざまなしがらみや“常識”に囚われていて、でもそれに気づけないまま、ここまで生きてきていたことを痛感した。あと、あらゆることを無理やり定義づけて、分断しようとしていたことも。

…いや、そう気づけただけまだマシかもしれない。このアルバムに出会ってなかったら、“良識”にまだ目隠しをされたままだっただろうから。

自分の中の歪んだ“当たり前”が音を立てて崩れ去っていくのを感じる、痛快なアルバムだった。世界中でさまざまな社会運動が起こり、それまでのルールや認識が大きく変えられようとしている今の時代とも呼応した、令和のマスターピースと言ってもいいかもしれない。


●虹のコンキスタドール『レインボウフェノメノン』

キャッチーなメロディがこれでもかと詰め込まれていて、個人的には“ずっとキラーチューンが続いているなぁ…”という印象だった虹コンのメジャー1stアルバム『レインボウフェノメノン』。

中でも自分が気に入ったのは、「LOVE麺 恋味 やわめ」→「夏の夜は短すぎるけど…」→「真夜中のテレフォン」の流れ。それまでは高めのBPMでインパクトのあるリリック/セリフを思いっきり発していたイメージだったけど、「LOVE麺 恋味 やわめ」からはテンポが落ち着いて、歌詞やボーカルがグッと大人っぽくなってくる。可愛い妹的な虹コンもいいけど、クールでお姉さん的な虹コンもいいねっ!(でも声は相変わらずキュートでそこもいいねっ!)ってなる。笑

てか「LOVE麺 恋味 やわめ」、めっちゃいい曲じゃないですか…?“私とラーメンどっちが大切?”って迫る曲なんですけど、ヴァースはほとんどしゃべり拍だからリアルな会話をしているようでなんだかドキドキしてくるし、ラーメンの味の話をしていたはずがいつの間にか“私”の話にすり替わってて、最終的に“私とラーメンどっちがおいしい?”ってかなり攻めた質問をするという…。

ギターのカッティングが効いたシティポップ寄りのサウンドや、夜の歓楽街に合いそうなちょっぴり色気のあるボーカルも含めて、大人の世界を描いた曲だな〜、と思う。韻踏みも見事です。

ちなみに虹コンは6月17日に新アルバム『レインボウグラビティ』をリリースします。こちらも楽しみ♪


●水野創太『晩安宝貝』

学生時代、自分は下北沢GARAGEというライブハウスに通っていて(今もたまに行くけれど)、そこでよく観ていたのが水野創太のライブだった。彼はEdBUSや水野創太GROUPなどでも活動している。

彼の音楽の特徴は、なんといっても歌の奥ゆかしさにある。安らぎを与える明瞭で低めのボイスに、他の歌手よりも圧倒的に多くかかる語尾のビブラート。“唯一無二”という言葉は陳腐かもしれないけれど、でもそうとしか言いようがないくらいのオリジナリティが彼の歌声には溢れている。

今作には人気曲「スローダンス」などを収録。「スローダンス」は文字通りゆったりとしたテンポで、彼の歌のうまみが味わえる一曲だ。またリバーブがかかったエレキギターの音色も、夜空にぽつんと浮かぶ星の愛らしい光を表しているかのようで良い。

そして個人的に最近好きになったのが「ウォーアイニー」。これもまた穏やかなリズムの曲なんだけど、水野創太×中国語の相性の良さにときめいた。特に“香菜(シャンツァイ)”と“花椒(ホアジャオ)”の発音。くっきりとした声が生かされ、シャキシャキとした歯応えまでが伝わってくるような前者と、深い低音ボイスにより、ふわぁっと広がる香りや独特の辛みを表現する後者。耳で聴いているだけなのに五感も刺激されるような、摩訶不思議な心地だ。ほんと、良い声の持ち主だなぁって思う。

さらに言っちゃうと、「ウォーアイニー」は全体的に甘めの声だからそこにもドキッとする。笑 そんな彼の歌の魅力が詰まった今作、ぜひご一聴あれ!


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