日記:絶対にいいことがあると信じてやれ
上の動画は、読売ジャイアンツの二軍の夜間練習の様子を撮影したものだ。
きっと日中も練習や試合をしたりして、かなり疲労が溜まっているであろう選手たち。だけど彼らは阿部慎之助二軍監督のもと、遅い時間まで黙々と練習をしている。
練習を始める前、阿部監督は選手たちに向けてこんな言葉をかけていた。
「みんなしんどいだろうけど頑張ろうな。絶対にいいことがあると信じてやれ」
活気に溢れた声で返事をする選手たち。疲れ果てた体にさらに鞭を入れるように、各々がバットを振り続けていた。
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私がジャイアンツファン、ひいてはプロ野球ファンになったのは、阿部慎之助元選手の華々しい活躍によるところが大きい。
テレビで野球を観始めた頃、阿部元選手は「サヨナラ慎ちゃん」と呼ばれていた。「ここで1発が出ればジャイアンツ勝利」という9回の場面で彼の打順が回ってくると、阿部元選手はかなりの確率でサヨナラホームランを決め、チームを勝利へ導いた。ダイヤモンドを悠々1周し、ホームベースを踏みつけ、本塁で待っていたチームメイトにもみくちゃにされる姿を、画面越しに何度も目撃している。
野球って面白い、最後まで何があるかわからない。そう思わせてくれたのが彼のプレーだった。そして同時にいろいろなことをその姿勢から感じ取った。チームメイトや首脳陣、ファンからの期待というプレッシャーに負けないメンタル。自分のベストの力をベストなタイミングで解き放てるフィジカル。そのどちらも自分にはないなと思い、やがて彼に対して強い尊敬の念を持ち始めた。もちろん今も抱いている。
だからこそ、昨年の引退発表はこたえた。しかも私が初めて球場で観た試合の後のミーティングで(チームメイトに向けて)アナウンスされたとのことだったからなおさらだ。ちなみにその試合でも阿部元選手はホームランを放ち、接戦を制す一助となっていた。まだまだやれるのに、なんで…。もう巨人の試合を観れないかもしれない、と絶望的な気持ちになった。
だけどそこから立ち直り、今日もこうして野球の楽しみを享受している。引きこもり生活に疲弊したメンタルを、ジャイアンツの選手たちのプレーが支えてくれている。それは私にとって、阿部元選手がもたらしてくれたものだと言っても過言ではない。
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しかし阿部元選手は、引退して二軍監督になった今も、私にいろいろなことを教えてくれているように思う。その理由の一つが、冒頭にあげた動画だ。
「絶対にいいことがあると信じてやれ」。この言葉は言うまでもなく選手たちに向けられたものだが、一視聴者である自分にとっても大切な、胸に刻んでおきたい金言である。
個人的な話になるが、今年で“社会人”になって(学生生活を卒業して)6年目に突入する。しかし、正直仕事との向き合い方がいまだに掴めていない。やりたかった仕事をやれてはいるけれど、大量のタスクが一気に押しつけられたり、ちょっとでも忙しくなってくるとすぐ音をあげてしまうし、逃げ出したくなってしまう。オフィスのトイレでこっそり泣くのは何回もやった。人前で泣いたこともある。行くところまで行くと、上司や部署のやり方に疑問を呈し、もっと楽に仕事ができるようにはたらきかけてしまったりする。それで後に後悔し、ああ、なんであそこで頑張れなかったんだろう、あそこで踏ん張ってこそ一人前になれるのに、と思ってしまうのだ。忍耐力のなさからくる自業自得に、これまで何度も悩まされ、苦しめられてきた。恥ずかしながら、それとの対峙は今もなお度々起こる。
阿部監督が発したこの言葉は、そんな自分に深く突き刺さった。つらくても、理不尽なことがあっても、いいことがあると信じてやれ。そうじゃないと世の中やってられないぞ。そんなことを言われているかのような気持ちになったのだ。
そうか、今は何ももたらされないかもしれないけど、後々ご褒美が来ると信じてやることが大事なのか。阿部監督もきっと現役時代にそうやって自分を鼓舞して、あの素晴らしい成績を残したんだな。そう悟ったら、ものすごく気持ちが軽くなった。世の中を渡っていける気がした。
以来、仕事でしんどくなったときはこの言葉を心の中で念じるようにしている。
野球選手にはなれないけど、いつか、自分なりの逆転サヨナラホームランを打ってやる。
最高の教えをありがとう、阿部監督!