江之浦測候所(えのうらそっこうじょ)。数年前から愛聴している渡邉康太郎さんの TAKRAM RADIO にて知ることとなった。なんだかものすごく、すごそう。でも話を聞くだけでは一体どんな場所なのか如何とも想像がつかず。想像がつかないということはつまり、想像が及ばないようなところであるはずなので行ってみるしかないという仮説のもと、今年の大型連休は小田原を経由して静岡まで足を伸ばすつもりだったが、静岡市内のホテルが軒並み満室なので泊まりの旅は諦めることにした。
見学には事前に予約が必要。午前の部(10:00〜13:00)、午後の部(13:30〜16:30)の二部制をとっており「近代以前の人口密度を体感」するための定員が設定されている。もし叶うなら、日の出から日の入りまで、ひとりきりで測候所の空間に浸ってみたいと思った。
わたしの住むところからは約2時間の道のりでJR根府川駅に着く。グリーン車は満席だったが親切な男性が席を譲ってくれた(夫も途中から座れた)。施設内にも最寄駅にも食べものを調達できる場所はないので、ドーナツやパンを持参して電車内で食べた。予約するとき送迎バスの時間を指定していればリストに名前と人数が載るので、そのバスに乗って現地まで行ける。
概要 名称:江之浦測候所 構想:杉本博司 基本設計・デザイン監修:株式会社新素材研究所 実施設計・監理:株式会社榊田倫之建築設計事務所 施工:鹿島建設株式会社 特別支援:ジャパン・ソサエティー(ニューヨーク) 竣工:2017年〜 URL:https://www.odawara-af.com/ja/ 訪問日:2023年5月3日
ギャラリー 江之浦測候所は蜜柑畑を切り拓いてつくられた。
参道は測候所開所5周年を記念して整備されたとのこと。それ以前はどんな道だったのだろう。 同時にバスを降りた人たちが後ろに続いているので少し急足でのぼった
小田原文化財団(Odawara Art Foundation)のロゴ、OA。ほかにも意味が込められている
明月門(室町時代) この門のたどってきた歴史は、受付でもらえるガイドブックに詳しく紹介されている
受付で入所証明のステッカーを貼り、杉本博司監修のガイドブックを受け取る
左手はギャラリーの壁、視線の先は海。 Takram Radioリスナーにはお馴染み「大谷石」が積まれている
2023年5月3日 13:34:23
夏至光遥拝100メートルギャラリー/冬至光遥拝隧道 この建築は興奮せざるを得ない。訪れたときのガイドブックの説明をお楽しみに
待合棟(さりげなくものすごく素敵な建物だったけど、スマホでしか写真を撮らなかった)内部に展示されていたNHK大河ドラマ「青天を衝け」のタイトル。杉本さんの筆になるもの だったとはつゆ知らず。これは別バージョンのようですね
古信楽井戸枠(室町時代) 元は北大路魯山人が買い求めたものだが、1962年頃には小林秀雄の所蔵となった
ギャラリーの展望スペースからの風景
右手に見えるのは冬至光遥拝隧道と光学硝子舞台
ギャラリー内部。海を写した作品が展示されていた
生命の樹 石彫大理石レリーフ(12-13世紀) 古代ローマ円形劇場写しの入り口
光学硝子舞台 懸造りと硝子、光、海、空すべてが素晴らしかったけど、どうやら冬至の朝が至高のよう。
冬至光遥拝隧道 海とは反対側。
この下に井戸が設置されており、中には硝子の破片が敷き詰められている
光のあまりの尊さに思わずシャッターを切る
この灯籠はガイドブックに説明がない。 わたしは月をモチーフにしたものが好き
植物の瑞々しさに思わず見惚れる
茶室「雨聴天」 千利休「街庵」の本歌取りとして構想。これはあなたの目で見るしかない
蕾
ギャラリーの先端部分は12メートルもあるそうだ
なぜ黄色いのか
蟻が列をなしていたので
隠れキリシタン地蔵像(桃山時代)
藤棚 花は終わりかけ、それでも香っていた
蜜柑の花だね
木にちょこんとへばりついていた
化石窟のなか。このなかで一番古いのはシルル紀(4億3500万年-4億1000万年前)のもの
この建物は昭和30年代の蜜柑栽培に使われていた道具古屋。 どうりで農業の道具がたくさんあると思った
秀吉軍 禁令立て札(桃山時代) 小田原の北条氏は1590年、豊臣秀吉に征伐された
数理模型 0010 負の定曲率回転面 解説によると「双曲線関数を目に見えるように模型化した」とある。「総曲線が無限点で交わる」という表記に、ん? つまり交わらないという理解で合ってる? とハテナが浮かび通し。
片浦稲荷大明神 享保12年、1727年に現在の渋谷近辺にあった稲荷社らしいという。
竹林
たけのこが小トトロだとすると、中トトロみたいなのがいっぱい生えてた
ちょっとした登山道のよう
柑橘山 春日社 奈良・円成寺の春日堂を写している
春日社のところから見下ろした竹林エリア そこに見える建物は化石窟。
建築群を見上げる
細見古香庵収集 石仏群(室町—江戸時代)
同上。細見亮市の泉大津の邸宅にあった石仏群とのこと
三角塚
奥に見えているのは石舞台 能舞台の寸法を基本として計画された
ストーンエイジカフェ レモネードスカッシュ。皮付きのレモン果肉をたくさん入れてくれる。むしゃむしゃ食べた
感想 一万年後を見据えて作られたこの地を、一万年後の生命がどう見るかに思いを馳せる。現代人がソールズベリーのストーンヘンジを目の当たりにしたときのような驚きや不可解さが、きっとここに対しても起こりうるのだろうと思う。ただし、そのためには現代人であるわたしたち自身が神秘的なものに感覚をひらける自分であらねばならない。ここを構想した杉本博司という人には間違いなくそれがある。そういうスケールで物事を考える人こそアーティストなんだろう。
夏至、冬至、春分、秋分といった季節の巡りに思いを馳せる。無数の石が積まれている。メキシコのチチェン・イッツァのピラミッドを思い出す。測候所にピラミッドそのものはないが、一万年後にこれらの石たちがどういう意図で配置されているかというような、謎が解明されることを妄想する。
その他関連リンク わたしが江之浦測候所を知った TAKRAM RADIO の新素材研究所・榊田倫之さんゲスト回(前編・後編)。
大谷石の産地、宇都宮市・大谷のポータルサイト。榊田さんのインタビューもあり。