面接官に入れ替わる。彼氏に入れ替わる。
数年前、学生が就活をしている時期に、2年生の時に教えていた女の子から連絡がありました。なんでも、その日の午後に東京の大手企業の最終面接があるのだけれど、何を話していいのか、どのように話していいのかが全くわからなくなり、軽くパニックになっているので、できれば会って話を聞いてほしい。ということでした。丁度そのとき僕も東京にいたので、お昼ごはんを食べながら話そう、ということになりました。
「ものすごく緊張してるし、本当に何を話していいかわからないんです。
どうやったら会社に気に入ってもらえるのか、入れてもらえるのかを、考えれば考えるほど沼にハマって、もうダメです」と学生。
「なるほどなるほど。まず、どうして会社に『入れてもらおう』と考えるのでしょう?『入ってあげてもいいよ』とは考えられないでしょうか?」
と僕が質問すると彼女は目を見開いてこちらを見ます。
「ええ?どういうことですか?倍率もすごい会社ですし、そんな上から目線で考えられません。それに、私は目立った才能も特技もないので、ううん。。。」
「では、これから行く会社の面接会場をイメージしましょう。あなたは、メインの面接官です。これからしばらくすると、自信なさげなあなたが部屋に入ってきます。
そんな面接官に質問です。自信がありそうな学生と、自信がなさそうな学生、どちらの方を会社に招きたいですか?」と問いかけます。
すると、しばらく考えた後に
「自信がありそうな学生です。自信満々もナルシストっぽくて面倒臭いと思いますが、自信なさげな学生は、メンタルもケアしないといけないだろうし、きっと実務もイチから教えないといけなさそうなので、もっと面倒くさそうです」
I THINK SO, TOO. と伝えた後に、質問を重ねます。
「有名な大学からも就職を希望する学生が多い中、なぜ会社は、美大の学生を最終面接まで残したのでしょうか?あなたが優秀なのは間違いないと思うけど、一般論として基礎学力が高く、従順にテキパキと、しかも応用力のある仕事をしてくれそうなのは、そういう優秀な学生ですよね。僕たちの学校のような個性的な人の枠に求められるのは、、、」
「そうか。くまのさんが授業で話してた、想定外の発想力とか、常識に囚われないアイデアや行動とかですか?」
「ですね。だから少なくとも、会社に気に入られようと、合わせてくる、寄せてくる学生は、、、」
「いらない!(笑)」
彼女に元気が戻ってきます。
もともと、怖いもの知らずというか、思った方向にズンズン切り込んでいける能力を持った学生なので、進むべきベクトルが見えたらとても強いのです。
まだ質問を続けます。
「次に。さきほどと同じ要領でシチュエーションを変えて、今度はあなたの彼氏の視点であなたを見てみましょう。
あなたが目の前にいて『私はあなたのこんな考えに共感しました、私は今までこんなことをしてきました、私はあなたのために頑張るつもりです』みたいなことを言われたら彼氏はどんな印象を持ちますか?」
「すごく重たいですね(笑)可愛くないし、『好き』の気持ちを全く感じないです」
「あははは(笑)そうですね。重たいです。僕がその彼氏ならそんな彼女、面倒くさくて付き合いたくないです。どうして彼氏の話をしたかというと、僕は会社という存在って、好きで付き合う人と似ている気がするんです。尊敬とか好きって気持ちや、自立したじぶんを逆に会社から好きになってもらう、みたいな関係性でないと、長続きしないと思うのです。
だから、面接官の視点で見ると『どんな学生が欲しいのか』、彼氏の視点で見ると『どんな彼女と付き合いたいのか』みたいなところに面接の答えがあると思います」
「わかりました!がんばってきます!」
と言って彼女は面接に向かいました。
その後の話を聞くと、僕が冗談で「これくらいのことを面接で言った方がいいかもよ」と伝えた「私は、既存の部署に配属されるなら御社には入りません。私の部署を作ってくれるなら、私が指揮をとって必ずプロジェクトを成功に導きます」というストーリーを本気で伝えたようで、面接官に面白がられて内定をもらったということです。すごい。さすが(笑)
相手の視点からじぶんを見る、その相手と対話するじぶんを想像してみると、
とても客観的にじぶんがどういう存在なのかを認識しやすくなります。
じぶんを評価してほしいシチュエーションでは、評価する人に入れ替わってみることで、自分が何をすべきかなのかが見えてきます。
入れ替わりごっこ、楽しいですよ。
Text : 熊野森人 (@eredie2)
Illustration : ぎだ (@gida_gida)
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