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じぶんカメラの話(2)

今回は、前回の授業の続きです。
『じぶん自身を見るカメラ』に続く、『世の中を見るカメラ』の話です。

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「コミュニケーションって、憑依(ひょうい)することだと思うんです」

はい。憑依という言葉が強すぎるのがわかっていながら、そういう表現をいたずらに使いたいだけです。とはいえ、学生の怪訝な表情を察知すると『通じないとマズいぞ』と弱気になり、すぐさま別の言葉で言い直します(笑)

「違う言い方をすると、他の人の視点、すなわち他人のカメラをハックすることとも言えます」

「仮に他人の目、うぅんと、カメラ? ...をハッキングできたとすると、私がその人の中に入り込んで、その人の目から見た世界を感じることができる、ということでしょうか?」と女子学生。

「そういうことです。その他人のカメラでじぶんのことを捉えることが、じぶんを知る上でとても重要です。じぶんという存在を自身で認識する際は、他人のカメラ、すなわち客観視が必ず必要なのです。つまり、内からのカメラと外からのカメラ、両方が必要ということです。

「わたしはこういう人間だ」という自己解釈と「わたしはこういう風に見られている人間だ」という外的解釈。その2つの見方が揃ったとき、はじめて実像が見えてくるのではないでしょうか」

じぶん目線と、他人目線の両方が必要ということですね。それって、他のことでも応用できますか?」

鋭い女子学生。目つきも若干いつもより鋭くなってます。いい質問です。

「例えばそうですね。この主体を『じぶん』から『日本』に変えた場合はどうでしょうか。ある出来事があって、それを日本国内からのカメラで見た場合と、国外からの日本を見たカメラで見た場合とでは、大きく印象が変わることがあります。ここの場合でいうところのカメラは、メディアや人を指します」

もう少し、詳しくディティールを説明します。

「例えば政治的なニュースでも、オモシロニュースでも何でもいいのですが、NHKではこう報じている。CNNはこう報じている。中国のメディアはこう報じている。ネットニュースはこう報じている。ユーチューバーの●●さんはこう論じている、社会学者の▲▲さんは、twitterでこういう意見を投稿してる。

そうやっていろんなカメラをハックして見えてくる事実に触れた上で、じぶんがそれをどう判断するということが、大事だと考えています。

そしてその判断の集積が『あなたらしさ』=『じぶん』を作り上げている」

「ほおぉ」と食いつく学生と「なんのこっちゃ」な学生と二分化しますが、このようなメディアリテラシーも挟みながら伝えると、だんだんと学生の興味が湧いてきます。

続けてこんな話もします。

「これはまた今度詳しくお話しますが、じぶんの個性って持って生まれた特徴以外は、じぶんで『決めて』いくものだと、僕は考えています。個性は、決して探したり、見つけたりするものじゃないです。だって、元からそんなものはないですから。じぶんで判断して決めたことだけが『じぶん』を作ります。要は、じぶんというのは膨大な情報の編集作業によって出来上がったものなんですね」

フンフンと学生は頷きます。

「それでですね、また話が飛ぶのか?と思われるかもしれませんが、みなさんこの前の『いい学校、いい会社、いいデザイン』の話って覚えていますか?その時の『いろんな見方ができる人=豊かな人』という話と被るのですが、再度『なんのために勉強しているのか?」という話です。ここ、しつこく伝えます(笑)今回のカメラの話で例えると、

カメラを無数に増やす為、いろんな人に憑依できるように。みんな一生懸命勉強しているのだと思います。めざせ売れっ子イタコですね(笑)

少し真面目に説明すると、文学的なカメラ、数学的なカメラ、社会的なカメラ、歴史的なカメラ、音楽的なカメラ、体育的なカメラなど、今まで「これは何の意味があるのだろう?」なんて感じながら学んできたいろいろなことも、全部多角的な視点を得るために勉強してきたのだ、と考えるわけです」

「人や世間の見方のバリエーションを学んでいるということでしょうか?」と、違う学生。

「はい。おっしゃる通りです。また、先ほどお話したように、じぶんの目の前の人に憑依することは、比較的簡単なことのかもしれませんが、もっというと、性別、年齢、国籍、宗教にはじまり、人のクセ、思想、思いやりみたいなことまで想像しながら、新たなカメラを自身で創りだすことができるどうか。またそれを好きにスイッチングできるかどうか。それがとても重要です。

そのことがたくさん、なんなくできるようになったら、みなさんはきっと素晴らしいデザイナーやものづくりができる人になっていると思います。

ではでは、どうやったら具体的にカメラを増やすことができるのでしょうか?」

みなさんも考えてみてください。僕の授業でやっているワークショップは次の機会にご紹介します。




Text : 熊野森人 (@eredie2)
Illustration : ぎだ (@gida_gida)

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