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うまくやる

熊野 森人(くまの もりひと)と申します。
広告の企画会社である株式会社エレダイ2の代表をつとめる傍ら、京都精華大学でデザインにおける考え方やコミュニケーション、健やかに生きていくための思考方法を教えています(詳しい前書きはこちら)。

*  *  *

僕の授業では、絵を描きながら講義を聞いている学生がたくさんいます。そんな彼らにこんな話をしました。

「いま、僕が話している最中に絵を描いている人がいますよね。僕は別にいいと思ってるから『描かないで』とはいいません。

みなさんも、別に悪気があったり、それがいけないことだと思っていないから描いている。みなさんの中ではマルチタスクなんですよね。授業を聴きながら絵を描くことは。

音楽を聴きながら食事をすることと同じこと。両方できている。言ってしまえば合理的であると」。

学生は『うん、うん』と頷きます。

「でも、僕はちょっと寂しい気分になっています。ひとつのそんなに大きくない空間の中、自分が話しているときに相手が話を聞いていないように見えると、関係を拒絶されているように感じるのです。

ほかの例をあげると、レストランに来ている一家で、長女はスマホ、長男はゲーム。お父さんとお母さんだけ話しているような状況。車に乗っていて、運転している人以外がみんなスマホを触っているような状況も同じように感じます」。

「それは、自分の考えるコミュニケーションの美意識の押し付けではないでしょうか。何事においてもシングルタスクしか許さないのは古い考えだと思います」。と、男子学生。

なるほど確かに。

いまや赤ちゃんもyoutubeでアニメを見ているし、噂に聞くところによると、学校の遠足のバスの車中もみんなで話したりゲームをするのではなく、各席に取り付けられたモニターでアニメを見ているらしいので、僕は確実に古い。

でも。大学を卒業して社会でそれをやっちゃうと、高い確率で古い人たちから怒られてしまいます。

「みなさんのように、新しいコミュニケーション意識の人、僕のように古いコミュニケーション意識の人、その人たちは断絶する他にどんな共存の仕方があるでしょうか?」

との問いに「徹底的な話し合い」「古い方が新しい方に理解を示す」などの意見がでましたが、これでは年功序列意識の高い日本ではうまくいかない可能性が高い。ではどうすればいいのでしょうか。

「言葉にするとすごく簡単。行動するとすごく難しい『うまくやる』ということです。『うまくやる』とは妥協することではありません。相手も立てながら自分の考えも通すこと。

『うまくやる』の世界は白黒つきにくい世界です。グレー。すなわち、過剰なコンプライアンスに基づく考えでは行動しづらいことも含まれます。多少のバレなきゃいいこと、ついていい嘘もその中に含まれます。そこを全てクリアにしようとすると『うまくやる』は成功しないです。

大っぴらにグレーは肯定はされないし、評価もされない。でもそのグレーがないと白も黒も息苦しくなるのです」。

大人でもむずかしい『うまくやる』。
これができるひとは、人から可愛がられます。

またヘマをしでかしても、おおめに見てくれることが多い。お得ですね。




Text : 熊野森人 (@eredie2)
Illustration : ぎだ (@gida_gida)



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