オリジナルの在り処
「これのオリジナルは二十年くらい前のアレだね」「私のアイデアが盗まれました」「これってイギリスのあのデザイナーのパクリなんじゃない?これは文化の盗用だ」などなど、今も昔も日々いろいろなところでパクリパクラレ論争が起きています。かくいう僕自身もアイデアをパクられたこともありましたし、今書いているこの文章が誰かに「私のパクりに違いない」と思われているかもしれません。
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👩「クマ先生、先日弊社で企画開発したアプリが、ライバル会社に真似されまして。完全コピーというわけではないのですが、似てるといえば似てて、ちょっと感じ悪いです」
🐻「あらら。悲しいですね。真似っこの度合いにもよりますが、両者の簡単な話し合いで双方が納得しない場合、著作権法に基づいて真似されたものと自社のものとを比べて差異を指摘して、協議する。または、特許、商標、意匠登録などをした上で相手と協議することで落とし所を探ります。それらをしていない場合で、商品の発売から三年以内に完全コピーされてしまった場合に「不正競争防止法」という法律を使って訴えることはできます。しかしながら、これもほぼ完全コピーに近い状態のみ争えるもので、真似される、真似するのは、いたちごっこなので、現実問題ある程度見過ごす以外にないのかもしれません」
👩「うーん。なるほど。でもなんかモヤモヤしますね」
🐻「そうですね。でも、逆の場合もあるかもしれないことを考えると、白黒はっきりつけない判断もアリだと思います」
👩「逆の場合というと?」
🐻「例えばネコさんの会社のスタッフが国内のリサーチは念入りにしたものの、海外のリサーチまで手が回らず、発表した商品が海外の会社から『パクりだ!』と言われたような状況です」
👩「確かにありえますね」
🐻「特許や商標などの申請がない場合、世の中に先に認知されたものをオリジナルとするのか、認知度は少ないものの、どこかしらに発表されて、リサーチすればその事実がわかる、というものをオリジナルとするのか問題はありますが、両方に共通するのは、新しくできたものと古いものを比べた際に、新しいものに古いものとの類似点が多くなるほど、パクリ疑惑が芽生えるということです」
👩「そうですね」
🐻「その解決、いや、解決ではないですが、気の持ちようの一例として、おもしろいものを2つご紹介しますね。どちらも音楽業界のお話です。音楽業界は著作権のルールが全世界で明確に敷かれていて、著作者が守られているという前提がある上での話なのですが、、」
👩「聞きたいです」
🐻「ひとつは僕が物心ついたときに熱心に追いかけていたイギリスのKLFというユニットのお話です。彼らは1990年前後に活動していた男性二人組で、はっきりとは名言していないものの、ユニット名の由来を「Kopyright Liberation Front」(著作権解放戦線)とか言って、当時流行っていた他のアーティストのレコードから音をパクって自分たちの曲を構成する「サンプリング」を正当化しようとしていた動きがありました。
当時はサンプリングそのものがカッコいい行為で、そういう反体制を気取ることが、パンクだ!と思われていたんですね。そんな流れで大御所ABBAの曲などをあからさまにサンプリングした曲を発売して、案の定ABBAから訴えられてレコードが回収騒ぎに発展するなんてこともありました。
そんな彼らだったのですが、先の一件の後、オリジナルのヒット曲を出して、今までとは逆に今度は、彼らの音を無断でサンプリングした曲がたくさん出回りました」
👩「まさにパクり、パクられですね(笑)」
🐻「そうなんです(笑)で、そこから彼らがとった行動がおもしろくって。それら自分たちの曲をサンプリングされたものを集めてコンピレーションとして売り出しました。それだけでも結構なことなのに、その中の数曲は自作自演の曲が含まれていたのではないかと、メディアは見立てています」
👩「え?なんかややこしい(笑)例えば10曲のアルバムだったとして、そのうち5曲は他の人にサンプリングされた楽曲で、のこりの5曲は他の人にサンプリングされたというていの、自分たちで作った楽曲だったということですか?」
🐻「その通りです。自分で自分の曲をサンプリングして、他人がつくったように見せることは、とても撹乱した状況を作り出して、そもそものパクり、パクられるとはなんぞや?という意識から考えさせるアートフォームだなぁと感じたわけです」
👩「なるほど。想像力を膨らませておさらいしてみると、例えば食品メーカーで何らかのヒット作が出て、そのヒット作を明らかに真似たものが他社から出た際に「真似るとは何事だ!」とは言わずに、それらを集めて箱詰めして売る(笑)そしてそれだけではなく、その箱詰めされた中のいくつかの商品は実は自分たち自身でつくった商品だったなんて、ホント何考えているかわからないですよね(笑)その何考えているかわからない具合についてはクマ先生はどうお考えですか?時代の背景もあったかと思いますけど」
🐻「たしかに、時代的にそういうのがカッコ良かったというのもあります。今だと『その箱詰めされた中身、全部自作自演なんじゃないのか?』と炎上の可能性もありますが、例えば『弊社の商品が、他の会社さまの商品にひらめきを提供したプロセスを、私たち自身でも再現してみようと、新しく商品を作りました』というストーリーを添えて世の中に出すことによって「いたちごっこ」の図式を面白がっていただける可能性はあるのではないかと思います」
👩「そういうの、何か実例はありますか?」
🐻「かなり近い事例はあります。これ、僕がとても好きな話です。2010年、大阪の吉本興業は、北海道の石屋製菓のお菓子「白い恋人」のパロディー版「面白い恋人」を石屋さんには何の相談もなく発売します。要はパクりました。それに当然、気を悪くした石屋さんは、商標権侵害と不正競争防止法を理由に販売差し止めを求めて札幌地裁に訴えます。その後両社の間で、パッケージデザインを変更して「面白い恋人」の販売を関西六府県に限ることで和解が成立します。そしてここから面白くなってきます。
まず、この訴えられた時点で吉本さんは石屋さんに、なんと!コラボを持ちかけていたらしいのですが、当然のことながら石屋さんは「何をおっしゃっているのですか?」とプンプンして提案を拒否しました。でも和解後、今度は石屋さんから逆提案で「一緒にやりましょう」と吉本さんに声をかけます。
石屋さん的には、初の関西直営店を開店するにあたっての宣伝を、前に揉めた吉本さんとやればメディアウケが抜群だということ、吉本さんにとっても悪い話ではないと踏んだのが大きいと思います。そんなこんなで大阪限定発売のコラボ商品ができました。その名も『ゆきどけ』」
👩「(笑)最高ですね。揉めていたのはなんとなく覚えてましたが、その後そんな展開になってたんですね。知らなかったです。一回ケンカしてその後仲直り、一緒にモノを作るというストーリーも良かった感ありますよね。みんな大好きな展開。それでクマ先生、あともうひとつの例は?」
🐻「もうひとつは、海外のミュージシャンで多いのですが、リリースする前から「これは『私のメロディーに似てる!』というつっこみが入るだろうなぁ、と予測できる案件に対しては、共同作曲者としてクレジットを入れるということです。
これはそのミュージシャンが意図的に真似たものであろうと、なかろうと両方です。これにはひとつのデメリット、ふたつのメリットがあります。まずデメリットは「印税をオリジナルに配分することで、利益が減ること」
続いてメリットひとつめは「訴えられるリスクが減るということ」ふたつめは「つっこみをいれてくるであろうミュージシャンのファン、楽曲を書いたミュージシャンのファン、双方がミュージシャン同士の関係性や互いの創作性に対して尊敬してくれるということ」要は、その2組のミュージシャンは互いを認め合っているであろう、どちらもやっぱりいいメロディーだ。だから双方応援しよう、という気持ちにさせることができるということです。
後者の、ファンの気持ちのコントロールに対しての投資は、どんなビジネスにおいてもこれから重要なものになってきます」
👩「なるほど!どちらの例も敵だと思っていたものを、どう自分たち側に巻き込むのかということですね」
🐻「その通りです。100%完全コピーのものや、ここは判断難しいですが、悪意あるコピー、乗っ取りを目論むコピーなどは論外ですが、多少の似ている点があるものに対してオリジナルはウチだ!お前はパクりだ!と争うよりも、優しい視点でものごとを進行することの方がメリットが出る場合もあるということですね。
そもそもこれだけ新しいものが毎日量産されている世の中で、完全オリジナルなものなんて、ほとんどないわけなので、もっといろんなことを優しく解決できたらいいなと思いますね」
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