自己紹介は、じぶんのキャッチコピー選手権
僕は京都精華大学でずっと2年生を教えています。年齢にすると19、20歳の学生です。毎年4月に新しい学年が始まるのですが、授業の初日は僕の自己紹介のあとに、学生に自己紹介をしてもらうのが恒例となっています。
さて、ここで面白いのが「自由に自己紹介をしてください」というと、何故か毎年みんな同じ形式で自己紹介をしてしまうことです。
「わたしの名前は◯◯◯◯です。△△△(出身都道府県)から来ました…」と、同じフォーマットを繰り返すだけの時間が訪れます。
うーん、せっかくみんなを覚える時間なのに、当たり障りの無い内容ばかりで、これはもったいない。
都道府県を言ってはいけない!とは言いませんが、あまりにも人と同じ定型文の繰り返しでは印象に残るものも残りません。
同郷であることは結構友達の距離を縮めるのに役に立つのだ!という学生の意見も理解しますが、正直個人的にはステレオタイプだなぁと感じてしまいますし、特に僕の授業に出る30人以上の大人数の場では、全員が都道府県を述べたところで、ただの「出身地暗記ゲーム」になるのが積の山だなぁ…(笑)とも、思うわけです。
そこである年、僕は自己紹介の方法を変えてみました。
「みなさん。学校のクラスでの自己紹介とは、顔と名前を一致させるために行う、いわば簡単な『自己プレゼンテーション』の場です。
本来は自分で自分のことを紹介するだけだと思いますが、今回は2人1組のペアで行いたいと思います」
え!?という表情でざわつきだす教室で、ペア自己紹介の説明を続けます。
「今からそれぞれ、2つのキャッチコピーを考えてもらいます。ひとつめが「自分自身のキャッチコピー」。ふたつめが「相手のキャッチコピー」です。
相手のことは、知っていることでも、外見からのイメージでも何でも構いません。ただし、お互いに話し合って考えを擦りあわさないでくださいね。この後、みんなの前で発表してもらいます」
数十分のシンキングタイムには、自分のことだけでも悩む人、相手のことをじっと観察しながら考える人、全然わからん!と放棄しそうになる人、
いろんな学生がいて、既に見ているこちらは楽しくなってきます。
ちなみに、この自己紹介の授業は、以前の「視点の授業」とも通じる内容ですね。
そして発表の時間。ペアそれぞれに自分と相手のキャッチコピーをお披露目してもらいます。
「オレの名前はクマ太です。キャッチコピーは、『ドーナツとアニメ大好き野郎』です。クマ美ちゃんのキャッチコピーは、『平和なメガネお嬢様』です。
「わたしの名前はクマ美です。キャッチコピーは『ぼんやりメガネっ子』です。クマ太くんのキャッチコピーは『赤毛の猛虎、ブラッドタイガー』です。
こんな感じで、全員が発表していきます。
「ありがとうございました。みなさんの彼女達のイメージも合わせてどうでしたか?さて。今日の発表で伝えたかったことに、自分自身のイメージは少なくとも捉え方が2通りあるということがあります。すなわち、自身の内的解釈と他人の外的解釈の視点があるわけですね。
例えば先程のクマ太くんとクマ美ちゃんとの発表を例に考えてみましょう。
クマ美ちゃんは、自分のアピールした『ぼんやりメガネっ子』に対して、相方クマ太くんからの紹介が『平和なメガネお嬢様』。表現は違えど、ほぼ合致していましたね。素晴らしい。これはどういうことかというと、自己ブランディングができているということです。外見の要素を紹介情報に入れるのは、視覚的な情報と内面的な情報をセットで伝えられ、より他の人から覚えてもらいやすく、じぶんというブランドが認知されやすい秘訣でもあります。
対して、クマ太くんの『ドーナツとアニメ大好き野郎』に対して、クマ美ちゃんのつけた『赤毛の猛虎、ブラッドタイガー』すごいギャップですね(笑)これは、クマ太くんがもっともっとドーナツやアニメを普段から強めにアピールしていると、目立ちやすい赤毛だけでなく、相手もそれを特徴として捉えてくれたかもしれません」
総評すると、ほとんどの人が考える自分のキャッチコピーは、内向的、もしくは誰でもそうだろう的な特徴がない情報が多かったような気がします。
みなさんは、これから何らかのモノを作って発表していく人です。その人たちに謙遜やじぶんの中でもまとまっていないような、ふんわりした情報は似合いません。しっかりとした自身のカラーをどう作って、どう演出していくか。すなわち、自己紹介から既にコミュニケーションのデザインは始まっていると言えます」
そうサラっと言いのけて教室を去る僕は、長身と珍しい名前(くまの もりひと)の組み合わせでいつも得をしているので、あんまり自己紹介の内容とか真剣に気にしたことないねんなー…と、授業ではああ言い放ったのだけど、ちょっとうしろめたい気持ちになるのでした(笑)
Text : 熊野森人 (@eredie2)
Illustration : ぎだ (@gida_gida)
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