オルガ・スミルノワの「ジゼル」
NHKプレミアムシアターで放送された、オランダ国立バレエのジゼルを観た。去年の10月に収録されたもので、少し前にシネマとして東京の映画館に来ていたのと同じ内容と思われる。私は何かの用事で映画館には行けず残念に思っていたので、今回放送されたのは嬉しかった。オランダ国立バレエといえば、優秀なダンサーが多く、過去にはイサック・エルナンデスも在籍していた名門で、演出・衣装などプロダクションも素晴らしい。ドイツのシュツットガルトバレエと並んで好きなバレエ団なのだが、今回は少し印象が違った。
タイトルロールのオルガ・スミルノワは、きちんと踊っているのだけれど、どうも心が動かない。踊りも演技もどこか硬さがあって、ジゼルというには不自然な印象さえ持つ。相手役のジャコポ・ティッシも同じくで、きれいに踊っているけれどグッとくるものがない。好みの問題?一方でヒラリオン役のギオルギ・ポツヒシヴィリはエネルギッシュな踊りが素晴らしく、カーテンコールでは彼の人気ぶりも分かった。この数か月後に彼はプリンシパルに昇進している。
少しモヤモヤした気持ちで、翌日同じオランダ国立バレエのくるみ割り人形をBlu‐rayで観た。そしてモヤが晴れた。主役のアンナ・ツィガンコーワは、これぞプリンシパル!という踊りと演技。彼女がぐいぐいと踊り進め、舞台を引っ張っているのが分かる。彼女が踊ると舞台の空気が一気に華やいで、眼が離せない。プリンシパルは、きれいに踊るだけのダンサーではない。舞台上の世界を、説得力あるものに作り上げていく人なのだ。これは練習だけで身につくものではないかもしれない。
何が舞台の良し悪しを決めるのか⋯好みもある、見る側のコンディションもあるので、意見は分かれると思う。でも、何だかよく分からないけれど、これは今ひとつだなという感覚は大事にしたい。なぜだろうと考えるのはなかなか楽しい。