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#7 マジックバーで

勤め先の偉い人の行きつけだというマジックバーに行ったことがある。
あまり思い出せないけれど、私たちはそこでプロのマジシャンに
頭に浮かべたイメージを寸分違わず当てられたり、引いたトランプやiPhoneを瞬間移動させられたりした。
タネをこの目で暴いてやろうと間近で凝視しているはずなのに、目の前で次々に不思議な現象が起こる。圧巻だった。
マジックの仕事1つで生計を立てているという同世代の青年に、
瞬間移動で消されるも無事に戻ってきたiPhoneを手渡されながら尋ねる。

「マジシャンの方って、大会とかに出て実績を積まれていくものなんですか?」
「まぁ、そういう人もいますけど僕の場合は大会とか出たことないですね」

穏やかだった口調がわずかにこわばった気がした。

「確かに大会で優勝すれば多少は有名になれますけど、それも所詮はマジック業界の中だけで。
”昨日行われた全日本マジック大会で○○さんが優勝しました!”なんてニュースがテレビで流れることなんて絶対ないじゃないですか。
だったらあんまり出る意味ないかなって僕は思っちゃって。師匠のところで修行してプロになりました」

これまでに何度も同じ質問を受けてきたのだろうか。
淀みなく、こちらの質問を押し流すようにそう続けた。
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先日、トライバルフュージョンダンサーの美喜さん、Makiさんとお食事させていただいた。
お2人と知り合ったのは昨年の関西ベリーダンスコンペティション2022。
お互いの近況報告もはさみながら、やはり話題のメインは
激動のコンペ当日の思い出話や、お互いの先生の話、トライバルフュージョンへの気持ち。
それぞれに真摯に踊りに向き合っていらした。
先輩ダンサーのお2人と、ダンスに対する同じだけの熱量を交換できた気がして、
そのことが私にはすごく大切で。
「また必ず集まりましょうね!」とみんなで約束し、新宿駅で散り散りになった。

京王線に揺られながら、あの日のマジシャンのお兄さんの言葉を反芻する。

ベリーダンスのコンペで成績を残すことって。

確かに世の中に与えるインパクトはさざ波ほどのものかもしれないけれど、
決して意味がないなんて思いたくはない。
私はまだコンペに挑んだ経験が少ないけれど、エントリーするまで本当に多くの時間や労力や気力を要した。
国内外のコンペに何度も挑んでいる方々を本当に尊敬するし、
その中で結果を残し続けることの凄まじさを思うと、途方もない。

極限まで自らを鍛え、研鑽し、
ライバル達としのぎを削ること。
人間の本質的な営みだったりするのだろうか。

――――――――

「結成16年以上のお笑い賞レース『THE SECOND』32組のトーナメント決定」
「【R-1】田津原理音が第21代王者、カードゲーム開封ネタで頂点に」

マジシャンのお兄さんへ。
演芸の大会がニュースとして日本中を駆け巡るのはたしかに、今はお笑いぐらいなもんですね。
R-1最終決戦、縫いかけの衣装を手直ししながら観てて、個人的にはコットンきょんさんが優勝かな~と思ったんですけど2人とも、いや全員面白かったんです。

面白くて、かっこよかった。

芸術や演芸に、順位がつくこと。

私達は何に挑んでるんですかね。
きっともう過去に議論されつくして、ようやく自分の前に現れたこの問いから
私はここのところ逃げ回っています。

「正直しんどい」
「だけど出ないことは逃げになる」
ロングコートダディ堂前さんとニッポンの社長辻さんが対談動画で、
賞レースに挑み続ける葛藤を吐露してました。
こんな気持ちに近いのかもしれません。

お兄さんのようにすぐには答えは出なそうなんですけど、
私は私のフィールドで、もう少し自分なりに足掻いてみます。

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