
T-1グランプリへの挑戦
みなさんは、トット(芸人/吉本興業所属)の桑原さんが開催しているT-1グランプリをご存知だろうか。
https://note.com/totto_wine/m/m9603cb59bf28
まず、桑原さんが小説の冒頭部分だけを書き、コメント欄でそれに相応しいタイトルを募集する。
そのタイトルの中から、審査員である桑原さんが候補を絞り、投票を行い、1位になったタイトルで桑原さんが続きの小説を書き上げてくれるという、読者参加型の夢のような企画である。
今のところ月に一度開催されており、つい先日、第2回のグランプリが決まった。
話は変わるが、桑原さんは、毎日17時頃から「noteを書いているところを見せるだけ」の何も起こらないインスタライブを配信している。バチバチと部屋に響く、職場にいたらめちゃくちゃ嫌なタイプの強めのタイピング音をひたすら聞かされるインスタライブだ。その後、長ダルいワインの話と即興のラップ(もしくは歌唱)の披露が行われ、インスタライブの制限時間とともに突然終了する。そのインスタライブの際に画面上に表示されているイラストや、noteの記事のヘッダーには、ファンから寄せられたイラストが添えられ、桑原さんのnoteやインスタライブは毎日かわいらしいイラストで彩られている。
私は、絵が描けない。
絶望的なほどに絵心がない。なので、ヘッダー募集というようなイラストの企画は、物理的に参加できない。くそ。絵が描ける人生を歩みたかった。くそ。くそ。くそ。くそ。
だが、私には文章があった。そうだ。文章があるじゃないか。そこで思った。
ねぇ、それ、私も書いていい???
ということで、桑原さんが書いた冒頭の課題部分、そしてT-1グランプリ第2回で優勝したタイトルで、私も小説を書いてみた。イラストには参加できない。タイトルもセンスがなく掠りもしない。けど、参加型の企画に私だって参加したい!ええい!もう!!ならばいっそ小説部分を書いてしまえ!!!!という発想である。
お時間が許すのであれば、読んで頂き、楽しんでもらえたらとても嬉しい。なお、私は閲覧数だけで承認欲求が満たされるタイプの物書きのため、この記事に対するコメント等は(そんなものを頂けると思っている時点で図々しいが)なくて構わない。ただ、たくさんの人に読んでもらいたい!!!とはめちゃくちゃに思っている。もし「良かった」と思って頂けたなら、ぜひ桑原さんのnoteとともに、Twitterなどで拡めて欲しい。
ちなみに、私は桑原さんが書いた小説は読まずにこの話を書いた。
もしかしたら桑原さんと同じような話かもしれない。が、本当に桑原さんの小説は読まずに書いている。似たような話になっていたとしても、パクリだとかはどうか言わないで欲しい。
本当に、読まずに書いている。この記事が上げられた時間を見て欲しい。桑原さんの作品を読んでから書いたとは考え難い時間差で上げている(はずだ)
もし、同じような話だったら、烏滸がましいのは百も承知だが、この人は桑原さんと感性や発想が似ているんだな、とやさしい気持ちで見て欲しい。そして、タイトル通り「よくある話」だったんだな、と思って欲しい(そうなったらこれは素晴らしいダブルミーニングである)
全然違う話だったら、同じタイトル、同じ課題で書かれたものでも、書き手が違うとこんなにも違うものになるのか、という「想像力の違い」を思いっきり楽しんでもらいたい。
それでは、前置きがめちゃくちゃ長くなりましたが(ごめんなさい)どうぞお楽しみください。
「知らないだけで、よくある話」
「やあおはよう、君の名前はシロだよ!」
名前。それが僕に最初にインプットされたものだった。
僕はお手伝いロボットC3000(のど飴みたいってよく言われる。)人工知能が搭載されている、この時代では平凡なロボットさ。
僕に名前をつけてくれたのはアル。出会った頃は3歳だったけど今は5歳の男の子だ。人間は僕と違って体が巨大化していくみたい。
アルの家でアルと一緒に暮らしてきた。アルには優しいお母さんがいるけど、お父さんはまだ見た事ない。アルもそのことについて話さないし、僕も知りたいと思わない。
一番好きな家事は洗濯だ。服や靴下やタオルなんかを入れて洗剤を入れる。(おっと、もちろん柔軟剤もね)そしてスイッチを入れるとグルングルンって回り出すんだ。時間だって決めれるんだよ、僕の指示通り動いてくれる。アルは機械が機械に命令してるって笑うけど、アルだってお母さんに勉強をやらされたりしてるからおあいこさ。食事だけは僕じゃなくてお母さんが作る。(これは内緒だけど、忙しい時は僕が作ることもある。なるべくって意味)僕は食べるってことがよくわからないけど、アルと同じように椅子に座って、みんなで食卓を囲むんだ。あ、そうそう、もう一つわからないことがあって、お母さんは、アルが野菜(ピーマンやニンジンなんか)が嫌いなんだけど、必ずと言っていいほどテーブルに出すんだ。アルが嫌いなのになんで出すんだろう。いつも野菜嫌いなこと忘れちゃうのかな。でも、お母さんの料理を食べている時のアルはとっても幸せそうだ。それを見てると僕もなんだかあったかい気持ちになる。
ある日、僕は幸せな作戦を考えていた。なぜって、アルの誕生日がもうすぐだから。一体どんなパーティになるんだろう
すると、チャイムが鳴った。誰だろう?僕がドアを開けると、そこには見知らぬ男が立っていた。
______________________________________________
「ご無沙汰しております」
張り付いたような笑顔のまま、その男は言った。ドアを開けた僕に「ゼンニホンキョウイクセンターのハシヅメ」と名乗り、パタパタとキッチンから駆けてきたお母さんは、ぱあっと顔を華やかせながら「お久しぶりです!」と、よそ行きの少し高めの声(ラ♯)で答えた。僕が知ってるいつものお母さんの声(ファ♯)とは、ちょっと違う。
“ゼンニホンキョウイクセンター“ ノ “ハシヅメ”
すぐに、僕の人工知能に、その顔と名前がインプットされる。声の高さはミの♭だ(ちなみに、僕の記録媒体には、女性の声は♯、男性の声は♭で記録される。そうやって性別を見分けて、ごちゃまぜにならないようにしているんだ)
「素晴らしい国には」
「教育が大事」
「天と地の間には」
「子供と愛があればいい」
ハシヅメとお母さんが、合言葉のように交互に言い合う。ハシヅメはさらに笑顔になり「さすがはうちの教育を受けられたお方だ」とお母さんのことを恭しく褒めたたえた。
「今日は、」
本題に入ったのだろう。お母さんの表情が、さっと真剣なものに変わった。アル!と大きな声でアルを呼ぶけど、あいにくアルは今ゲームに夢中だ。
「シロ、コマンド。アルを連れてきて」
コマンド、はつまり「命令」を意味する。この言葉を付けられると、僕はそれに逆らえない。迅速にアルの部屋へ向かい、ゲームはいったんセーブして、アルをそこから連れ出した。
「おぉ、きみがアル君か」
目を細めて微笑んだハシヅメの表情が、僕の心(厳密には、緻密にプログラミングされたシステムでしかないけど)に警鐘を鳴らす。ハシヅメにアルを渡してはいけない。WARNING。WARNING。
「よろしくお願い致します」
深々と頭を下げたお母さんが、アルをハシヅメに引き渡す。
「シロ…!」
アルが泣きそうな顔で僕に助けを求めた。でも、動こうとしたところで、お母さんに「シロ、コマンド。STAY」と命令され動けなくなってしまう。
「アル、よく聞いて」
お母さんがアルの肩に手を置いて話し始める。
「あなたは、選ばれたの。素晴らしいことよ。全日本教育センターでご指導をいただけるなんて」
お母さんはどんどん饒舌になっていく。
「ハシヅメさんはね、本当に素晴らしい人よ。何にも心配いらないわ。お母さんも15歳の時にハシヅメさんと出会って、」
そこから先の言葉を聞いた瞬間、僕は即座に固まってしまった。胸の真ん中にあるリングがグルグルグルグル回り続ける。言葉を理解し処理する速度に、僕がついていけなかった。人工知能として失格だ。
「おや、シロが、」
ハシヅメが僕の様子がおかしいことに気がついた。
「あら、ほんと。再起動させなくちゃ」
お母さんが僕のおでこにてのひらを当てる。お母さんのこの掌紋だけが、僕の電源を意のままに操れるんだ。おでこに手を当てられたまま「シロ、コマンド。Reboot」と命ぜられた瞬間、僕は意識を手放した。
Start up… Start up…
最新型とは言わないが、僕だって立派な人工知能を持ったロボットだ。ものの数分で再起動されれば、今まで通りに働き始める。再起動されたことで、最新のOSへのアップデートも完了した。玄関で、さっきの場面の続きを見守る。そこで思い出した、さっきのお母さんのあの言葉。そして、その他にも、なぜかこれまでにはなかった記憶、データが自分の中にあることに気がついた。微かな違和感。今回のアップデートには、いわゆる「バグ」があるのかもしれない。
ハシヅメにしっかりと抱え込まれたアルは、もう泣きじゃくっている。お母さんと離れたくない、ひとりで行くなんていやだ、そんなことを何度も口にしながら、ポロポロと大粒の涙を零していた。
「アル、あなたは選ばれたのよ?これは素晴らしいことなの!これであなたも、やっと人工知能になれる。それも全日本教育センターという最高峰の教育機関で。6歳のお誕生日に選ばれるのは本当にごく一部。あなたは、エリート中のエリートになるのよ」
「シロ、コマンド!助けて!」
アルが叫ぶ。でも、保護者がそばにいる時は、残念ながらそのコマンドは僕にはきかない。何も出来ない、とうなだれかけたその時、意に反して僕のからだはアルを助けるために動いていた。
……バグだ!
泣きじゃくるアルをハシヅメから取り戻し、抱きしめた。わんわん泣いているアルの柔らかな髪をやさしく撫でる。
ふわりと、懐かしい子どものにおいがした。
loading… loading…
腕に感じるアルの体温と、おひさまのにおいのような、子どもが持つしあわせな香りを感知した瞬間、ふと思い出したように僕は一瞬そのまま固まり、新たに読み込まれたメモリーが、僕の記憶を蘇らせる。
アル……?
「……お父さん!!!!」
アルの声で呼ばれる「お父さん」が「シロ」に置換されるよう組み込まれていたプログラムが、さっきのアップデートで初期化されてしまったのだろう。はっきりと、アルが僕を「お父さん」と呼んでいる声が聞こえる。
「クソッ、」
ハシヅメが、僕の腕からアルを再び取り戻そうとする。
「シロ!コマンド、アルを離して」
お母さんがそう命じる。離してたまるか。アルを… アルを守らなきゃ… アルを…
コマンドに逆らうのには、かなりのエネルギーを要する。意識を必死に繋ぎ止め、命令に背くためのプログラミングを自ら行う。それをしても、抵抗できるのはせいぜい数分だ。なんとしても、アルを守らなきゃ。
僕は、この子の父親なんだから。
「ハシヅメさん、どうしたら…」
「困りましたねぇ。アル君はとても優秀ですから、我々としてもどうしてもお預かりしたい」
「はい、わたしもこの子を立派な人工知能にして頂きたいです」
「そうなりますと… 少々残酷ではありますが、もうあれしか方法はないか、と、」
ハシヅメが、さも親身になっているかのような表情でお母さんに訴える。お母さん、騙されちゃダメだ… 騙されちゃ、ダメだ…
どうして…?どうしてお母さんはアルを人工知能なんかにしたいんだい…?
僕は、プログラムに忠実に動くだけのロボットだ(今は必死に抗ってるけど)正確には、そうされてしまった。人間だったころには確かにあった感情も、それに基づいた行動も、今はもうすべてが仕組まれたもので、そこに「心」なんて存在しない。ありがとうも、ごめんなさいも、うれしいも、たのしいも、おいしいも、かなしいも、おはようもおやすみもまたねもさようならも、そこにあたたかな心が込められるから愛しいんじゃないか。「愛」を育めるのが、人間じゃないか。なのにどうして…?どうしてアルを…
「そうですか… あれをするのは少し残念なんですが…」
「心中お察し致します。お母さんにとっても、結婚するほど愛しておられた方ですもんね」
「ええ… でも、アルの優秀な知能をさらにこの世のために活かすには、」
「その通りです」
「私も、ハシヅメさんと同じ想いです」
「……天と地の間には、」
「子供と愛があればいい」
お母さんは、ニッコリと微笑みながらそう言った。
「……あなた、」
失いそうな意識の中で、懐かしい声が聞こえた。かつて愛した、誰よりもたいせつなひと。
“お母さん”
あなたの名前は何だったかな……
どうして、あなたの名前の置換は初期化されてくれなかったんだろう。
もう一度、あなたの名前を呼びたかった。
もう一度、あなたと一緒に笑いたかった。
あなたとアルと3人で、ずっと家族でいたかった。
お母さん… ねぇ… どうして……
お母さんが、僕のおでこにてのひらをあてた。お母さんのてのひらは、いつもこんなにもあたたかいのに。
あなたも、人工知能だったなんて。
あぁ、でも、どうしてあなたは泣いているんだい…?
僕たちには、そんなプログラムは組み込まれてはいないはずだよ。
ハシヅメが、やはりうちの教育は世界一だ、と大声を上げた。涙を流す人工知能はうちだけだ!!こいつみたいな三流品とは比べ物にならない!!!!!
「シロ、コマンド、」
お母さんの、涙で濡れた瞳をまっすぐに見つめた。その目は、僕に「さようなら」と告げていた。
「RESET」
「やあおはよう、君の名前はミドリだよ!」
名前。それが僕に最初にインプットされたものだった。
僕はお手伝いロボットC3000(のど飴みたいってよく言われる。)人工知能が搭載されている、この時代では平凡なロボットさ。
僕に名前をつけてくれたのはレイン。出会った頃は3歳だったけど今は5歳の女の子だ。
おしまい
____________________
いかがだったでしょうか。課題部分に張られた伏線も回収しながら書きました(気付いて欲しい回収ポイントとしては、お母さんがアルの嫌いなものもテーブルに出すのは、システムのバグだったんだよ、ってとこですね。文章としては書いていないけど)(あとさぁぁぁぁあああああ!!!!!アルとシロが一緒に過ごしてきた膨大な時間があるわけじゃないですか。その時間においてアルが幾度となく言ってきた「シロ」が実は全部「お父さん」だったって考えるとめちゃくちゃ切なくない???????)(はぁぁぁーーー???切なくない???????だってアルはシロのことがだいすきだよ??????)(この設定にしたの私だけどこれめちゃくちゃ切なくない?????)(気付いてもらえなかったらいやだから自分から全部言うスタイルでお届けしております)
それにしても、書いていてとても楽しかった!!!久しぶりにこんなにも楽しく文章を書きました。わたし、文章書くの、たのしいです。桑原さん、素敵な機会をありがとうございました!(100%私が勝手に書いただけだけど!)
(桑原さんへ。次のT-1でも書きたい!と思ったら私は勝手に書いてしまうと思いますが、もしこの「勝手に書く」こと自体がダメでしたら仰ってください。この記事もすぐに削除致します。おふたりのコントに登場する「ハシヅメ」さん、勝手に使って申し訳ありません)
それでは。長々とお付き合いいただきありがとうございました。
ほなー!