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楽曲分析 J.S.バッハ インヴェンションのアナリーゼ3 第1番 C-Dur BWV772③


前回に引き続き、インヴェンションの分析の続きです。

生徒「せんせー!」

生徒「こんにちは!」

先生「はーい。」

どうもどうも。

インベンション1番の分析を続けましょう。

「わたし、このインヴェンションを最後まで弾き終えた時…」

●終止のこだわり1

「終止まで弾いた時、とても幸せな気持ちになるんです。」

とても美しい音楽の終わり方ですよね。

インヴェンション第1番の最後

終止の直前の和声を見てみますと、シがフラットになっている…つまりヘ長調(下属調)に寄り道をしてからハ長調の完全終止になっていることがわかりますね。

下属調に寄り道してから完全終止しています。

バッハは音楽の終わりに、下属調に転調してから主調で完全終止するという動きがお好みだったことがわかります。
下属調、つまりIV度の調に寄り道する。

例えば、有名な『目覚めよと呼ぶ声あり (Wachet auf, ruft uns die Stimme) BWV 645』の曲の最後を見てみましょう。

J.S. Bach: Wachet auf, ruft uns die Stimme, BWV 645

第1回の分析でも取り上げた通り、これはミクソリディア旋法の響きなのですが、導音(音階の7番目の音)が半音下がることで、下属調(IV度調)に転調したようにも捉えられるのです。

なぜバッハはIVの和音を頻繁に取り上げるのでしょう。

IVの和音から主和音に進んで終わる音楽の終止は、「変終止」といいます。

変終止

この終止は、教会の讃美歌などを歌ったことがある人ならわかる、祈りの終止です。
讃美歌の最後に歌われる終止ですので、『アーメン終止』と呼ぶ人もいます。
このインヴェンションの終わりは完全終止ですが、直前にIVの調、和音を私たちにたっぷり聴かせることで、音楽の最後の終止を敬虔な祈りの世界に誘われているような感覚になりますが、皆さんはどう感じますか。

バッハは楽曲の終わり方に、強いこだわりを持っているんですね。

●終止のこだわり2

「あと、曲の終わりのミの音とファの音のぶつかりが、好きです。」
一瞬現れる、七度の音の衝突ですね。

長7度で音がぶつかっています。

これは本来、Iの和音、つまり「ド、ミ、ソ」の中で偶然的に生じた美しい音のぶつかりなのです。

経過音『ファ』と構成音の『ミ』が衝突します。

先ほどの『目覚めよと呼ぶ声あり』にも、同じ響きがありますね。

7度でソとラのフラットがぶつかっています。

この7度の響きを、バッハはどのような思いで書いたのでしょうか。
色々な想像をしてしまいますね。
「演奏するとき、一瞬一瞬の音の響きを大切にしたくなります!」

●音楽の感動

最後に、この作品の一番のクライマックスについて考えてみましょう。

15小節目からの、息の長いゼクエンツ(反復進行)です。
注目すべきなのは、この一番大きなゼクエンツが短調始まるという点です。

息の長いゼクエンツです。

「なぜバッハは、音楽の最後の盛り上がりを短調から始めたのでしょう。」

人は本当に感極まったとき、思わず涙を流す瞬間がありますね。
人間にとって「感動」とは、もしかしたら切ないものなのかもしれません。
そして、音楽は頂点のC(ド)の音に向かって突き進みます。

1番高い音、頂点に向かっていきます。

a.は主題の冒頭のモチーフ、b.は冒頭のモチーフを逆行し、拡大したものです。
バッハは、どんな思いで音楽の山場を短調で書き始め、音楽のクライマックス(長調)に至ったのか…興味は尽きません。

バッハの"思い"を想像しながら、音楽と向き合っていきたいです…!

次回は、インヴェンションの2番の分析に進んでみましょう。

●最後に…

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