左手のためのピアノ組曲を書く①
ある日、J.ブラームスは、右手を怪我してしまったクララ・シューマンのために、J.S.バッハの無伴奏バイオリンのためのパルティータ第2番(BWV1004)の、あの有名なシャコンヌを左手用に編曲しました。
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しばらく期間、両手で演奏することができなくなった、大切な人、失意のクララを励ます思いで音符を書くブラームスの気持ちを想像すると、胸が熱くなる思いがします。
●左手のためのピアノ作品
皆さんは、「左手のためのピアノ音楽」と聞いて、どの作品を思い出しますか。
例えば、練習のしすぎで右手を故障した若かりし頃のA.スクリャービンが、自分自身のために書いた『左手のための2つの小品 op.9』を思い浮かべる人もいらっしゃるのではないでしょうか。
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あるいは最も有名な作品として、M.ラヴェルが第一次大戦で右手を失ったピアニストの依頼を受けて作曲した協奏曲を挙げる人も多いかもしれません。
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本来、両手で弾くことを想定している楽器であるピアノを片手で弾くということは、このように様々な事情があります。
特別な理由を背景に、大切な誰かのために、あるいは自分自身のために、作曲家は片手のピアノ作品を作曲しました。
それでは、左手の作品を書くにはどのような配慮が必要なのでしょうか。
この連載では、実際に左手のための古典形式の組曲を創作することを通して、この作曲様式の特徴を考えていきたいと思います。
●左手演奏の特性
指は一般的に、親指や人差し指の力が強いことは言うまでもりません。例えば両手でピアノを演奏するとき、右手の小指や薬指を使用して主旋律を演奏ことが多いわけですが、しっかり意識して演奏しないと、伴奏を演奏する他の指の音に埋もれてしまいます。
演奏者は、右手の小指や薬指で旋律をはっきり演奏できるように訓練を重ねます。
それでは、左手に目を向けてみましょう。
左手は、5本の指の中でも力のある親指が右方、つまり高音域にあるため、自然と主旋律を上声部で演奏するのに適していることがわかります。
このことは、左手のみの演奏は、力の強い指の高い音域はメロディーを、力の劣る低い音域は伴奏をという、合理的な感覚で音楽を作ることができることを意味しているのです。
今回は組曲を創作していくわけですが、組曲に関する学習は次回の記事に書くことにしまして、今回は組曲の冒頭を飾る、前奏曲を書き進めてみたいと思います。
●片手で演奏するために
記事の最初に取り上げたスクリャービンの『左手のための2つの小品 op.9』の第2曲の楽譜を見てみましょう。
点線で囲まれた①のように、休符を用いてペダルを使用することで、音域の広い伴奏を実現していることがわかります。
また、②のように同時的に音を鳴らしたい時には、手の音域内に収まるように配慮して書いていることがわかります。
その方法を用いて、前奏曲の冒頭の動機を創作していきたいと思います。
いかがでしょうか。
片手という限られた制約の中での創作ですが、音楽的な豊かさをどれくらい実現できるか、楽しみです。
次回は前奏曲の完成を目指していきたいと思います。
ご期待ください。
●最後に…
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