ネオン、サイバネ、都市の闇:「ナイス・クッキング・アット・ザ・ヤクザ・キッチン」より
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「ナイス・クッキング・アット・ザ・ヤクザ・キッチン」の魅力
これから『ニンジャスレイヤー』を読むという方に私がおすすめしたい話は、「ナイス・クッキング・アット・ザ・ヤクザ・キッチン」です。本編はわずか73ツイートの超短編エピソードながら、不良ガイジン「ラッキー・ジェイク」というキャラクター、いわば一般市民の視点を通じて、ニンジャの横暴とそれに立ち向かうニンジャスレイヤーの姿がコンパクトに凝縮された形で描かれます。
「ナイス・クッキング・アット・ザ・ヤクザ・キッチン」
(有志によるニンジャスレイヤーWiki、作品解説ページへのリンク)
ラッキー・ジェイクは、この話で初めて登場します。彼はネオサイタマに滞在中のアウトロー外国人で、とある事情によって裏社会の賞金首となってしまった。身体の一部をサイバネティック置換したジェイクは、これまでも持ち前のタフネスで数々のピンチを切り抜けてきたのですが、今宵迷い込んだテッパンヤキ・バーはどうも様子が違う。そこは、闇のニンジャ組織「アマクダリ」が管理するクローンヤクザの巣窟だったのです。
初読の方は、まず、ニンジャスレイヤー特有のふざけているのかシリアスなのか分からない文章にノックアウトされることでしょう。語りはいたって真剣で、細かい情景描写を押さえたハードボイルドな文体なのですが、どこか現実の日本とはズレていて笑ってしまう。そして笑いながら、その背景にはネオサイタマ闇社会の厳然たるシステムの殺伐が透けて見えて、また真顔になってしまうのです。ミニマルに反復されるモチーフ、さらっと伏線を回収して逆転する構成の妙といったものも味わえます。
この話のいいところは、「ニンジャが出て殺す」というニンジャスレイヤー・シリーズの基本構造をシンプルになぞりながらも、あくまでカメラの焦点はジェイクにあって、ニンジャスレイヤーは舞台装置、ある種の狂言回しとして描かれるところです。これによって、超人的でヒロイックな側面よりも、より卑近で親しみやすい人間ドラマにフォーカスしながら、まるで読者自身がネオサイタマに紛れ込んでしまったような目線で物語を楽しめます。このタイプの話はいくつかあって、そのどれもが魅力的なので、後ほどご紹介します。
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サイバーパンクのフェティシズム
ところで、『ニンジャスレイヤー』という作品は、勘違い日本をモチーフにしたニンジャアクション小説としては広く知られるところですが、優れた「サイバーパンクニンジャアクション小説」であることは、まだあまり知られていないような気がしています。これはもったいない!本エピソードでは、ニンジャスレイヤーのサイバーパンク的側面を強調する仕掛けがいくつも登場します。
まず、主役のラッキー・ジェイク。彼は両腕をサイバネティック置換した、いわゆるサイボーグで、ネオサイタマではもはやこのような機械による身体機能の拡張が珍しいことではない点が冒頭で語られます。また、彼はサイバーサングラスを装備することで、日本語を理解しない外国人でありながら、流暢なリアルタイム音声通訳を通じてコミュニケーションをとることができます。これなんかは、もう既に現実世界でも一部実用化されていますよね。
彼を出迎えるのがクローンヤクザ。これは、とある優秀な遺伝子を元にしたクローン人間で、実用化の背後には日本を影で牛耳る大企業「ヨロシサン製薬」が関与しています。闇社会ではこれがクローンヤクザとして流通しており、卓越した身体能力と複数体が連動する一糸乱れぬ任務遂行能力によって旧来のヤクザのシノギを容赦なく削っている。その存在感は日々増しています。
ジェイクは一介の市民ですが、サイバネと隠し持った多数の武器、そして数々の修羅場をくぐり抜けることによって鍛え上げられた機転によって、意外にもこれらクローンヤクザたちと対等以上に渡り合う。しかし、その希望を易々と打ち砕くのが「ニンジャ」。ニンジャは、テクノロジーをカラテで遥かに凌駕する存在として描かれるのです。
さらに、この話ではなんと言っても、後半で登場するスラッシャーの「ミコチ」がまた魅力的なキャラクターです。彼女はジェイクを執拗に付け狙う賞金稼ぎで、そのサディスティックかつ神経質なサイコパス人格もさることながら、単眼めいた光を放つ円環型サイバーサングラス、肌に直接インプラントされた蛍光タトゥー、デジタル・チョコレートのような電子エフェクト音声と、これでもかというほどにフェティッシュに描写されます。
「ナイス・クッキング・アット・ザ・ヤクザ・キッチン」は、Togetterまとめ、およびニンジャスレイヤー物理書籍第14巻『死神の帰還』で読むことができます。後者は全面的に改稿が施されたバージョンで、特に気に入っている点は、最後に新たに追加されたジェイクらしい憎めない一言のセリフ。
ぜひ原作を読んで、ジェイクとミコチの因縁の結末、そしてブラックシープとニンジャスレイヤーの戦いの決着を最後まで見届けてください。
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「ナイス・クッキング~」から辿るエピソード・ガイド
◆サイバーパンク世界を楽しむ◆
サイバネティック、ドロイド、クローン、電脳ガジェットがお好きならこれらのエピソードはいかがでしょう(このほかにもたくさんあります!)
決死の潜入ミッション×白熱の電脳空間バトル!
「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」
不器用な機械オタクの青年がドロイド少女を修理すると…
「マーメイド・フロム・ブラックウォーター」
彼女の自我はどこにある?
サイバーゴス少女・ユンコの過去、現在そして未来。
「レプリカ・ミッシング・リンク」
◆ニンジャスレイヤーが舞台装置となるエピソード◆
市井の人々がニンジャに出会うとどうなるか。そしてそこにニンジャスレイヤーが現れたことで彼らの人生がどう変わったか、のドラマの数々。
青春ボーイ・ミーツ・ガール…ミーツ・ニンジャ!
「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」
運命的な再会。大人になりきれない2人の青年が共にした最後の日々。
「ニンジャ・サルベイション」
冴えない凡人がニンジャと出会い、何を得て、何を失った?
「リボルバー・アンド・ヌンチャク」
飛び交う陰謀、禁断の暗いロマンスの果てに慈悲は訪れるか。
「ブラックメイルド・バイ・ニンジャ」
◆ラッキー・ジェイクシリーズ◆
とことんツイてない不良ガイジン、ラッキー・ジェイクの数奇な足跡を辿る。彼は狂気の退廃都市ネオサイタマを脱出して、無事に母国へ帰れるのか…。
エッ!ジェイクとニンジャスレイヤーが入れ替わっちゃった!?
「マグロ・サンダーボルト」
ブッダの身代金は三億円!ゾンビーはヘッドショットで殺せ!
「デッド・バレット・アレステッド・ブッダ」
狂人どもの饗宴!孤島の監獄に救世の天使は現れるか!?
「アンエクスペクテッド・ゲスト」
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漫画&テキスト:R-9(鏡像フーガ)
原作:ブラッドレー・ボンド/フィリップ・ニンジャ・モーゼズ著、本兌有/杉ライカ訳『ニンジャスレイヤー』第3部より「ナイス・クッキング・アット・ザ・ヤクザ・キッチン」
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