テクノ新譜試聴メモ:2022-03
ウクライナ支援のチャリティー盤がたくさん出ています。今も各地で避難生活を余儀なくされている、ウクライナ人DJ・アーティストを直接的に経済支援できるものから(現在は期間限定的にウクライナ国内のPayPalアカウントでの送金受け取りも可能になっています)、ユニセフや赤十字などの団体への間接支援、あるいは軍事的な装備を購入するための資金援助を目的にしたものなどさまざま。
一部は個人的に下記のリプライツリーにまとめていますが、3月半ばからどんどん増えて、とても追いきれなくなってしまいました。お好きなアーティストやレーベルから情報を辿るか、BandcampでUkraineタグなどを追うのがおすすめ。わたしも予算の範囲内でいくつか支援しています。
Beatport限定でSuaraから強力なコンピ"Techno Against War"も出ました。それなりに長くテクノを聴いている人ならば、99年の"Techcommunity 4 Kosovo"がハードミニマル史に残る超名盤であることはご存じの通り。
また途中で更新が止まっていますが、Resident Advisorのこの記事にも支援先や各種チャリティー企画が時系列でまとめられています。
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一方、ウクライナのクラブシーンに関しては、有名なKyivのレイヴ"CXEMA"を追った2016年のi-Dの記事を読むと理解が深まります。YouTubeにはより詳しいショートドキュメンタリーも。
CXEMAとタッグを組んだBoiler RoomのStanislav Tolkachev回については、手前味噌ながらわたしも過去に書いたことがあります。
さらに、ウクライナのエレクトロニック・ミュージックの若いアーティストたちが今現在どのような状況に置かれているかについては、先々週公開されたばかりのPitchforkの優れた記事があります。
ウクライナでは、健康な成人男性はもはや出国を禁じられていることから、持てるだけの楽器を持って西側の比較的安全な都市に避難している人もいれば、10代からの作品集をBandcampにアップロードして悲壮な覚悟で軍へ志願したアーティストもいるそう。
記事で最初に取り上げられているHeinaliは昨晩(4月2日)、"Live from a bomb shelter"と題して、その名の通り避難先の都市Lvivの防空壕の中からモジュラーシンセサイザーによるライブを行いました。わたしもこれを50人あまりのライブ視聴者のひとりとして聴いた。美しさのなかに鬼気迫るものを感じた。
彼らの一部は、戦争が始まった直後から連名で"An open letter from Ukrainian club and music scene"という文書を通して、ロシアに関係するアーティストや団体との協業のキャンセルを呼びかけています。
この行動への是非は様々あるだろうけども、少なくとも彼らのこの声明に至った心情は理解できるつもりだし、尊重したいと思います。
知れば知るほど、彼らは自分たちと同じなのだと感じる。日々の普通の生活のなかに、電子音楽とダンスの楽しみ、そしてクリエイティブを見出してきただけなのですよね。したい形で、できる範囲で支援していこう。
以下、3月の新譜から。
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No! - Bee Bite, Sweet Honey [Hayes]
今月一番ヤバかったやつ。ギラギラしたアナログシンセの危うさ、生々しさを感じるパワフルな覚醒系ロウ・テクノ。どうやらこのNO!というのは以前もHayesから出していたMystics (Davide Di Bernardo)の変名らしい。スケッチのような短い曲もあれば、叩きつけるような重いキックから幻覚のようなアルペジオが立ち上がってくるツールトラックもある。もっと聴きたい。
SHXCXCHSXSH - Kongestion [Avian]
スウェーデンの覆面デュオの4年ぶりのフルアルバム。待ってた! 相変わらず表象からは捉えにくいコンセプト、反復を拒否する実験的ビートを取り入れながらも、気難しくならないラフさがかっこいい。今作は全体としてレイヴサウンドを題材にした変奏曲のような構成になっており、複雑なレイヤー状になったノイズが周波数の低いところから高いところまで、まんべんなく耳と体の芯をくすぐってくる。DJでも使えると思う。
Drop-E - Exemption [Modularz]
淡々とDJツールに徹するアティチュードと、モノトーンのアートワークがいつも渋かっこいいModularzから、個人的にずっと熱いDrop-Eの7曲入りEPが出た。"Real techno"という短い一文で決断的に表現されたリリースからも分かる通り、捨て曲なしのバキバキに使えるストイックなテクノだ。普段のDrop-Eのウワモノの尖った感じは若干丸くなっており、全体的に色がなく使いやすい感じになっているところは良し悪しですね。
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今月取り上げたトラックはSpotifyのプレイリストにまとめてあります。