![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/9372042/rectangle_large_type_2_2b3133c5a3b21b1dd0dd3d5d29540007.jpeg?width=1200)
『ニンジャスレイヤー』Twitterリアルタイム翻訳連載ならではのギミックまとめ
『ニンジャスレイヤー』は、作家集団「ダイハードテイルズ」所属のニンジャスレイヤー翻訳チームが、2010年から現在に至るまでTwitterアカウント@njslyrでリアルタイム翻訳連載を行っている小説です。
リアルタイム翻訳連載というのはどういうことかというと、Bradley Bond氏とPhilip Ninj@ Morzez氏による原作テキストをもとに、日本語翻訳チームがTwitter向けに140字整形を行いながら一定間隔で投稿していくという独自の連載スタイルのこと。読者は、タイムラインに流れてくる小説を読みながら、専用ハッシュタグ#njslyrなどを使ってそれを「実況」することができます。本作の長大な物語のうち、公開されているエピソードの大半が、この形態で9年近くの長きにわたり連載されてきました。
もちろん『ニンジャスレイヤー』は書籍化もされており、いまや小説版・漫画版・アニメ版・オーディオドラマ版などさまざまな媒体で楽しめます(間もなく漫画版の最新刊が発売されるほか、小説の新刊も控えている)。特に原作小説そのものは、書籍版を読んでいれば十分に楽しむことができます。
しかし一方で、Twitterリアルタイム翻訳連載ならではのライブ感は、他の媒体には代えがたい魅力がある。のみならず、実は本作にはTwitter連載だからこそ楽しめるギミックみたいなものがけっこうある。そういう楽しさは、その場その場のもの…いわば有名バンドのライブ伝説のようなもので、ギターを燃やしたとか、ユンボがライブハウスの壁をぶち破って現れたとか、そういう類のもの。誰かが語り継がなければいずれ忘れ去られてしまう運命…!
そこでこの記事では、こういった従来の小説のフォーマットを飛び越えた新しい連載形態への試みに際して、『ニンジャスレイヤー』がどう取り組んできたかの具体例を、個人的にまとめておくことにしました。いわゆる一般的な「Web小説」とも違う、Twitterリアルタイム連載だからこその仕掛け。単に思い出したものを列記しているだけなので、忘れていることもあるかも。
◆ ◆ ◆
なんだか面白そうなことやってるな、と思った方がいたらぜひ@njslyrをフォローして、リアルタイム投稿の活劇をTwitter読書する新生活を開始してみてください。
(1) 複数アカウント同時連載
『ニンジャスレイヤー』はメインのTwitter公式アカウント@njslyrのほかに@dhtls、@the_v_njslyrなどいくつかのサブアカウントを持っており、連載中の本筋のストーリーラインに対してそれらのサブアカウントが関与してくることがあります。そういった事件の原因の多くが「ザ・ヴァーティゴ」というキャラクターによるもの。彼は因果律無視ニンジャであり、エターナルニンジャチャンピオンであり、ピンク色の装束に銀のメンポで顔を覆った謎多きニンジャであり…要するに「第四の壁」を超えたメタ存在です。
なので、どういうことができるかというと、本編の連載中に(サブアカウントを通して)Twitter連載を読んでいる我々に対して語りかけてきたり、ハッシュタグ#njslyrで行われている読者の「実況」の内容に反応して当意即妙にツイートしたり、それどころか本編に乱入したり…みたいなことができる。
有名なところでは、2012年9月4日、連載中の第2部最終章「キョート・ヘル・オン・アース」のクライマックス本編に乱入してきたシーン。
唐突な登場により「ザ・ヴァーティゴ」がTwitterトレンドワード入りしたことを受けて、トレンド砲・トレンドソード・トレンドチェーンソーといった身も蓋もない武器を振り回して大暴れした。
わたしはこの時はまだ本作に出会っていなかったため、惜しくも「ライブ」でこの読書体験をすることができなかったのですが、検索していたら2012当時にこの連載のことをブログに書いておられる方がいました。貴重な証言!
ちなみに、第2部最終章のこのパートにおけるインタラクティブな試みは、Twitterからの書籍化に際しても引き継がれています。本でどうやってこれを実現したかというと、<上巻>の読者アンケートハガキで「ザ・ヴァーティゴ=サンに使ってもらいたい武器」を募集して、<下巻>でそれを使ったのだ! アナログ!
一体この双方向的な演出のアイデアはどのようにして生まれたのか。かつて「マディソンおばあちゃん」は読者からの質問にこのように答えています。
「缶にザ・ヴァーティゴのくだりを入れて地面の下に埋めたり」…! 本当かどうかはともかく、少なくともそういった野心的な実験が原作の時点で既に試されており、Twitter版はいわばその再現のようなのです。
(2) 並行連載エピソードがリアルタイムに作中で交錯
サブアカウントは、なにもザ・ヴァーティゴ専用というわけではなく、別の使われかたをすることももちろんある。
2016年ごろまでの翻訳チームは、翻訳連載にあたり「2ユニット体制」を採っていました。それぞれのユニットが別のエピソードを翻訳連載し、今日はAの話の続き、次の日はまた違うBの話の続きというように、別々の2話を並行連載する形。ただしこれらは原則的に、すべてメインアカウント@njslyrで連載されてきました。
例外のひとつが第3部の連作『ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ』。このうちの「フェアウェル・マイ・シャドウ」(モーゼズ氏作)と「ニチョーム・ウォー」(ボンド氏作)は、作中のほぼ同じ時系列の話を別のキャラクターの視点から多面的に描いた作品でした。2015年7月10日から11日深夜に連載された両エピソードのクライマックスでは、これらの作品がメインアカウントとサブアカウントの両方で同時に翻訳連載され、作中の同じ事件が別々のカメラで描写される、というような出来事が起こりました。
ここに当時のログが残っています。
読書体験としては、Twitterタイムライン上で2つのアカウントで連載される小説を同時に読みつつ、実況も読む、みたいな忙しさでした。しかし本当にヤバいのはその先で、なんとここへ突如として第3のカメラ、第3のアカウントが加わるのです。
つまり、3アカウント同時連載! 何が起きたのかはぜひ作品を読んでいただきたいのですが、少なくともWeb媒体で展開している小説において、こうしたエポックメイキングな演出をわたしは他に知りません。
(3) 作中時間と連載時間がシンクロ
これはかなり連載初期にやっています。2011年12月31日、大晦日のネオサイタマを舞台にした「ア・ニュー・デイ・ボーン・ウィズ・ゴールデン・デイズ」では、お話のクライマックスと深夜0時の年またぎをぴったり同期させるという芸当を成し遂げています。
このライブ感はまさにTwitter連載ならではの楽しさ。
ちなみに同じ演出は今年の年越しエピソードでもやっています!
もはや特段驚かないんだけど、こういうオーディエンスを含めたテンションのコントロールみたいなことを自然にやってのけるのが、翻訳チームの手腕だと思います。
(4) 後日談や予告を「ニンジャ名鑑」でやる
『ニンジャスレイヤー』のTwitter独特の楽しみとして「ニンジャ名鑑」というコンテンツがある。これは、エピソードの連載順に関わらず、事典・カタログのようにして登場キャラクターのプロフィールを1ツイートで簡潔に紹介するというもの。トレカめいてそれぞれに連番が振られています。
この名鑑の仕組みで面白いのが、そのキャラが登場するエピソードが翻訳公開済みかそうでないかを問わないという点。お馴染みのキャラの新たな側面が何の脈絡もなく急に開示されたり、かと思えば、この先いつ何の話に登場するのか誰も知らない、めちゃくちゃ魅力的なキャラ設定だけが単独でポンと出されたりするわけです。つまりニンジャ名鑑を使って、連載の時系列を完全に無視した形で部分的な「後日談」をやることも、この先いつか連載する(かもしれない)エピソードの「予告」をすることもできる。
2015年3月から4月にかけて連載された「ニンジャ・サルベイション」は、この話の主人公である青年ユダカ・コナタニと、彼に縁のあるもうひとりの人物が辿ることになる運命が、独特のウェットな筆致で綴られる名作。連載終了後の10月に、急に名鑑に登場してさらっと重要な後日談が語られました。
このようにニンジャ名鑑は、物語本編の盛り上がりや情緒に特に関係なく、ほとんどの場合事実だけが客観的に、ドライに描かれるので、思い入れが強いキャラクターほど「ウワーッ!」となる。
逆のパターンもある。
名鑑が登場した2011年時点で、シルバーカラスというキャラクターは、本編に名前だけが登場する謎めいたニンジャのひとりに過ぎなかったわけですが、その後の2012年に連載された「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」で、人気キャラクターヤモト・コキとの因縁が描写されるに至り、この淡々とした名鑑がまったく別の重い意味を持つことになった。
2012年にニンジャ名鑑に掲載されたツインテイルズは、読むからにハチャメチャ魅力的な設定で、これなんかは実質的なエピソード予告の最たるものと言えそうです。が、ここで示唆されている面白そうな話が連載されることはその先もずーっとなく、ツインテイルズというキャラクターが初めて登場したのは、2017年にニンジャスレイヤープラスで連載が始まった「クルセイド・ワラキア」においてでした。実に5年間も待った!
もちろん、ニンジャ名鑑で紹介されながら現時点で話に登場していないキャラクターはまだまだ大勢おり、それがこの先の物語の展開を予想し期待させる原動力のひとつともなっています。
本編未登場者も含めたニンジャ名鑑登場者の一覧はこちら。多いよ!
(5) 「ニンジャ名鑑」がバグる
名鑑を使ったギミックがもうひとつ。第2部に登場するメンタリストという敵のニンジャは幻覚使いのニンジャで、しつこくニンジャスレイヤーを苦しめるのですが、2012年8月28日の連載では、その狂気がTwitter連載の「地の文」にまで作用して、まるで日常が侵食されるような、ただならぬ狂気を演出しています。
この怖さは、ニンジャ名鑑というテンプレートあってのものであることは言うまでもありません。自ら作ったルールを破壊することで、ひとつ上のレイヤーを表現するみたいな実験は、『ニンジャスレイヤー』においては、第2部くらいまでのごく初期にひと通りやり尽くしていると言えると思います。
(6) 近日連載開始を予告した話が実はもう始まっていた
2014年2月、第3部のクライマックスを告げる連作エピソード『ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ』の翻訳連載が3月より始まることが予告されました。…が、3月になっても一向に始まる様子がなく、連載では別のエピソードをやっている。それどころか、その月の終わりにはこんなことまで…
「我々は誰の挑戦でも受ける」! これはもう、なにかやんごとなき事情があって予定が遅れちゃったんだな、と思うじゃないですか。
そうこうするうちに4月になり、事態が動いたのは4月14日、前月から連載が続いていたエピソード「レイズ・ザ・フラッグ・オブ・ヘイトレッド」でのできごと。セクションも終盤に差し掛かり、いよいよというところで、唐突に8ケタの数字「10100017」によって作中時間(10月10日0時17分という意味だ)が示され…それによって初めて読者は察したのだ。
つまり、今まで読んでいたこの話がもう連作『ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ』の1話目であって、まさしく予告通り3月に連作の発表は始まっていたのです。この日の連載は、ストーリーのテンションが最高潮で、かつ更新が深夜2時に及んだこともあって、読んでいて呆然となったことを今でも覚えています。キツネにつままれたような感じ。演出の工夫によってこういう「読ませかた」ができるのも、リアルタイム連載ならではと言えるかもしれません。
(7) 話の途中がYouTubeになる
これはちょっと特殊な例なんですけど、2014年4月18日に連載された「カタナ・ソード・アンド・オイラン・ソーサリー」という短編は、開始から普通に通し番号「5」までツイート続いたあと、急に続きがYouTubeになります。何を言っているか分からないかもしれない。わたしも分からなかった。
その後平然と通し番号が「24」に飛び、このお話は完結します。
動画を観ていただけると分かるんですが、これは実は『ニンジャスレイヤー』書籍のプロモーションの一環として作成された独立したアニメーション作品。ちゃんと小説のイントロ・アウトロと話が繋がっていて、よく見れば歌って踊るネコネコカワイイ(作中に登場するオイランドロイド・アイドルデュオ)の背後で、ニンジャスレイヤーとダークニンジャがカラテしているのだ。
補足で、このエピソードは、原作者による同名の短編に基づいていることも示されます。こうしたプロモーションを柔軟に作品に繋げられるフットワークの軽さですよね。
(8) そのほか、リアルタイム翻訳ならではのできごと
仕掛け、ギミック的なところに注目していくつか列挙してみたわけですが、リアルタイム翻訳ならではの良さというもっと広い意味では、ほかにも色々と挙げられます。
例えば、「イヤグワ」「シュギ・ジキ」「古代ローマカラテ」といった、作品内の"お約束"にあたる要素は、音楽のライブにおけるパワーコード、キャッチーなリフのような感じで、最も読者が沸くところだし、翻訳チームも明らかにそれを狙ってやっている。彼らは必ず、一番盛り上がるところで、一番面白いものを出してくる。
もちろん、そうしたライブ的な演出の楽しさは読者(ニンジャヘッズ)のリアクションあってのものです。そのなかには、小説の挿絵のようにして投稿されるライブ・ファンアートであったりというのも含まれる。小説を連載しながら、ほぼ同時に読者から挿絵が上がってくるわけです。
関連して印象深い出来事が、(6)でも触れた『ロンゲスト』第1話、「レイズ・ザ・フラッグ・オブ・ヘイトレッド」のクライマックスの連載中のこと。作中人物が満身創痍でキツネ・サイン(理不尽な抑圧への反抗のサインだ)を掲げながら壮絶な死を遂げると、それに呼応するように、読者自らもキツネ・サインを掲げるムーブメントが自然発生的に起こり始めたのだ。小説を読んでいて、こんな体験があるとは思わなかった…!
◆ ◆ ◆
『ニンジャスレイヤー』はTwitterで読むのがおすすめ
当然ながらライフスタイルは様々ですし、作品との接しかたは何でもありだと思うんです。思うんですけど、『ニンジャスレイヤー』を読むならやっぱり一度は試してほしい、Twitterリアルタイム翻訳連載。
いま@njslyrアカウントでは第4部が連載中ですが、ここから新しく読むのも全然ありだと思います。むしろここから読むべし。昨年12月にちょうど「シーズン2」が終わったところで、区切りがいいというのもあります。
物語の最新の動向を踏まえた入門者向けの読書ガイドとしては、こちらのニンジャヘッズのかたのnote記事が大変おすすめです。
ここまでお読みいただいた方で、結局『ニンジャスレイヤー』って何? 調理器具? と思う方はいないと思いますが、そもそもどういう作品なのかについては、公式のこちらの記事をご参照ください。