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長崎の旅(2):佐世保の坂道

前回の続きです。

2日目は佐世保市内観光。

そもそも、今回なぜ旅行先に佐世保を選んだかというと、かつて見たアニメ作品『坂道のアポロン』の舞台の多くが、ここ佐世保市内をモチーフにしていたからなのです。ネット上のロケ地探訪のような記事を読むと、作品に登場するそのままの風景があちこちにある。10年以上前から、いつか佐世保を訪れる機会があれば、行ってみたいと思っていた。いわゆる聖地巡礼というやつです。

ホテルをチェックアウトしたあと朝イチのシャトルバスで佐世保駅に戻り、荷物を預けたら自主的なツアーの始まり。

坂道を巡って

『坂道のアポロン』は、小玉ユキ先生の漫画作品(小学館フラワーコミックス、全9巻)を原作とするアニメおよび実写映画作品。1960年代の長崎・佐世保が舞台の高校生たちの物語で、主人公の薫と千太郎がジャズを通じてかけがえのない友情を育む様子、また千太郎の幼馴染の律子や上級生の百合香を交えた、もどかしくも眩しい人間模様を描いた作品です。

わたしはこのTVアニメを友人の勧めで2013年に見て、その青春の儚さと喪失のリアルがいたく刺さり、またジャズという音楽の素晴らしさをストレートに描いた点において、特にお気に入りの作品のひとつとなりました。

今回の長崎訪問にあたって、予め漫画を全巻読み直して、しみじみ良い作品だなと思うなどしました。本当はアニメも見返したかったけれど、主要なサブスクにはなく、これはまたレンタルなどしてちゃんと通して観たい。

題名にもある「坂道」は、主人公たちの通う高校に至る通学路の長い長い坂道を指し、薫の心象風景を表す上り坂/下り坂として、劇中背景に何度もドラマチックな形で登場します。そのモデルは、佐世保北高校に通じる「八幡坂」として実在しています。この坂と、作中に登場するいくつかのスポットへ行ってみるのが今回の旅の目的でした。

例えば、佐世保駅前すぐのところにある「カトリック三浦町教会」は、千太郎と律子が幼いころから通っていた教会…のモデル。片側3車線の目抜き通りに面した高台に、いきなりこんな立派な教会が建っているから驚く。長崎は東京と比べるとやはり教会の存在感が強い。

正面の階段を上っていく。普段は教会内部も見学できるとのことでしたが、あいにくこの日は中でなにか礼拝をしていて、立ち入ることができませんでした。その代わり、礼拝堂のすぐ脇にあるマリア像は、これもまた『坂道のアポロン』の作中において千太郎が度々心の拠りどころにしているあのマリアさま、そのものなのでした。

『坂道のアポロン』2巻より

次に、この教会の向かい側のバス停から10分ほど路線バスに乗り、佐世保市役所前で降りる。市役所のある交差点に面しているのが亀山八幡宮。

ここは、転校生である主人公の薫が神社の境内でいじめられているときに、千太郎が割り込んできた階段…のモデルとされています。

もちろん、このまま神社にもお参り

そしていよいよ、この八幡神社の脇道から佐世保北高校に連なる坂道こそが、「あの坂道」。

『坂道のアポロン』OPより

作品はもちろんフィクションで、しかも1960年代が舞台なこともあり、面影はどれほどのものかと思いましたが、想像以上にそのままの「あの坂」があるのでした。そこそこ急勾配ではあるものの、通学路だったら、わりと全国どこにでもありそうな坂でもあるし、この坂を忌々しいとまで言う第1話の薫くんの心情に同情してしまう。

坂の全景
作中の「佐世保東高校」のモデル、佐世保北高校

一方で、学校側から見下ろしたときの、駆け出したくなるような解放感。なるほど、これは来てみないと分からなかったかもしれないな。

さらに、同じ市役所前のバス停からさらに北に向かって10分ほど行ったところの「境木」バス停で下車、住宅街の中を抜けて「眼鏡岩」を目指します。

『坂道のアポロン』2巻より

ここは作中では「逢引岩」として登場。4人で出かけたものの、薫と律子の気持ちが決定的にすれ違ってしまう切ない場面が印象的なシーンです。奇岩のふもとに腰掛けておにぎりを食べたり、というのは今は実際にはできず、落石注意の看板が立っていて近づけないようになっている。

それにしても、人工物のようにきれいなアーチを描く不思議な岩だ。かつての浸食によるものだそうで、中央部分の表面に複数丸く彫られた観音像と梵字は、弘法大師の手になるものという伝説がある。

隣接するお寺は西蓮寺。金曜日の昼間、人影もまばらな紅葉の美しい静かなお寺でした。

以上で、今回の『坂道のアポロン』関連のロケ地巡りはおしまい。佐世保から更に足を伸ばして、黒島という離島にある教会にも行ってみたかったけれど、それはまた別の機会に。

佐世保から諫早へ

せっかく町に出てきたので、お昼どきの佐世保をぶらぶら。市内はバス網が張り巡らされていて、本数も多く、西肥バスは普通にSuicaで乗り降りできるから便利。街の様子を見ても、十分に大都会だと感じますね。

昔ながらのアーケードが健在かと思えば、港近くの「させぼ五番街」は、おなじみの都市型全国チェーンはだいたい入っているショッピングモール。

ここでは、一度食べ比べてみたかった本場長崎のリンガーハットで、期間限定の牡蛎ちゃんぽんを食べてみました。

ノーマルと異なる味噌ベースのシンプルな味わいでしたが、普段さほどリンガーハットへ行かないこともあってあまり長崎ならではの違いは分からず。ただ、前回の旅で長崎の四海樓で食べたものとはまったく違い、旅先で敢えてチェーンを選ぶ理由はないかもなとは思いました。

佐世保、次の機会には地元のジャズが聴けるお店に行ってみたり、海上自衛隊の史料館にも足を運んでみたい。ここを拠点に五島の離島の教会巡りもしてみたいし、平戸温泉のほうにも行ってみたい。

そんなこんなで、佐世保を発って今晩の宿泊地、諫早に向けて移動します。

来たときと同じJRに乗って、諫早まではのんびり80分ほど。ここで再び手描き地図を再掲すると、②の道のりがこの2日目にあたります。

15時半には諫早着。諫早はまた立派な駅舎。何と言っても新幹線が止まる駅です。前回の旅では島鉄と長崎本線の乗換駅として通りがかっただけだったので、一度ゆっくり散策してみたかった町。

駅前は飲食店が立ち並び、人通りも多くけっこう賑やかにやっているのですが、ホテルに行くまでに少し歩くと、こんなにのどかな風景になる。

この日の宿は「ホテルフラッグス諫早」。前日の九十九島で泊ったのと同じ系列のビジネスホテルですが、建物はこちらのほうが更に古く、なんとか体裁を整えて今風にブランディングしているという佇まい。それでもホスピタリティは必要十分で、楽天トラベルのクーポン込みで6,000円弱。大浴場もあり、素泊まりなら快適に過ごせる高コスパのホテルです。

ここはホテルの近くにある諫早公園の重要文化財、眼鏡橋。眼鏡岩に眼鏡橋と、なんだか眼鏡づいている一日。一帯は高城(諫早城)の城址公園として整備されていて、丘の上からの眺望も気持ちいい。

丘の上の大楠と、たぶんその守り神
本明川のほとりで暮れゆく夕日を眺める
紅葉をライトアップしている安勝寺の鐘楼

ひとしきりお散歩したのち、時間差で長崎入りした東京の友人と諫早駅前で合流。夕飯は、評判の良さそうな駅ビルの「山勝食堂」さんで唐揚げ定食を頼んでみたところ、これがまたボリュームがすごい。

前日に続いてたくさん歩いた日。三日目に続きます。


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