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【映画/小説】The Martian(『オデッセイ』『火星の人』)

この記事は、アンディー・ウィアーの新作小説『アルテミス』についての記事を書くにあたり、2016年2月29日にEPX studioブログで公開した記事に加筆・訂正を加えたものです。

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公開されてからわりとすぐ観に行きまして、とっても感銘を受けてkindle版の原作小説を読み、そのうえでこの前2回目を観に行きました。ハマりました。

観る前の懸念としては、まあお話の大筋は限られているじゃないですか。 "Gravity"(『ゼロ・グラビティ』)のときと同じで、要は助かるにしても助からないにしても孤軍奮闘というシチュエーションなので、それを2時間強の映画としておもしろく見せるというのは、いかにも難しそうだなと思っていました。でも結果として、最後までずっと楽しめた。

というかね、これは理系・文系問わずロジカルな思考法が身についている人にとってはたまらない作品ですよ。パワーとエモーションで一発逆転とかではなくて、冷静にひとつひとつ問題解決にあたり、その結果としてプロジェクトを成功に導くという、一見するとものすごく地味な筋書き。そして、その助けになるものとして「ユーモア」や「音楽」というような直接関係のないオプショナルな(しかし人生には重要な)要素が肯定的に描かれていて、限りなくエマージェントな状況にも関わらず、全体として妙にハッピーな雰囲気の作品になっている。

映画のなかでは、分かりやすさのために「どうしてそうなるのか?」というような細かい説明を省いていたこともあり、これはきっと映画で語られていないところにこそ科学の面白さが詰まっているのではないかと思い、原作小説を読んでみたら案の定でした。小説版、映画以上におもしろいです。文庫本に換算して600ページ以上というボリュームながら、SF小説慣れしていない自分でも特に長いと感じることもなく、一気に読んでしまった。

まず、読んでいる感覚がまるでブログのようだったのです。ほとんどが主人公マーク・ワトニーによる行動ログの書き起こしという体裁で、フレンドリーな一人称の口語体として表現されていて、読みやすかった。火星に取り残されたたったひとりの人間…という以前に、エンジニアとして悩み、考え、試して、時には失敗したりもしながら、成功したらまた次の課題に挑戦するという様子が、なんだか仕事のできる先輩の業務日報を覗き見しているような感じで。

考えてみると、これって宇宙飛行士だからとかではなく、一般のエンジニアが思い描く理想の仕事環境なんですよね。自らの腕と実力で課題に取り組み、事情を知らない上のほう(NASA)からあれこれ指示されても現場の裁量と判断でむしろアッと言わせ、好きな時に仕事して、好きな時に休み…最後には大きな目標を達成して世界中から祝福されるという。やさしい世界!特に小説版ではこのあたりがとても真に迫ったものとして描かれていて、作者がコンピュータープログラマー出身というのも納得できます。

また、小説版ではローバーで何日も旅をする風景が印象的でした。一応は安全な設計になっているハブを遠く離れ、命をローバーに預けて身一つで旅をする心細さ。映画でも、最後のMAVまでの旅程はファンタジー映画のように美しい映像(『怒りのデス・ロード』の沼地のシーンような、『ネバーエンディングストーリー』のような)が続きましたが、小説版はあれに輪をかけたウルトラハードモードになっているのでした。映画では、2つくらい大きな事件がカットされている…。

とはいえ、この小説を映像化したものとしては、映画版はほとんど完璧な作品で、余計な要素を足すことなく原作に忠実に再現していると思いました。映画でカットされているパートがいくつかある一方で、小説では、例えばローバーやMAVの外見、あるいは実験機器などについてビジュアル的に描写されることは少ないので、両者はいい補完関係になっています。

言ってしまえば特段のサスペンスや駆け引きはないし、大きなプロット・ツイストもない、手に汗握るような一大アクションシーンもないという不思議な作品ですが、私はこれ大好きです。

火星の人 | アンディ ウィアー, 小野田和子 | Kindleストア | Amazon
https://www.amazon.co.jp/dp/B00O1VJZLO/


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