バーバラが何をしたって言うんだよ ストレンジャー・シングスS1ネタバレ感想
バーバラが何をしたって言うんだよ。
バーバラは冴えない真面目女子であった。成績はたぶん良い。ルックスはあんまりよくない(と評価されていると思う)。アメリカンスクールカーストにおいて最底辺でこそないもののあんまり良い地位にいるとも思えないバーバラの災難の始まりは、親友のナンシーが不良イケメンのスティーブに言い寄られた事であった。
ナンシーはバーバラと同じく成績優秀な優等生。品行方正で教師の覚えもよろしく、おまけに美形だ。揶揄ややっかみも込めて、ミス・パーフェクトと呼ばれる金髪美少女。
一方でスティーブは、なんだか自信ありげで顔がよく、多分運動も得意そうだ。取り巻きは嫌な感じだがスティーブ本人は結構感じが良く、こういう奴にありがちな鼻につく傲慢さもそこまで感じさせない。不良と見なされているようだが、アプローチもオラオラ系じゃなくソフトな雰囲気で、でも恵まれた人間に特有の押しの強さは持っており、まんざらでもないナンシーの建前ばかりの拒絶を懐こい雰囲気で押し切ってくる。ナンシーからすれば、悪い気がするはずもない。彼女はスティーブは体目当てなんじゃないかとか遊びでしかないんじゃないかと疑いつつも、段々とほだされていく。
別にいいけどさ。別にいいけど、バーバラは関係ないじゃん。巻き込むなよ。ところが、バーバラは良い奴なのだ。親友のナンシーが危険な男に言い寄られ、惹かれ始めているとなれば他人事ではないのである。
デートの前にナンシーの勝負服を買うために二人して数時間服屋を巡るし、相談という名の惚気だってされる。だいたいナンシーと行動を共にしてるから、スティーブとその取り巻きが話しかけてくるのに否応なく巻き込まれる。というかナンシーが巻き込んでくる。あっちが何かに誘ってくると、「バーバラはどうする?」という感じである。勘弁してくれ。スティーブはともかく、取り巻きは冴えないガリ勉を小馬鹿にしている雰囲気があるのだ。ナンシーが一定承認されているのは、ナンシーがルックスがよく、また一味のリーダーであるスティーブに惚れられているからだ。バーバラはお呼びじゃないのだ。だというのにナンシーは、まるでバーバラも誘われているかのように「バーバラはどうする?」とか言い出すのだ。心細いのはわかるけどさあ。バーバラにとっては、行けば終始アウェイ、引けば「あいつが断ったせいでナンシー来なかったじゃん」となる前門の虎後門の狼である。このシーン、筆者はバーバラに感情移入し勝手につらくなっていた。もし筆者がバーバラだったら、ナンシーの恋愛相談にうんざりして早々に「勝手にしろよ」と言っていただろう。スティーブグループに感化されたナンシーと疎遠になり、かつては親友だった彼女から「あんなダサいのとつるんでも楽しくないでしょw」みたいな侮蔑を受ける未来もかなりキツいものがあるが、でも奴らの発生させる雰囲気の中で終始アウェイ感を感じさせられるくらいならナンシーと疎遠になる方を選ぶ。選んでしまう。バーバラは違う。大した奴だ。
そんなこんなで、バーバラはスティーブ宅で夜間に開催されるパーティーに参加することになり、あまつさえナンシーを車で送り、なおかつナンシーの母親にこの不品行を隠蔽するための口裏合わせまで行うことになるのである。
パーティーのシーンも見ていてつらかった。この後のバーバラの最期より、こちらのシーンの方が地獄に思えた。両親不在のスティーブのでかい家。プールサイドでの未成年飲酒。バーバラにとってはいずれも馴染みがないものであった事は間違いない。失踪者が出て町中がざわついている時にリスクを犯して夜間外出し、酒飲んでだべってふざけあうだけの、面子に親しみがなければまったく面白くないパーティーに参加させられる。調子に乗った若者の内輪ノリなんか内輪じゃなければ面白いはずがないのだ。彼らのあふれる自信と視野の狭さ、仲間同士の親密さは普遍的な面白さを追求するにあたってもっとも不向きな要素である。黒も白くなる内輪の雰囲気でしょうもないことで盛り上がり、乗れない人間を「まああいつは陰キャだからw」みたく思ってるんだろ。そんな被害妄想がぬぐえない。唯一の友人であるナンシーは意識のほとんどをスティーブに向けており、バーバラの居心地の悪さに気づいてもいない。あげくの果てにはスティーブに乗せられてビールの一気飲みを始める始末。お前はそんな奴じゃなかったはずだ。一視聴者である筆者はスティーブに浮ついたお前しか知らないが、バーバラの知るお前はきっとかような軽犯罪を犯す娘ではなかった。その後、バーバラも雰囲気的にどうしようもないので自分もビールの一気飲みに挑戦することになる。車で来たのに。検挙されればバーバラのこれまでの真面目人生はめちゃくちゃだ。もっとも、悲しむべきことにそんな未来は無かったが。
バーバラはビールの一気飲みをしようとした際に手を切ってしまう。その出来事でなんとなく場は白け、カップル同士が部屋に引き上げてメイクラブという流れになる。ここで、ナンシーはスティーブの誘いを受けて彼の部屋に赴くのである。スティーブとて、「レッツファックだ」みたいな直接的言及はしなかった。だが、大人不在の家でこれまで数週間に渡りナンシーを口説いてきた男と個室で二人きりになるとは、つまりそういうことであった。隠されたメッセージはレッツファックであり、それをナンシーもバーバラもわかっていた。だというのに、ナンシーは行くのだ。バーバラがこんな地獄に耐えたのは、他ならぬナンシーからスティーブのレッツファックの誘いに対する抑止力となってくれといった趣旨の頼みを受けたからだというのに。
ナンシーへの心配と裏切られたような思いに満ち、所在なげにプールの水面を眺めるバーバラ。
「もう知らん!」と帰ってしまってもよかったろうに、彼女はナンシーを置き去りに愛車で夜を駆けることはしなかった。そして、バーバラのそのような人柄が彼女を死に至らしめた。手からの出血を嗅ぎつけたやべー怪物に異次元に引きずり込まれて殺された。ナンシーは案の定メイクラブしていた。
バーバラが何をしたって言うんだよ。
まあナンシーだって別に悪気があったわけじゃないし、怪物がうろついてるのは彼女のせいじゃない。バーバラの死は不幸な出来事であったが、怪物以外にとがめられるべきものはいない。バーバラの周囲の登場人物はみな10代だ。スティーブの感じの悪い取り巻きだって、感じが悪くはあるがそれだけだ。それでも、バーバラの死を悼む折には周りの奴らはろくでもなかったなと思えてしまう。バーバラの人生にもうちょっと楽しいことがあってもよかったんじゃあないか。S1を見終わって、S2の一話目の所で視聴を止めているのだが、バーバラはこのまま忘れ去られてしまうのだろうか。ナンシーは彼女の得難い親友の事を覚えていてくれるだろうか。
バーバラよ安らかに眠れ。