
~繋ぐ想い~
先月より販売を開始しているお菓子「ガトーカマンベール」
ありがたいことに現在完売をしており、仕込みに使うカマンベールの発酵が最適な状態に進むのを待っている所です。
発酵の状態を判断するのは僕で、カマンベールにも個体差があり仕込みに使ういくつかのカマンベールの発酵が平均して最適になるのを決めます。
目に見えないところ(香りや硬さ)での判断になるので完全に毎回同じ味になるかというと許容の範囲内での振れ幅があり、これもこのお菓子の特徴ととらえていただき楽しんでもらえることを願っています。
そんなお菓子をエプルヴェで販売をするに至った経緯を以下に書き綴ったので目を通していただけると幸いです。
35年前に僕がお菓子の世界に飛び込み最初に働いたお店で出会ったケーキが
「ガトーカマンベール」でした。
当時の日本ではまだカマンベールチーズはそれほど知られた存在のチーズではなく、僕自身も知りませんでした。その得体のしれないチーズをさらにケーキにするのだからさらに驚き、このケーキを初めて食べた印象は「これケーキ?」でした。
ケーキと思って食べたら「甘くない」
甘くないどころか少しの塩味も感じ、当時の僕には海外(主にヨーロッパ)のフロマージュ独特の匂いも感じたのだから当時の若い経験の浅い自分には無理も有りませんでした。
そのケーキを作ったシェフもすべての人に受け入れてもらわなくても良い「10人のうち1人か2人に好きになってもらえれば良い」とおっしゃっているのを聞いて「なるほど、そうなるな」と変に納得をしたのを覚えています。こんな出会いだったので当然それほど好きなケーキでもなくお店の商品の一つに過ぎず、思い入れもそれほどなかったのが正直なところでした。
そんな僕も三十歳を前に縁あってフランスでお菓子の勉強をする機会に恵まれ、現地で初めて務めた職場は一つ星レストラン。そこでは当然フロマージュの提供も有りその種類の多さに「さすが本場のフロマージュ」と圧倒されました。
その異国のフロマージュ達のほとんどが僕には未知の世界で、ミルキーでマイルドな物から酸味の強いものや塩味の強い物、香りの強い物(正直臭いと表現できる物も・・)まで素材や製法に至るまで様々な物があるのを知りました。当然そんな中での生活で僕はすっかり興味を持ちどんなフロマージュも美味しく食べられるようになり、気が付けばかなりのフロマージュ好きになっていました。
そんなヨーロッパでの生活も三年が過ぎ日本へ帰国した際、すでに自店を開業されていたあのガトーカマンベール考案者のシェフのもとへ帰国の挨拶へ行ったときショーケースの中には「そのケーキ」が有りました。当時の独特の味がさらに進化し個性のある味に生まれ変わっていました。その時の僕にはもう「美味しい」としか感じなくなっており、ふとあの時の言葉を思い出しました。
「10人のうち1人か2人に好きになってもらえれば良い」
その言葉の裏にはいろんな意味が込められているのだと思いますが僕には「すべての人に受け入れてもらえなくても必ず見てくれている人が居る」「見てくれている人に向かって作ればいい」「ほんとにいいものなら見てくれている人は必ず少しずつ増えてくる」と思えました。
シェフはある方との間にこのケーキで交わした約束がありましたが今はもう引退をされ、その約束を僕が叶えられるとも思わないけれど、何かがずっと引っかかりお店を初めてからも何度も試作をしては立ち消えになりを繰り返しました。そして16年が経ち、やっと自分自身納得のいけるものが出来ました。
どれだけの人に美味しいと思ってもらえるかは分からりませんが、自分を信じ少しずつでもこのガトーカマンベールを見てくれる人が増えていくことを願い、繫いでいこうと思います。