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血の呻き/沼田流人(著)

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北海道のプロレタリア作家・沼田流人(ぬまた・るじん)。当時のタコ部屋(監獄部屋)を主題とする長篇小説。ロマンス要素が強め。 新字・現代かなづかいにあらため、人名や読みにくい漢字…
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2022年5月の記事一覧

血の呻き 上篇(1)

血の呻き 沼田流人・著          一  彼は、胸の上に頭を垂れて、ぼろぼろな小さ…

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血の呻き 上篇(2)

         二  瘠せこけた、冷たい指が彼の顔をつついた。 「何だ」  明三は、恐ろ…

血の呻き 上篇(3)

         三  次の日、明三が戸口から出ようとする時、背後から追ついた少女が声を…

血の呻き 上篇(4)

         四  明三は、渇いた者のように酒場に飛込んだ。彼は、誰かに言葉をかけ度…

血の呻き 上篇(5)

         五  赭土の丘の上の監獄では、老耄れた看守長が、彼を待っていた。総ての…

血の呻き 上篇(6)

         六  明三は、その終日を海岸の壊れた倉庫の中で、眠っていた。そして、日…

血の呻き 上篇(7)

         七  彼は、悩ましい思いに充された、心の盃を抱いて、酒場へは入って行った。  日の落ちた、暗い地の上に、欷歔のように冷たい雨が降りしきっていた。 「やあ、来た、来た!」  入口に近い壁に靠れていた痘面の靴修繕師が叫び出した。向うの隅の方の壁の下では、五六人の彼の仲間が、何か声高に言い争っていた。明三は、そこへ引ぱって行かれた。 「さあ、今度は俺が、誰かを殺してやる。その時、お前がまた俺の首に縄をまいてくれ」  靴修繕師は、舌縺れしながら、呟いて彼にカップを

血の呻き 上篇(8)

         八  白痴の茂が、路傍に蹲んでいた。それは、荒れはてた二階建の空屋の前…

血の呻き 上篇(9)

         九  風は煙のように砂塵をまきあげてのろのろと地の上を這い流れた。軒の…

血の呻き 上篇(10)

         一〇  彼は、W町の角で物思わしげな顔をして、向うから歩いて来るきく子…

血の呻き 上篇(11)

         一一  昼過ぎに彼は、看板屋を出て寺へやって行った。  時子は、寺の裏…

血の呻き 上篇(12)

         一二  明け方、明三がまだ眼を覚まさないうちに、靴修繕師の叫声がした。…

血の呻き 上篇(13)

         一三  明三は、走ってD寺にやって行った。軍隊払下の破服を着た男は、あ…

血の呻き 上篇(14)

         一四  雪子は、床の上へ起き上っていた。彼女は、長い間じっと彼を見ていたが一言も、彼の事を聞かないで、強くその首を抱きしめて低声で言った。 「今日はね、あの窓の外の空地へ連れてって下さいな。私もう歩けるのよ」 「僕、死ぬ程もこき使われて来たんだよ……」  明三は、弁解するように口の中で呟いた。 「でも、雪子さんは、いいの、事実に……」 「いいのよ、ね」  彼女は、そこに坐っていた老医師に言った。老医師は、憂わしげな顔をしたが、弱々しい声で答えた。 「ええ、